G大阪戦では90分までプレーした中野 [写真]=J.LEAGUE

 フル稼働での活躍でチームに大きく貢献した今季、最後に光ったのは悔し涙だった。「自分に力がなさすぎたので、優勝できなかった。まだまだです」。今季さらなる成長を見せたサンフレッチェ広島のDF中野就斗は悔しさとともにシーズンを終えた。

 広島は今季の明治安田J1リーグで19勝11分8敗の2位で終わった。首位と勝ち点差「1」で臨んだ最終節のガンバ大阪戦は1-3で敗れ、最低限必要な引き分け以上を達成できず、逆転優勝には届かなかった。90分までプレーした中野は敗戦後にベンチで号泣した。試合後のミックスゾーンでは泣き腫らした目で、「申し訳ない気持ちがいっぱいで、チームに優勝というタイトルで恩返ししたかった」と悔しさを口にした。

 ただ、最後まで優勝争いをして2位で終えた今季は中野の存在が不可欠だった。プロ2年目で選手会長も務めた今季、リーグ戦はフィールドプレイヤーでチーム唯一の全38試合に先発出場。そのうち33試合にフル出場した。国内カップ戦やACL2も合わせると、公式戦52試合出場とフル稼働。9月のACL2のカヤFC戦では、途中交代したMF青山敏弘から受け継いだキャプテンマークを巻いてプレーしていて、指揮官やチームメイトから厚い信頼を得ている。

 昨季の主戦場だった右ウイングバックだけではなく、今季は本職のセンターバックでも活躍した。DF荒木隼人の負傷離脱中には穴を埋めて3バック中央で堂々とプレーし、中盤が手薄になった時はセンターバックに入ってDF塩谷司のボランチ起用を可能にしてチームを支えた。DF佐々木翔、荒木、塩谷が君臨する広島の3バックでプレーするのは簡単なことではない。中野は、「どこで出ようが、このチームで試合に出るからには責任がある。責任感が伴うのでメンタル的にも鍛えられたシーズンでした」と胸を張る。

 パフォーマンスでも持ち前の高い守備力と迫力ある攻撃参加で大きな存在感を発揮した。特に昨季課題と言っていたはずの攻撃面では様々な顔を見せた。生粋のサイドアタッカーのように縦へ仕掛け、前線に残ればストライカーのように相手ディフェンスラインと駆け引きし、ボックス内で鮮やかなターンからシュートを放つ姿もあり、その巧みなテクニックで見る人を魅了した。

 今季はリーグ戦で5ゴール5アシストを記録。昨季はJ1でのゴールやアシストが遠く、「もっと点につながるプレーをしないといけない」とも話していが、それも遠い昔に感じるぐらいに今季は得点に絡んだ。FC町田ゼルビアとの大一番で勝利を呼んだ2アシストやセンターバックで出場した柏レイソル戦でパワフルな走力で駆け上がって決めた先制点など、記憶に残るシーンも多かった。だが、本人は決して満足していない。

「5ゴール5アシストはキャリアハイだけど、そういう結果にももっと目を向けていかないといけないし、守備でも無失点でチームに貢献していかないといけない。すべてにおいてもっとクオリティを上げていかないといけない」

 チームとしては優勝を逃したシーズン。特にラスト5試合は1勝4敗と失速が痛かった。「残り5試合で勝ち点を積み上げていれば、タイトルは見えていたと思うし、その甘さはまだチームとしても個人としてもあったと思う」。今季もさらに成長を遂げた年になったはずだが、最終節のあとは「やっぱり優勝して終えて成長できたと言いたかった」ととにかく悔しさしかなかった。

 今後に向けて「全体的にもっとレベルアップするだけ」と繰り返したように、今季の活躍にもつながったその飽くなき向上心がまた中野を突き動かしていく。「もっと絶対的な存在になるために、1回気持ちをリセットして、またやっていきたい」。今季最後に流した涙は、来季の輝きに変えていくはずだ。

取材・文=湊昂大