初めて作る品種の難しさ

昨年は栽培技術の学び直しと自家製堆肥(たいひ)の品質向上を目的に、知る人ぞ知る堆肥名人・橋本力男(はしもと・りきお)さんに師事し、三重県津市での勉強会に1年間通い詰めました。

改めて品種選びの難しさを痛感したのが、これまで育てたことがない品種との出会いでした。中でも印象的だったのが、無農薬栽培に向いている品種の講義を通じて出会った「ちはまニンジン」。実際に食べさせてもらうとおいしく、形も良かったので、9月に播種(はしゅ)する形で育ててみました。

初期成長も良く、まるまると育つ様子に期待も膨らんでいったのですが、いざ収穫してみると、ほとんどのニンジンに割れが生じていました。どうやら我が農園「菜園生活 風来(ふうらい)」がある石川県は太平洋側と違い、冬場に雨が多いために水分過多がおこってしまったのだと思います。

農家になった当初は「品種より育て方の方が大切」「無農薬で栽培したら何でもおいしくなる」と思っていましたが、いざ実践すると同じ野菜でも品種によって収穫に大きな影響があることを実感した出来事でした。

種の選び方、買い方の基本

新品種の難しさはもう一つあります。種の選定です。
種苗メーカーはいくつもあり、品種もたくさんあります。商品として当たり前のことですが、どれも良いことしか書かれていないため、リサーチするのが大変でした。

そんな時に農家仲間から紹介してもらったのが、創業100年近くのある種苗店でした。その店でうちの地域について話したところ、「そこは土地が低くて水分過多の地域で砂地だね。それならこれが良いよ」と、うちに合った品種をいくつかすすめてくれました。

地域の種苗店に教えてもらったこの地域に合ったカブ

今の時代はインターネットを通じて全国どこからでも種が買えますし、海外のものも気軽に手に入ります。しかし、日本の国土は細長く四季もあり、気候も雨量も地域によって大きく違います。

まずは地域に昔からある種苗店に行き、それぞれの地域特性に合った品種を教えてもらう。それから少しずつ自分のところに合った品種を開拓していく、それが品種選びの近道だと思います。

少量多品目農家の品種選び

農閑期に種のカタログを見るのは農家にとって至福のひと時。毎年各種苗メーカーから新しい品種がリリースされています。少しでも良いもの、収量が多いものを育てたいのが農家の性(さが)なので、新しい品種にはひかれてしまいます。

栽培は1年1作のものがほとんどなので、育てるなら早めに導入、しかも全面切り替えしたいと思うのが人情ですが、そこはぐっと我慢。私も全面切り替えして何度も痛い目に遭ってきました。例えば、農家仲間からも評判の良い新品種のトマトに全部切り替えたところ、青枯れ病が発生して全滅してしまったことがありました。また、ジャガイモなどでも収量が激減したりと、失敗例を挙げると枚挙にいとまがないくらいです。

こうした経験から、いくらひかれた品種でも、まずはお試しで育ててみて自身の畑との相性を見る。品種の変更は多くても2割ぐらいまでがいいと実感しています。育ててみて良かったら少しづつ増やしていく。少量多品目農家にとって一番大切なのは豊作よりコンスタントに出すこと。リスクを少なくすることが何より大切だと気づいたのは農家になって10年たってからです。

加えて、前述したように、地域性や気候はもちろん、ビニールハウス向きなのか、化学肥料や農薬を使うかなどの前提を踏まえて品種を選ぶことが何より大切です。

風来では初期の頃にご近所の種苗屋さんから教えてもらった品種を今も育てています。 気づいてみると昔ながらの品種も多くあります。そういった意味においてもスタンダードな品種は安定しているなと思います。

そんな自分の畑に合ったスタンダード品種の後継品種を少しづつ導入してみるのも失敗しない方法なのかもしれません。

いろいろ育てて品種的に落ち着いてきたトマト類

今年育ててみてよかった品種、少量多品目に合った野菜

ここでは、 2024年から実験的に育ててみてよかった春・夏の品種を紹介します。
あくまで北陸地方で、かつ酷暑の中での営農条件ではありますが、これから新しい品種に挑戦する人の参考になれば幸いです。

ナント種苗 すずなりパンプティ
ミニカボチャでこれまでにない収量
ナント種苗 すずなりバタ子さん
バターナッツカボチャ。他のメーカーのバターナッツカボチャより収量が1.5倍
ナント種苗 夢ひびき
脇芽が大きく育つブロッコリー。5月、6月に重宝
タキイ種苗 赤まるみちゃん
赤オクラ。取り遅れても柔らかく見た目もきれい
サカタのタネ シカクマメ
サヤの断面が四角い豆。酷暑の8月に最盛期で春インゲンが終わった後に重宝
サカタのタネ セニョリータ
フルーツパプリカ。色づく前の肉厚ミニピーマンとして野菜セットに入れて好評
サカタのタネ オリーブヤングマン
淡い色のズッキーニ。高温多湿の北陸においても病気が少なく多収

友人農家から譲り受け、2024年から試験的に栽培した種

風来においては品種選びに関してはこのところ定番化されてきていたのでとても良い刺激となりました。
そしてこれまでさまざまな品種を育ててきて、少量多品目農家にオススメな品種も見えてきました。ここではその一例を紹介します。

増田採種場 カーボロネロ
別名黒キャベツ。1株から順次栽培することで長く収穫できる
サカタのタネ 食べる健康 ケール
フリル型のケール。葉野菜の少ない時期に重宝
タキイ種苗 小粋菜
カブの1種。葉の部分が水菜のような形で葉も楽しめる

少量多品目農家にとっては少ない面積で収量を増やすことが大切なので、株ごと1回の収穫で終わらず、葉や脇芽を収穫できるものが売り上げに直結していきます。

前述したように、品種を選ぶには地域の種苗屋さんに聞くのがよいと思います。しかし、ここ数年は酷暑、ゲリラ豪雨など気候の変化が大きく、これまでの常識が通用しないことも増えています。品種変更や新しい品種を取り入れる際には、住んでいる地域より西や南の暖かい地域のものを参考にするとよいかもしれません。