G大阪のFW坂本 一彩[写真=J.LEAGUE]

 宮本恒靖監督体制の2020年にJ1・2位と健闘した後、3シーズンは予期せぬ下位争いを強いられてきたガンバ大阪。しかしながら、ダニエル・ポヤトス監督体制2年目の今季はシーズンを通して上位争いを展開した。最終的には4位でタイトルこそ届かなかったものの、AFCチャンピオンズリーグ2出場の権利を残すことに成功。天皇杯準優勝含め、着実な前進が見られたシーズンだった。

 アキレス腱断裂から完全復活を遂げた“キャプテン”FW宇佐美貴史の目覚ましい働き、“守護神”GK一森純とDF中谷進之介が加入して安定感がグッと増した守備など、今季の躍進の要因はいくつかあるが、“若き点取屋”FW坂本一彩のブレイクも特筆すべきものがある。

 2022年にトップ昇格した彼は、1年目こそ9試合出場1ゴールとコンスタントな出場は叶わなかったが、2年目の2023年はJ2・ファジアーノ岡山へレンタル移籍。24試合出場4ゴールと経験を積み、今季古巣に戻って勝負をかけた。

 宇佐美を筆頭に実績のあるアタッカーが揃う中、ポヤトス監督は開幕・町田ゼルビア戦から坂本をスタメンに抜擢。本人は「J1でやっていけるのかな」と不安を覚えるようなスタートだったと明かすが、自分なりに手探りで適応を進め、4月に入るとサガン鳥栖、浦和レッズ、鹿島アントラーズ相手に3連発と結果を残す。特に浦和戦でウェルトンのラストパスを右足で決め切った決勝弾によって、彼はJ1の舞台で戦える確信を得たという。

「浦和戦で自信がついたことでプレーがメチャメチャ変わりました。今までは自分の得意なこと意外は自信を持ってプレーできなかったり、不安な要素がめちゃくちゃあったけど、そこからは自信を持ってやれるようになりました」

 しかし、若い選手に波はつきもの。夏場以降は小さな壁にもぶつかった。チームが失速し、宇佐美依存の傾向が顕著になった時、坂本は思うようにゴール数を伸ばせなかった。

 そういった中でも天皇杯では準決勝の横浜F・マリノス戦で値千金の決勝ゴールを決めるなど活躍し、ファイナル進出の原動力に。その大舞台でG大阪は宇佐美という大黒柱をケガで欠き、攻撃の迫力を出し切れずに、0-1で苦杯を喫してしまった。

 試合後、坂本は「宇佐美さんがいなくて『自分がやらなきゃいけない』『点を取らなきゃいけない』と思っていたし、ここまで良い調子できていたからイケると思っていたけど、そこまで簡単な話ではなかった。自分が決め切って頼られる選手にならないといけない。これを残りのリーグ戦や来季に生かしたい」と苦渋の表情を浮かべつつ、先を見据えていた。

 それを結果で示したのが、12月8日の今季最終節・サンフレッチェ広島戦だった。鈴木徳真の右CKをキッカケに、最終的にウェルトンが入れた横パスを決め切った13分の先制弾を皮切りに、広島を追い詰める。その後も引いて確実にボールを収め、スルーパスを出すなど、最前線のアタッカーとしてやるべきタスクを確実にこなしていく。この日も宇佐美は欠場していたが、その穴を全く感じさせない傑出したパフォーマンスを見せつけた。

 そのうえで、ラスト1分というところでウェルトンのスルーパスに鋭く反応。チーム3点目をゲットし、自身のシーズン10点目をマークしたうえ、3-1の勝利をもぎ取ったのだから、最高のシナリオだ。21歳での2ケタ得点というのは、ユース時代に師事した元日本代表FW大黒将志も達成していない記録。坂本はガンバの輝く未来を自ら示して見せた。

「まさか今日2点決められるとは全然思っていなかった。でも1点取ったあたりからは可能性が出てきて、途中からは狙ってました。今日の広島は思っていたのとはちょっと違っていた。もっと球際激しくて、前からガンガン来るようなイメージだったから。今日の試合では今シーズン通して自分がつかんできたものを全部出せたのかなと思います」

 1つの達成感を口にした若武者をチームメイトも称賛。シーズン序盤から「点を取れ」と言い続けていた中谷も「嬉しかったですね。こぼれ球にああやって反応したのも、動いてる選手にしか来ないゴール。しかも若いし、本当に素晴らしい選手だと思います」と目を細めていた。

 これで来季、宇佐美と坂本が2大得点源に君臨していけば、Jの頂点も見えてくるのではないか——。もちろん若い選手は海外移籍も視野に入ってくるだろうが、そうなる前にとにかく点を取りまくってG大阪を勝たせてほしいところ。

 坂本も「来季は全てにおいてレベルを上げていかないといけない」と危機感を口にしたが、やはり上には上がいる。世界を見れば、2023年U-20W杯をともに戦ったチェイス・アンリはUEFAチャンピオンズリーグに出ているし、福田師王もすでに5大リーグデビューを果たしている。

 坂本が彼らを追い越し、近い将来、日本の看板アタッカーになってくれば理想的。本田圭佑、堂安律らが歩んだ系譜を、彼にも引き継いでもらいたいところだ。

取材・文=元川悦子

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