三省堂は12月3日、「三省堂 辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2024』選考発表会」を実施し、2024年を代表・象徴する新語ベスト10を発表した。

  • 今年の新語2024

新語の選定にあたっては一般公募を行い、応募総数は延べ1,813通(異なり958語)となった。これらの投稿などをもとに、辞書を編む専門家である選考委員が一語一語厳正に審査し、「今年の新語2024」ベスト10を選定した。それぞれの意味を解説する。

  • 今年の新語2024

大賞は、かつて学術用語だった「言語化」

大賞に選ばれたのは、かつては学術用語だった「言語化」だった。一見、変哲のない日常語であると意外に思われるが、の語はかつては学術用語として、硬い文章語として使われてきた。したがって、「一般化」や「正当化」を載せる国語辞典も「言語化」は見出し語に立っていなかった。それが最近、誰もが使う日常語に変わってきた。新聞などでの出現件数も2020年代に入って急増している。「うまく言語化できないんだけど」「言語化が下手すぎる」「(私の代わりに)言語化ありがとうございます」ど、「言語化」は頻用されている。日頃見聞きしたものをどのように頭にインプットし、どのようにイメージ化し、ことばに出すか。そういった言語化のプロセスについて、人々が深く考えるようになったのかもしれない。ことばの力がますます求められる時代の象徴として、「言語化」は大賞にふさわしいと判断された。

  • 言語化「三省堂現代新国語辞典」小野正弘先生

  • 言語化「三省堂国語辞典」飯間浩明先生

  • 言語化「新明解国語辞典」編集部

  • 言語化「大辞林」編集部

「ずっこける」だけでなく「横転」、その他

2位の「横転」もすでに国語辞典に見出しのある日常語。しかし、このところSNSなどのやりとりでは何かと使われるようになっている。「偏差値下がってて横転」「1年前も同じこと言ってて横転」「推しが可愛すぎて横転」などなど。実例を見ると、どれも中心には驚く気持ちがある。ただし、それだけでなく、場合によって落胆する、苦笑する、あきれるといったニュアンスが加わる。従来の俗語で言えば「ずっこける」が一番近いかもしれない。

3位は「インプレ」だった。「インプレッション」の略だが、インターネットでは「広告表示」や「投稿の表示回数」の意味で俗称として使われる。SNS空間にはびこり、情報伝達を阻害する「インプレゾンビ」ということばとしても広がった。

4位の「しごでき」は2020年代になって広まってきた。「シゴデキ」とも書かれる。「仕事ができる」の略で、仕事に有能な様子を指す。「しごはや」「しごおわ」「しごおつ」など、仕事の意味での「しご」の付く語が広がりを見せている。

5位の「スキマバイト」も、仕事・労働関係。単発・短時間で柔軟に働けるアルバイトのこと。忙しい学生などでも空いた時間を利用して働くことができ、雇用側も急な人手不足を補うことができる。スマホでマッチングアプリが使われることで可能になった、新しい働き方。

6位の「メロい」は、「めろめろになるほど相手がかっこいい、可愛い」ということ。多く、推しているアイドルに使う。「めろめろ」から「メロい」になるような、オノマトペ由来の形容詞は珍しく、「メロい」は、オノマトペ由来の形容詞を代表することばとして定着するかという点でも注目される。

7位の「公益通報」は本年、兵庫県知事への告発をめぐって注目された用語。刑法などの法規に違反する行為を知った人が、不正な目的でなく行う内部通報のこと。告発した人は、解雇などの不利益を被ることがないよう、法律によって保護される。今回、「公益通報」の認知度が上がり、辞書に載るべき用語になったのは間違いない。

8位は「PFAS」。有機フッ素化合物の総称で、一部の物質が有害とされている。自然環境の中で分解されにくく、人体に入ると健康被害を引き起こすことが指摘されている。泡消火剤などに使われたPFASによって、日本を含む世界各地の水源が汚染され、問題化した。

9位は「インティマシーコーディネーター」。映像や写真の制作現場で、俳優やモデルに裸体や性に関する表現を求めるにあたって、制作側と出演者側との調整役となり、撮影のサポートなどの業務に携わる職業で。映像・写真の制作現場でもハラスメント防止の意識が高まったことが背景にある。

10位の「顔ない」は若い世代を中心に使われていることば。意味はやや曖昧なところがある。「遅刻しそうで顔ない」と言えば、「驚いた」「困った」といった感じ。「質問に答えられなくて顔ない」は「恥ずかしい」「情けない」といった感じだろうか。「顔色(かおいろ)をなくす」「顔色(がんしょく・かおいろ)を失う」(ともに、驚きや恥などで青くなる)など従来の日本語を連想させる部分もあり、若い世代が作り出したことばが、伝統的な日本語とどこか通じるのは面白い現象といえる。

3語の選外

  • 選外

上記の10語以外に、惜しくもランキング入りを逃した語として「界隈」「裏金」「アニマルウェルフェア」3語が選ばれた。

「界隈」は投稿数第2位だった。「新宿界隈」などの従来の用法を超えて、「サブカル界隈」「言論界隈」など「ある分野(の人たち)」の意味で多く使われるようになったが、すでに三省堂国語辞典にはその意味があるため入選とはならなかった。

「裏金」も投稿数が多く3位だった。本年は政治家のパーティー収入が政治資金収支報告書に不記載だった事実が表面化し、「裏金」と強く批判される事態になった。すでに辞書にある語で、それを超えた新しい意味にまでは至らないと考えられ、入選ならず。

「アニマルウェルフェア」は「動物福祉」とも訳される。世界的な動物に対する社会意識の高まりが感じられる。

選考委員が選出した10語

上記ベスト10を検討するにあたり、それぞれの選考委員が選出したイチ推しの10語は下記の通り。

「三省堂現代新国語辞典」小野正弘先生
裏金、○○界隈、公益通報、新NISA、スン(ッ)、耐える、デコピン、道義的責任、メロい、両片思い

「三省堂国語辞典」飯間浩明先生
インティマシーコーディネーター、インプレ、横転、顔ない、言語化、しごでき、好き、DEI、データドリブン、メロい

「新明解国語辞典」編集部
イマーシブ、推し活、オヤカク、○○界隈、観光公害、スキマバイト、スン(ッ)、沼る、まるハラ、メロい

「大辞林」編集部
アテンションエコノミー、アニマルウェルフェア、インプレゾンビ、MBTI、推し活、きゅるきゅる、トクリュウ、猫ミーム、PFAS、まるハラ