過酷なアウトドア用途をメインに据えたスマートウォッチの選択肢といえば、GARMINやSUUNTOの上位モデルや、Apple Watch Ultraなどに限られていた印象がありました。一方、2024年には7月にサムスン電子ジャパンの「Galaxy Watch Ultra」も発売され、Androidユーザーにとっての新しい検討候補が増えています。
同モデルは、特にアクティブなライフスタイルを送るユーザーを意識して設計されており、驚くほどタフなボディが特徴。登山やウォータースポーツなどの本格的なアウトドアシーンでも頼れるパートナーとなるでしょう。
一方で、-20℃まで耐える動作温度の広さなどを目当てに、普段使いをしようと思った場合、重厚感のあるデザインが日常生活でどこまで馴染むのかについては気になるところ。本レビューでは、メーカーから借用したGalaxy Watch Ultraを使ってみた感想を交えつつ、その使い勝手についてお伝えします。
デザインはゴツいけど冬袖でも見やすい
Galaxy Watch Ultraは、1.5インチ(38.3mm)サイズの円形ディスプレイを搭載したスマートウォッチ。一方、ケース寸法は縦47.4×横47.1×厚み12.1mmで、外観的には角がラウンドした正方形のような印象です。
本体重量は60.5gあります。同ブランドのスタンダードモデルである「Galaxy Watch7」のケース重量が33.8gなので、重さはほぼ2倍。ユーザーの肌感覚としてもズッシリとした印象を受けます。
その分、耐久性はバッチリです。具体的には、米国国防総省が定める物資調達規格の「MIL-STD-810H」に準拠した耐衝撃性能を備えるほか、防水・防じん性能はIP68準拠のうえで最大100メートルの水深にも対応します。ちょっとやそっとじゃ壊れません。
ストラップバンドの着脱には、「ダイナミックラグシステム」という同社独自のデザインが採用されているのがポイント。要するに、まっすぐ押し込むだけでバンドが固定でき、裏側の取り外しようボタンを押せば簡単に外せるという快適仕様です。
なお、今回レビューで使用したバンドは、「Galaxy Watch Ultra Marine Band」で、ダイビング用途が想定されたもの。バンド部はうねうねと波打った形状になっており、バックルは、ピンが2つ並んだピンバックルです。装着時の安定感は高いですが、存在感がかなり強いので日常使いでの好みはハッキリ分かれるでしょう。
また、ケースサイズとバンドの取り付け形状が特殊なため、バンドの取り替え候補はやや限定的。公式では「Galaxy Watch Ultra Trail Band」(13,200円)などが候補になるでしょうが、一方で付け心地重視の日常向けバンドなどはあまり見当たりません。
アウトドアシーンだけでなく長時間の装着を視野に入れるならば、「Galaxy Watch Ultra バンド アダプター」などで検索してヒットするサードパーティ製のアダプターを駆使しつつ、22mm幅の一般的なバネ棒取り付け方式のバンドを駆使する必要があるでしょう。
アウトドアでも視認性が高い&情報量の多さが魅力
さて、実際にウォッチを装着してみた印象としては、中肉中背な男性の手に装着しても、かなり存在感を感じます。先ほどはさらっと数値を流してしまいましたが、ケースの厚みも1cmを超えていますので、横から見てもかなりゴツい印象です。
ただし、これにはメリットもあって、例えば、冬場に厚手のジャンパーを着るような場面でも、ウォッチ画面が袖口の中に埋もれにくく、時刻を確認しやすく感じます。
また、ディスプレイはAOD(常時表示)モードに対応しているので、画面を見るために腕を上げたり、画面をタップしたりといった操作をする必要もありません。
なお、筆者はキャンプをする機会が多いので、アウトドアシーンでパッと時刻を確認できるのは使い勝手が良いと感じました。画面輝度も最大3000ニトに対応しているので、直射日光下でもしっかり見えます。
特に、デフォルトの文字盤は情報量が多く、ベゼル近くにコンパス機能が表示されているのが秀逸。専用のアプリを起動することもなく、サッと方角を確認できるのは、アウトドア派にとって嬉しいポイントでしょう。
また、常時表示状態の画面を直接タップやスワイプして操作を開始できることも、操作感がスムーズでした。
ジェスチャー操作が超豊富。画面に触れずに操作が完了
同機を触っていて良いなと思ったのは、操作方法のバリエーションが多いこと。「設定」アプリにある「ボタンとジェスチャー」の項目から、各種操作のオン・オフ切り替えや挙動のカスタマイズができるようになっています。
まず、前提として、ケースには2時、3時、4時の位置にそれぞれ「ホームボタン」「クイックボタン」「戻るボタン」が備わっています。
どれもケースから大きくは飛び出ないように設計されており、例えば手首を手の甲側に「L」の字に曲げるような形で腕をついたとしても、ボタン類の誤操作の心配はほぼありません。
これらのボタンの機能は、ある程度カスタマイズできるようになっており、特に3時位置のクイックボタンは、複数の機能から任意のものを割り当てることが可能でした。例えば、ストップウォッチなどを配置しておくと、パスタをお湯に入れてボタンを押すだけで、すぐに時間を測り始められるといった具合です。
こうした仕様があったうえで、ジェスチャー操作が豊富に用意されているのがポイント。
まず基本のジェスチャー操作として(1)指先をトントンッと「ダブルピンチ」操作、(2)腕を軸に手首をブルブルと回転させるように振る「振って解除」、(3)ドアをノックするように手首をトントンとする「トントン」が用意されています。
そのうえで、さらに「ユニバーサルジェスチャー」機能を使うことで、画面上の項目の選択や決定、画面を戻る操作なども、すべてジェスチャーで行えるように細かく設定ができます。
具体的には「ピンチ」(項目を進める)、「ダブルピンチ」(項目を戻る)、「こぶしを作る」(決定)、「腕を肘側に向かって小さく振る」(戻る)、「こぶしを2回作る」(その他メニューを表示)――のような感じ。慣れれば画面に一切触れずともウォッチの操作が完結します。
なお、ユニバーサルジェスチャーはGalaxy Watch7など同ブランドのほかウォッチのいくつかのモデルでも使えるため、Galaxy Watch Ultraだけのユニークな機能ではありません。しかし、グローブを着用するなど、アウトドアシーンや寒冷地での使い勝手を考えるならば、Galaxy Watch Ultraでこそ便利な機能にも思えます。
一点、惜しいなと思うのは、物理的なダイヤルがあればもっと操作しやすかったかも、ということ。
一応、「タッチベゼル」という機能で画面の縁を長押しすることで仮想のダイヤル操作はできるのですが、グローブしたままだと使えません。クリックボタンもよくあるリューズを回すような操作には対応していないので、操作によってはユニバーサルジェスチャーのピンチ操作などの回数が多くなってしまい、腕が疲れやすいかもしれません。
ヘルスケアとスポーツ用途は? 若干の配慮が必要な場面も
Galaxy Watch Ultraは、測定できるヘルスケア機能も充実しています。
特に、Galaxy Watchシリーズでお馴染みの「体組成測定」が使えるのは、身体状況の簡易的な可視化を行って、健康習慣の改善のモチベーションアップに役立つでしょう。また、睡眠時に装着しておくことで、起床時に「エナジースコア」という数値を表示してくれることも、現状把握に役立つ機能です。
ただし、この重厚感のあるウォッチを装着したまま毎晩の就寝するには少し抵抗を感じます。睡眠測定やエナジースコアの算出は「使おうと思えば使える」という程度の認識で良いかもしれません。
どうしても使いたい場合には、先述のようにストラップバンドを優しい肌触りのものに取り替えるなど、工夫する必要があるでしょう。また、家族と川の字で寝るような家庭ならば、ウォッチケースを長袖の内側に忍ばせるような安全への配慮も欠かせません。
一方、Galaxy Watch Ultraはバッテリー容量が590mAhもあり(Galaxy Watch7では300mAhまたは425mAh)、AOD使用時でも最大60時間、省電力モードで最大100時間利用できるというスタミナを備えることは魅力。
先述のように60.5gという重量級のウォッチなので、それが気にならないパワフルな人に限定されるでしょうが、各種エンデュランススポーツで使うには適した一台と言えるでしょう。
実際、測定機能としても「マルチスポーツ」という測定メニューが用意されており、トライアスロン等のトレーニングに使えるようになっています。
メニューをカスタマイズすることで、「室内自転車」→「プールスイミング」→「ルームランナー」のように、日常的なトレーニング環境に合わせた内容に切り替えられるようにもなっています(※プールで、スマートウォッチが使える条件があるプールかどうか、場所によって異なりますので悪しからず)。
ただし、筆者のように「トライアスロンはしません」という方の方が多いはず。そんなライトユーザーでもウォーキングの自動記録機能は便利です。
ウォーキングを始めると自動的に記録が開始され、特に手動の操作をしなくてもログが残るので、使い勝手は良好。もし普段は通勤時の移動や、散歩くらいしかしないよ、という人ならば、こちらの方が恩恵があるかもしれません。
総評:アウトドア・スポーツ全般に最適。寒冷地での使用も◎
Galaxy Watch Ultraは、12万6940円という高価なスマートウォッチですが、防水仕様や長めのバッテリー持ち、測定機能などを踏まえて、トライアスロンをはじめとするエンデュランススポーツの競技者にはうってつけ。さらに、ハンズフリーでの操作方法も用意されており、カジュアルなアウトドアシーンで手袋やグローブを装着する機会が多い人でも、便利に使えることが魅力となるでしょう。
また、アウトドア向け仕様になっている恩恵として、動作温度が-20℃~55℃までと広くなっていることも見逃せません。ウィンタースポーツでの使用はもちろん、スポーツはさほどしないという人であっても、寒冷地での冬の日常利用に適した選択肢としては貴重な一台になるでしょう。
ただ、デザインはそれなりにゴツいので、豊富なヘルスケア管理機能も活かして夜間の測定にも使いたいという場合には、アダプター等を購入してストラップバンドを変えるなど、ちょっとした工夫が必要になるかもしれません。