日本人初のUFC王者誕生はならず─。12月8日(日本時間)、米国ラスベガス、T-モバイルアリーナ『UFC310』でフライ級王者アレッシャンドリ・パントージャ(ブラジル、34歳)に挑んだ朝倉海(JTT、31歳)は、2ラウンド失神一本負けを喫した。

UFC初参戦での快挙達成に自信をうかがわせていた朝倉は、なぜ敗れたのか?パントージャ戦の「敗因」と朝倉海の「これからの闘い」を考察する。

打撃を恐れなかったパントージャ

  • 朝倉海
    (C)U-NEXT (C)Zuffa LLC / UFC

「これがUFCだ!ここが最高のレベルなんだ!日本からやって来て、すぐに俺のベルトを奪えると思ったのか? そんなもんじゃない。ここはUFCで、俺の場所だ」

完勝で王座防衛を果たした直後、オクタゴンの中でパントージャは、興奮気味にそう話した。我々、日本のファンにとっては残念な結末。UFC王者の実力が、RIZINの主役だった男を上回っていたと認めるしかなかった。

1ラウンド、朝倉は果敢に攻めた。飛び込んでパンチを放ち、得意のヒザ蹴りも繰り出した。ここで一撃を決めたかったが、さすがにパントージャはそれを許さない。逆にプレッシャーをかけ左フックを炸裂させた後にグラウンドに持ち込み、試合の主導権をUFCルーキーに握らせなかった。

続く2ラウンドにはバックを取る形で組みついたパントージャがグラウンドの展開に持ち込み、すかさずチョークを決める。何とか逃れようと試みる朝倉だったが、ここで勝負あり。タップを拒み失神したところでレフェリーが試合をストップした。

朝倉の動きは決して悪くなかったと思う。彼の「敗因」はイコール、パントージャの「勝因」だ。パントージャは、朝倉の打撃を恐れなかった。被弾覚悟で前に出るのにはリスクが伴うが、それを厭わず自らのペースに試合を持ち込んだのである。

これまでの朝倉の対戦相手の多くは、打撃を警戒するあまりに前に出られなかった。そのため朝倉は自らの距離で闘うことが比較的容易だったが、パントージャ相手にはそうはいかず。身長こそ低い王者だがフィジカル、テクニック、判断力においても、これまでの対戦相手を上回っていたのだ。

それでも勝機がなかったわけではない。1ラウンド2分過ぎに見舞ったカウンターでの左ヒザ蹴り、3分30秒で繰り出した左ハイキックがクリーンヒットしていたなら戦況は変わっていただろう。スタンドでの打撃スピードでは朝倉が優っていた。それを活かし切れなかったのは、UFCでのキャリアの差も無関係ではなかったように思う。

フライ級で闘い続けるのか?

さて、UFCデビュー戦で完敗した朝倉の今後はどうなるのか? 一夜明けて朝倉はインスタグラムを更新し、こう綴っている。

「たくさんの応援ありがとうございました。結果で返せなくて申し訳ないです。素晴らしいチャンピオンだった、そして自分がまだ弱かった。今回は届かなかったけど、必ず這い上がってチャンピオンになる」

すでに朝倉は、前を向いている。考えられる今後の流れは次の2つだ。

1つは、パントージャへのリベンジを目指す。その場合、フライ級の上位選手と闘い勝利しランキング入りする必要がある。来年1年間は、ランカー相手に試合を続けることになるのではないか。

UFCフライ級の上位ランカーは次の通りだ。

  • 1位ブランドン・ロイバル(米国、32歳)
  • 2位ブランドン・モレノ(メキシコ/前王者、31歳)
  • 3位アミル・アルバジ(イラク、31歳)
  • 4位カイ・カラ・フランス(ニュージーランド、31歳)
  • 5位平良達郎(BLACK BELT JAPAN、24歳)

彼らとの試合が組まれれば、朝倉にとっては幸運だが、6位以下、もしくはランク外の選手との対戦を求められることも十分にある。RIZINで2度対戦し1勝1敗のマネル・ケイプ(アンゴラ、31歳)が9位、ランク外には朝倉を挑発し続ける鶴屋怜(BLACK BELT JAPAN、22歳)もいる。鶴屋は朝倉がパントージャに敗れた1分後、Xにこう投稿した。

「朝倉海はUFCチャンピオンにふさわしくない。日本人初チャンピオンは俺がなります」

パンクラスの元フライ級王者・鶴屋との対峙もあるかもしれない。

2つ目は、階級をバンタムに戻すパターン。その場合も、まずはランキング入りを目指さねばならない。王者は、朝倉と親交のあるメラブ・ドバリシビリ(ジョージア、33歳)。ランキング上位にはショーン・オマリー(米国/元王者、30歳)、ウマル・ヌルマゴメドフ(ロシア、28歳)、ピョートル・ヤン(ロシア/元王者、31歳)ら強者が名を連ねる。バンタム級はフライ級よりも選手層が厚い。王座挑戦に辿り着くにはフライ級以上に茨の道を進むことになる。 フライ級にとどまる可能性が高いと見るが、本人の選択は如何に─―。

朝倉海は今回、MMA(総合格闘技)世界トップに躍り出る千載一遇のチャンスを逃した。だがUFC初挑戦でタイトルマッチに挑めたことは、スペシャルだったと考えるべきだろう。そして、今回の大会でUFCを日本のファンにさらに浸透させた。闘いはここからだ。2025年、朝倉海の「真の挑戦」が始まる。

なお、「UFC 310:パントージャ vs. 朝倉海」試合の模様は、U-NEXTにて見逃し配信が2025年1月6日まで実施されている。