第83期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は6回戦が進行中。12月6日(金)に佐々木勇気八段―増田康宏八段の一戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、相掛かり空中戦のねじり合いから抜け出した増田八段が103手で勝利。鋭い寄せを決めて挑戦権争いに踏みとどまりました。

注目の上位対決

佐々木八段4勝1敗、増田八段3勝2敗で迎えた本局は上位陣同士の直接対決。翌週に竜王戦七番勝負第6局を控える佐々木八段の作戦にも注目が集まります。増田八段の先手番で始まった対局は相掛かりから空中戦へと進展、早い段階で角交換が行われ持久戦に落ち着きます。後手の佐々木八段は序盤に取った9筋の端の位が生きるよう穏やかな駒組みを心がけています。

一方の増田八段は陣形の進展性で劣るため積極的な指し回しで局面を動かすことが求められます。右銀をスルスルと3筋に繰り出したのは後手玉そばの急所に拠点を作るための布石。これに反応した佐々木八段が攻防の自陣角を打ったことにより、にわかに盤上が動き出しました。先手は敵陣に作った成駒を、後手は駒得を主張して戦いは終盤戦へ。

銀捨ての応酬、結果は…

形勢が傾いたのは日付が変わる直前のことでした。佐々木八段が残り時間のほとんどを費やして選んだのは金と銀を相次いで相手に差し出す勝負手。形勢容易ならずと見た打開策ですが、感想戦では銀捨てに代えて桂を跳ねる軽い受けが正着との結論に。これについて佐々木八段は感想戦で「(桂跳ねの受けは)負けに見えた」と打ち明けました。

最終盤にしてようやく優位に立った増田八段は冷静でした。5筋に打たれたタダの金を時間差で回収したのが読みの入った好手。直後の銀捨てが用意の決め手で、この一手により佐々木玉は一気に受けなしに追い込まれました。終局時刻は翌7日0時21分、最後は反撃の目が途切れたところで佐々木八段の投了となりました。

これにより勝った増田八段、敗れた佐々木八段ともに4勝2敗に。佐々木八段の受けの勝負手と増田八段の寄せの決め手はいずれも銀のタダ捨ての形を取りましたが、その効果のほどが明暗を分ける形になりました。なおA級は6回戦途中の段階で、暫定的に4名の4勝者が現れています。

水留啓(将棋情報局)

  • 直近の公式戦5連勝と好調を見せる増田八段

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