秋の気配を感じたのも束の間、一気に冬本番を迎え、肌の不調を感じる方も増えているのではないでしょうか。肌の調子が悪いとモチベーションにも響くことから、肌トラブルは最小限に抑えたいところ。今回は、秋冬の肌トラブルとケア方法について、富士見スキンクリニック 飯田橋の院長 小渕英里先生に伺いました。
夏の肌ダメージは遅れて出現 肌トラブルは乾燥だけでなくシミや色素沈着も
――こちらのクリニックでは一般皮膚科、美容皮膚科、アレルギー科を専門とされているそうですが、普段はどのような症状の方が来院されているのでしょうか。
小渕先生:湿疹やかゆみ、ニキビなどの肌トラブルの方が多く来院されます。多くは保険診療の範囲内で治療できるのですが、シミやニキビ跡といったより美容の側面が強いお悩みについては、保険が適応されない治療を美容皮膚科として行っています。
――美容に関する肌悩みで受診される方も多くいらっしゃると思いますが、秋冬はどのような肌悩みを抱えている人が来院されるのでしょうか。
小渕先生:この時期は、シミの相談が増えてきました。夏に紫外線を浴びて濃くなってしまったシミをなんとかしたいと皆様おっしゃいます。
――夏のほうが紫外線による肌悩みが多いものだと思っていましたが、確かに酷暑の中での通院をなるべく避けたい気持ちもわかります。
小渕先生:夏でも適切に紫外線対策をすれば、問題なくシミ治療をできるのですが、紫外線対策に自信がない、治療してもまたできてしまう……と思われる患者さまが多いですね。今年の夏は厳しい暑さが続いたのもあって、シミよりも、汗疹や湿疹など汗による症状の悪化で来院される方が多かった印象です。また、ニキビは夏に悪化しやすい傾向があるので、ニキビの腫れやおできで来院する方も多く見受けられました。汗と皮脂による症状の悪化が要因かもしれませんね。あとは、虫刺されや日焼けなど単発的なお悩みで駆け込まれる方もいらっしゃいました。
――秋に入ってからシミの相談が増えているとのことでしたが、夏に受けた紫外線によって、肌にはどのようなダメージが残っているのでしょうか?
小渕先生:紫外線によって細胞の中にあるDNAが壊されます。すると、シミのもとであるメラニン色素を作る細胞(メラノサイト)が活性化されるため、夏に日焼けをした場所が色素沈着したり、シミが現れてくることがあります。肌の新陳代謝が滞り、メラニンを含む古い細胞が溜まって、シミやくすみ、ごわつきが目立つようになります。また、バリア機能が低下し潤い不足になる、コラーゲンを分解してシワやたるみを引き起こすというようなダメージもあります。
――そんな夏の肌ダメージが秋冬になって現れてくるのですね。
小渕先生:時間差で気付く場合や、季節の変わり目に変化を自覚して、秋冬に来院される方は多いですね。夏の肌トラブルが蓄積されている中、急に涼しくなって、湿度が下がってきたので、乾燥によるトラブルも増え始めました。赤みや痒みが出てきたり、肌がガサついてしまったり……。さらに悪化するとじゅくじゅくしてしまうケースもありますので、その時々の状況と経過に応じて、塗り薬を処方するなど治療を行っています。
――色素沈着やシミが濃くなってしまった場合は、どのような治療を行なっているのでしょうか? あまり想像ができなくて……。
小渕先生:色素沈着は保険治療であるか自費治療であるかを問わず、治療が難しい症状です。炎症後に色素沈着になってしまったら、すぐに改善させられる治療薬はないので、ある程度の時間が必要です。皮膚観察用の「ダーモカメラ」は、皮膚表面の色素の状態が詳しく診察できるので、色素沈着や炎症の程度を確認した上で、治療方針を考えていきます。ビタミンCや炎症を抑えるトラネキサム酸、ビタミンEなどを含有している内服薬や美容液で症状の改善を促していきます。新陳代謝を早めるため、トレチノインやハイドロキノンという塗り薬での治療を組み合わせるなど、患者さん一人一人の症状に応じて対応しています。経過をダーモカメラの写真で見比べてみると、赤みがうすくなってきたとか茶色みが強くなったといった変化がわかりやすく、治療方針を決める参考にしています。さまざまなアプローチがあるとはいえ、炎症が色素沈着になってしまうと治療には時間がかかり、期待するほどの改善が得られないことも多く大変なので、皮膚科医としては、そうなってしまう前に皮膚科に相談してもらうことをお勧めしたいです。
秋冬の肌トラブルを防ぐための対策は?
――秋から冬にかけて注意すべき肌トラブルを教えてください。
小渕先生:秋冬といえば、まずは肌の乾燥によるトラブルが多いです。また、意外と甘く見られがちなのが紫外線です。夏と比べて紫外線が弱まってきて、紫外線対策を緩めてしまう方が多いのですが、この時期は、太陽が低く、夏よりも部屋の内側まで日光が入ってきます。紫外線はガラスを透過して肌の奥まで届く特徴があるので、外出時に限らず、屋内でも紫外線対策は一年を通して行うことが大切です。紫外線は日焼けやシミだけではなく、たるみやシワの原因にもなります。
――対策としてはやはり日焼け止めを塗ることでしょうか?
小渕先生:そうですね。季節によらず1年中、しっかりと日焼け止めを塗ることがまず第一です。日焼け止めと合わせて、日傘や帽子で対策することもおすすめします。
――紫外線対策を習慣化させることが大切なのですね。乾燥対策ではどのようなことに気を付けると良いでしょうか。
小渕先生:乾燥対策としましては、保湿剤を塗ることと、季節の変化に合わせて使うスキンケアアイテムを変えることですね。夏はさらっとした乳液でも良いですけど、冬はしっかりとクリームにするなど、塗るアイテムを変えるのも大事かなと思います。
――秋冬は乾燥と紫外線に注意、とのことですが、どんな症状が出たら病院に行くべきなのでしょうか? 肌トラブルを抱えていても、病院に行くのはハードルが高いと言いますか、自分でどうにかしようと思ってしまいます。
小渕先生:早く来ていただいたほうが早く対処ができるので、悪化しきってしまう前に、少しでも異変を感じて悩んでいるなら、受診したほうが良いと思います。日焼けの場合でいえば、シミや色素沈着が消えないとか急な日焼けなどは、1~2週間ほどで治療できますので。
――乾燥の場合はいかがでしょう。
小渕先生:保湿剤で言うと、市販でも良い保湿剤が売っているんですよね。クリニックで処方もできるのですが、成分や量が限られてしまいますので、意外に市販の保湿剤も、成分的にもテクスチャーにも良いものはあるので、まずはお風呂上がりや着替えのときに保湿剤を塗ってみてください。それでもカサカサしたり、赤くなったり、じゅくじゅくしてしている場合は、乾燥が1歩進んだ皮脂欠乏性湿疹の可能性があり、保湿剤だけでは治らないレベルになっているかもしれませんので受診をおすすめします。そのまま放置してかきむしってしまい、悪化すると、治療に時間と手間がかかってしまいます。保湿剤で言うと、クリニックで処方する場合、成分や量が限られてしまいます。最近はさまざまな保湿剤が市販されていて、成分やテクスチャーが良いものがあります。
――市販の保湿剤を塗って、しみてしまった経験があるのですが、そのようなときも受診したほうが良いですか?
小渕先生:保湿剤に尿素や合わない成分が入っているとしみることがあります。症状に応じた塗り薬を使用する必要があるので、クリニックを受診したほうがいいでしょう。
――市販の保湿剤を購入する場合、どのようなものを選べば良いのでしょうか?
小渕先生:ヘパリン類似物質、尿素、セラミドの3種類が配合されているものが良いですね。肌が乾燥している人は、特にセラミドが不足していたりするので、肌のバリア機能をきちんと働かせるためにも、セラミド配合のものを使ってみてください。
――受診すべき症状や具体的な成分まで伺えて勉強になりました! 詳しいお話をありがとうございました!