金時人参とはどんな野菜?

金時人参は、セリ科ニンジン属の野菜で、アジア型ニンジン(東洋系ニンジン)の代表的な品種です。日本に現存するアジア型ニンジンは本種のみといわれています。西洋ニンジンと比べて長く伸び、長さ70cmになるものもあり、外皮だけでなく中まで独特の紅色をしているのが特徴です。

主に関西地方で、少なくとも江戸時代から生産されている、正月料理やお雑煮に欠かせない野菜です。京都府の「京のブランド産品」、大阪府の「なにわの伝統野菜」(原産地・大阪市)に認証されています。京都府で生産される金時人参は「京にんじん」とも呼ばれます。香川県が生産量全国1位で「本紅金時(ほんべにきんとき)」は坂出市・観音寺市の伝統野菜です。

味の特徴

西洋ニンジンと比べて、肉質は緻密で柔らかく甘みが強いのが特徴です。セリ科の野菜に特有の香りは控えめです。

旬の時期

金時人参は11月から2月に収穫される冬野菜です。旬は12月から1月で、この時期に最も味が良くなり、多く出回ります。正月料理の食材として需要が高く、12月が出荷の最盛期です。

含まれている主な栄養や効果

金時人参は、βカロテンが豊富に含まれる緑黄色野菜です。また、独特の紅色はリコピンによるもので、西洋ニンジンには含まれていません。カリウムも比較的多く、葉には葉酸が豊富に含まれています。

βカロテン

赤橙の色素成分で、体内でビタミンAに変換され、皮膚や粘膜、目の健康に役立つとされています。強い抗酸化作用を持ち、体内の活性酸素を除去する働きが期待されています。βカロテンは、加熱することで吸収率が高まり、効率的に摂取できます。

リコピン

カロテノイドの一種で、強い抗酸化作用を持ちます。トマトに多く含まれますが、金時人参にはより多くのリコピンが含まれています。

カリウム

カリウムはミネラルの一種で、ナトリウムの排出を助け、細胞の浸透圧を調節する働きがあります。

葉酸

葉酸は水溶性のビタミンで、赤血球の生成を助け、DNAなどの核酸やタンパク質の合成を促すなど、体に重要な栄養素です。

金時人参の育て方

金時人参の栽培は発芽が最も難関で、乾燥させないことがポイントです。プランターでも栽培できますが、根を長く伸ばすため十分な深さが必要です。まきどきは、7月上旬から8月下旬ごろ(関東以西)。種は「本紅金時」を使います。

畑の準備

種をまく2週間前までに畑に堆肥・元肥、石灰をまいてよく耕し、幅90cm、高さ10cmほどの畝を立てます。プランター栽培は市販の野菜用培養土を使います。

種まき

畝の表面をならし、条間20cm程度のまき溝をつけて、状まきします。好光性なので覆土は薄く5mmほどにして鎮圧し、たっぷりと潅水(かんすい)します。

水やり・間引き

発芽するまで種の乾燥を防ぐために、朝夕にたっぷりの水やりをします。敷きわらや不織布などで覆うのもおすすめです。間引きは2回行います。本葉が1~2枚のころに株間3~4cmに間引き、5~6枚のころまでに株間10~12cmに間引き、条間に追肥をして株元に土寄せします。

収穫

根(首)の直径が3~4cmになり、肩の部分が張り出してきたものから順次収穫します。

金時人参を育てるときに注意したい病害虫と対策

金時人参に発生する主な病気には、うどんこ病、黒葉枯病などがあります。害虫はキアゲハ(幼虫)に注意が必要です。

うどんこ病は冷涼多湿で発生しやすく秋に注意が必要です。予防は風通しと水はけをよくし、うどんこ病が発生した株は早めに抜き取ります。

黒葉枯病は肥料切れや高温多湿で発生しやすく秋口に注意が必要です。予防は風通しと水はけをよくし、適宜追肥をして、黒葉枯病が発生した株は早めに抜き取ります。

キアゲハの幼虫はセリ科の植物につきやすく葉を大量に食害します。防虫ネットをかけて防除し、幼虫(青と黒の縞模様のイモムシ)を見つけたらすぐに除去します。春から秋にかけて注意が必要です。

金時人参の選び方

色が鮮やかなものが新鮮です。手に持ったときに重みが感じられ、皮に張りがあり、傷がなく、葉の付け根が黒くなっていないものを選びましょう。

金時人参の保存方法

洗わずに表面が乾いた状態で新聞紙で包み、ポリ袋に入れて冷蔵庫の野菜室へ。2週間ほど保存できます。

金時人参の食べ方とレシピ5選̟+1

金時人参は火を通すと紅色が一層鮮やかになります。煮物、雑煮、かやくご飯に加えると彩が良くなります。肉質が緻密で荷崩れしないので梅形などの飾り切りに向いています。お正月料理などでは皮をむきますが、皮の苦みはほどんど感じられず、むかずに食べることもできます。ここでは、正月料理にもなる手軽に作れる3品と甘みを生かした洋風メニューを紹介します。

白味噌の雑煮

出典:農林水産省「うちの郷土料理」|画像提供元 : 公益社団法人京のふるさと産品協会

京都で伝統的に食べられている白みその雑煮は金時人参の紅色が鮮やか。伝統的には縁起物の芋頭(里芋の親芋)や小さいサイズの雑煮大根を使いますが、レシピはそろえやすい材料を代用しました。

材料(2人分)
・金時人参     50g
・大根       100g
・里芋       2個
・昆布だし     3カップ
・白みそ      大さじ5

作り方
1.里芋(頭芋)は皮をむき食べやすい大きさに切り、大根、金時人参は輪切りにする
2.鍋に湯を沸かし、里芋を竹串が通るまで茹で、ザルにあげる
3.大根、金時人参は輪切りにして茹で、ザルにあげる
4.別の鍋に昆布だしを入れ、沸騰したら白みそを入れて溶く
5.丸餅を焼き、茹でた里芋、大根、金時人参と共に椀に盛り、4を注ぎ入れる
※かつお節(分量外)をかけても良い

紅白なます

なますとは、細く刻んだ材料を調味酢などで和えた料理。正月のおせち料理の一品、紅白なますのニンジンは、金時人参を用いると紅色が映え、味わいも深まります。

材料(作りやすい分量)
大根    400g(1/3本)
金時人参  100g(1/2本)
塩    小さじ1
酢    大さじ3  
砂糖 大さじ1.5   

作り方
1.金時人参と大根は皮をむいて千切りにする
2.ボウルに1を入れ、塩で軽く揉み、20分ほど置き、水気を絞る
3.容器に酢と砂糖を合わせて2に加え、1時間ほど置く

筑前煮

筑前煮(イメージ)

煮しめは通常材料ごとに調理しますが、筑前煮は材料を一緒に炒めて作ります。金時人参は、炒め煮しても形が崩れず、つゆがよくなじみます。飾り切りに挑戦してみても良いでしょう。

材料(2人分)
・金時人参 1/2本
・レンコン 1節(120g程度)
・ゴボウ  1/4本
・こんにゃく1/2枚
・鶏もも肉 1枚
・ごま油 適量
<つゆ>
・だし汁 1カップ
・酒   大さじ1
・砂糖  大さじ1.5
・しょうゆ 大さじ1.5
・みりん  大さじ1

作り方
1.鶏肉、金時人参、レンコンはひと口大に切り、ゴボウは皮をそいで乱切りにして水にさらしてあく抜きする。こんにゃくは一口大に切り、下茹でする
2.鍋に油を中火で熱し、鶏肉を炒め、色が変わってきたら、金時人参、レンコン、ゴボウを加えて炒め合わせる
3.つゆの材料を加えて合わせ、コンニャクを加え、蓋をして中火で10分ほど煮る
※彩に茹でたキヌサヤを器に盛った3に加えても良い

金時人参のロースト

金時人参の加熱で甘みが引き立つおいしさを生かして、オリーブオイルと塩だけで調味。シンプルな調理法ながら、食べ応えもあり、メインディッシュにもなる野菜料理です。

材料(2人分)
金時人参    1本
オリーブオイル 適量
塩       少々

作り方
1.金時人参はよく洗って皮付きで縦4~8等分に切り、塩をまぶす
2.アルミホイルを敷いた天板に1を並べ、全体にオリーブオイルをかける
3.トースターで15分ほど焼き、器に盛る
※あれば葉をちぎって飾る

金時人参のポタージュ

寒くなると食べたくなる冬野菜のポタージュ。旬を迎えた金時人参のコクと甘さで、ほっくり暖まるやさしい味に仕上がります。

材料(4人分)
・金時人参 1本 
・玉ねぎ  1/2個 
・バター  適量
・固形コンソメ 1個
・水    1カップ
・牛乳   2カップ
・塩    少々
  
作り方
1.金時人参は1センチ厚の輪切り、玉ねぎは薄切りにする
2.鍋にバターを熱し、金時人参と玉ねぎを炒める
3.水と固形コンソメを加えて金時人参が柔らかくなるまで煮る
4.ミキサーにかけて鍋に戻し、牛乳、塩を加えて温める
5.器に盛り、あれば金時人参の葉またはパセリ(分量外)を刻んで散らす

金時人参の甘いグラッセ

ハンバーグなど肉料理の付け合わせでおなじみのニンジンのグラッセを、金時人参を使って作ります。スイーツのように甘く煮たデザートにもなる一品です。

材料(作りやすい分量)
・金時人参 1/2本
・バター  小さじ2
・砂糖   小さじ2

作り方
1.金時人参は、長さ5センチで横に切った後、縦4等分に切り、面取りをする
2.鍋に金時人参、水(分量外)をかぶるくらい入れて中火にかけ、沸騰したら蓋をして柔らかくなるまで煮る
3.2にバターと砂糖を入れて弱火にし、汁気なくなり照りが出るまで煮詰める

鮮やかに冬の食卓を彩る日本伝統の人参

冬が旬の金時人参は、その特徴である紅色で、祝いの膳を華やかにし、日々の食卓に彩りを与えてくれる野菜です。西洋ニンジンが多く出回る中で、東洋種のニンジンは希少な存在。主に関西地方で栽培され、食文化としても継承されてきました。

正月の需要で全国的に出回る旬の時期、おせち料理の食材としてはもちろん、和洋いろいろな調理法で味わってみてはいかがでしょう。加熱で甘みが引き立ち、煮ても焼いても調理しやすく、色鮮やかで目にもおいしい伝統野菜です。

編集協力:一般社団法人日本伝統野菜推進協会
https://tradveggie.or.jp