多品種栽培に限界、ゴボウ専門農家になる

東広島市豊栄町のOKファームは、広島県で唯一のゴボウ専門農家。面積70アールのゴボウ畑を川手さんが一人で管理しています。寒暖の差が激しい豊栄町で収穫されるゴボウは、香りの高さと柔らかさが評判で引く手あまた。にもかかわらず、現在は売上の約8割を加工品にシフトしており、生鮮品としてはほとんど取り扱っていないと言います。

川手さんが、新卒から2年間勤めた会社を脱サラし、豊栄町で農業を営む祖父のもとへ押しかけて就農したのは2011年のことでした。

もともとタバコ農家だったという祖父は、農地転換でキャベツなど約15品目の野菜を生産していました。川手さんもまた、祖父に野菜作りを教わり、畑の一部を借りて少量多品目の個人農家として営農を開始しました。

「少量多品目はどうやっても経費が掛かり、自分一人でやっていくには労力も足りません。集約しようと考えて、作っていた野菜の中で最も需要が多く、比較的管理がしやすいゴボウを選びました。悩まされていた鳥獣被害に遭いにくいことも大きな理由です」と川手さん。2016年ごろからゴボウにかじを切り、2018年には完全にゴボウ専門農家になりました。

初めての加工品、ゴボウ茶の教訓

時を同じくして、生産したゴボウを使った加工品の製造・販売にも乗り出しました。OKファームのゴボウは通年栽培で直売所でもよく売れていましたが、加工品を作ろうと思った理由は、経営をより安定させたい、というもの。「消費期限の長い加工品なら、販路を増やし、今までと違うお客さまと出会える」と考えたそうです。

「生のゴボウは野菜の中では日持ちするといっても、収穫から1週間が限度です。『それなら乾燥させてお茶を作れば半年は在庫として持てる』と、当時は思ったわけです」という川手さん。その言葉には敗色が滲んでいます。

最初に作った加工品はゴボウ茶でした。販路は道の駅の他、レストランなどの飲食店。食前茶として提供し、お土産コーナーにも置いてもらえるという話があったことから、野菜乾燥機を導入しました。しかし、収穫したゴボウを下処理し、乾燥させ、袋詰め、配送までを一人で手作業で行っていたのがまずかったと川手さんは振り返ります。これでは、大口の注文が入ると肝心の農作業に手が回らないためです。

「注文が増えれば増えるほど、困った事態になってきました」と川手さん。「製茶工場に製造委託しようにも、最小ロットは1万セットから。「製造したお茶をさばけるのか・・・という不安と、そもそも一人で加工用のゴボウを収穫、発送できるのかという不安を抱えた状況。その時は挑戦する勇気がありませんでした」と言葉を続けます。自分一人で農業を続けていくには、ゴボウ茶は断念せざるを得ませんでした。

そうこうするうちに、今度はコロナ禍がOKファームを襲います。販路開拓に力を入れ、主要な取引先となっていたレストランが軒並み休業。その年はSNSを通じて知り合った全国の方々からの「応援購入」もあり、なんとか年を越すことができました。

しかし、「来年もコロナの影響が続けば、今度は乗り切れないかもしれない・・・」と感じ、再び加工品開発にチャレンジすることになります。
食品加工のプロデューサーに相談を持ちかけ、提案を受けたのが、後にロングセラーになるあられ菓子「バリバリごぼう」でした。

ゴボウを粉にして、加工品に集中

2021年に発売した「バリバリごぼう」は、ゴボウを粉末加工してあられにまぶしたあられ菓子。広島ブランドのお菓子として各種メディアでも紹介され、1袋(130g)税込み500円以下という手頃な価格も相まって直売所の売れ筋となりました。

しょうゆベースの同商品は発売以来、安定した人気を誇り、年間の販売数は約1万袋で推移。累計3万8000袋を売り上げ、4年目で4万袋に届くペースでロングセラーを更新中です。

2024年初めに製粉工場で生のゴボウをまとめて製粉加工するルートを確保して、加工品の生産拡大へと踏み出しました。同年春には新商品の「ごぼうが香るオニオンスープ」(税込700円/8食入)を発売し、Amazonでの販売もスタート。全国に販路を広げる構えです。

「何百キロものゴボウを粉にするのは勇気が要りますが、年間の粉の使用量と商品の販売量がつかめて、採算が取れる見通しが立ちました」と川手さん。「菓子は賞味期限の4カ月で1000袋をさばけば、天気に左右されずに収入が得られ、いわゆる規格外のゴボウでも安定した売り物になります。スープに至っては1年間ストックできる商品なので販売量を増やしていきたいです」と今後の展望を語ります。

この春から「ゴボウを売らないゴボウ農家」を自称しており、6次化へのシフトへ向けて歩みを進めています。

音声配信で顧客づくり、コミュニティに答えあり

「ゴボウを売らないゴボウ農家」とは、加工品が売れることで生鮮品としてゴボウを売らなくて済むという川手さんの青写真。実現するためにクリアすべき課題も見えてきました。

まず改善すべきは「バリバリごぼう」の形状と荷姿。加工品の販路としてECを活用したいところですが、直売所での販売を想定したため、ネコポスなどのポスト投函配達サービスが利用できません。配送単価を最小化するにはケース売り(12袋)をせざるを得ません。その教訓から、新商品のスープはポスト投函やついで買いを想定して開発しました。

「お客さまからバリバリごぼうの半量のサイズやチャック袋の要望をいただいているので考えたいと思っているところです」と川手さん。ここでいうお客さまとは、音声配信のリスナーのこと。顧客づくりの手段として、動画、ブログ、インスタなどのSNSを一通り試した結果、音声配信が最も自身に合っていたそうです。

「音声配信は、他のSNSに比べて話し手とリスナーさんの距離がとても近いんです。応援やアドバイスをもらって商品開発に生かしています」と川手さん。リスナーはOKファームのいわばホット客。2023年4月に音声配信を開始して以来、毎日10分の配信を欠かさず、2プラットフォーム、3チャンネルでパーソナリティーをしています。

「一人でできる生産規模で、加工品を売って収益を最大化して、音声配信を使ったコミュニティ作りで事業を推進していきたい」と、「ゴボウを売らないゴボウ農家」への道筋を語ってくれました。

取材協力