野村佑希が新しい主砲になる2025。開幕4番指名こそモチベーター新庄監督の…

サプライズ連発のファンフェス

 ファンフェス2024の「開幕予告」は文字通りサプライズだった。対戦相手の西武がファン感で開幕・今井達也を発表していたから開幕投手は言うだろうなと思っていた。金村尚真抜擢はビッグチャレンジだけど、ホーム開幕にエース伊藤大海を持ってくる意味合いもあっただろう。新人王の記者投票が0票だった(あり得ない!)金村には実力で見返してもらいたい。開幕投手は良いモチベーションになるだろう。

 

 が、新庄剛志監督はそこで終わらない。「開幕4番」に野村佑希、「開幕抑え」に齋藤友貴哉と田中正義を指名した。僕も長いこと野球を見ているが、こんなのは初めてだ。キャンプ、オープン戦の調子もわからないうちに開幕戦オーダーの骨子を発表してしまった。さすが派手好きな新庄さんだ。

 

 エスコン場内は歓声とどよめきにつつまれた。「抑えの抑え」の田中正義以外は大胆起用だ。僕がグッときたのは「開幕4番」を言われた野村佑希の引き締まった顔と、GAORAのカメラが抜いた清宮幸太郎、万波中正の柔らかな表情だった。ファンフェス最大の見どころはあのシーンではなかったか。

 

 たぶん心の準備のない一瞬に、人の本心や関係性みたいなものは見えてしまう。そのシーンは本当に温かな光景だった。賭けてもいいが清宮や万波だって「開幕4番」が打ちたいはずだ。だけど、表情のどこにもそんな色は見せない。野村が指名されたのを心から喜んでいる。がんばれ、お前を待っていたという無言のメッセージだ。

 

 ああ、鎌ヶ谷で腕を磨いたこいつらはホントに仲がいいんだなと思う。お互いを認め合っている。みんなで超えて行こうと本気で思っている。ファンの反応がまた温かかった。みんな野村佑希を心配していた。「56試合、打率2割1分、2本塁打、9打点」(2024年シーズン)なんて誰が考えてたっておかしい。

 

 僕は以前、「目の覚めるような野村佑希の活躍を、僕らは忘れないようにしよう」(2020年7月11日、文春野球)というコラムを書いて、彼のファンから大ブーイングを食らったことがある。コロナ禍で6月開幕の短縮シーズンとなった2020年だ。ビヤヌエバに代わって開幕スタメンを務め、チームに新風を吹き込んでいた野村が右手小指を骨折、手術をして全治3か月の診断を受けた。まことに痛恨の極みだったが、僕はそれまでの野村の活躍を記事に残したいと思った。最高だったのだ。「スター誕生」としか言いようのない輝きだった。ジェームス野村佑希こそ、ファイターズの新しい主砲になる男だと確信した。

 

 その記事がなぜファンの大ブーイングを浴びたかといえば、タイトルだった。「‥活躍を、僕らは忘れないようにしよう」はもしかすると今季絶望かもしれない野村を慮(おもんぱか)ってのものだったが、なんとなく死んじゃったみたいに聞こえるというのだ。二度と見ることのない「一瞬の輝き」について書いたように響く。中身を読むとそんなに酷いことは書いてないが、とにかくタイトルが悪過ぎる。書き直してほしいetc.

この時期に発表する狙い

 読者の多くは知らないと思うけれど、記事のタイトルは(大概の場合)著者じゃなくて、担当編集者がつける。当コラムも担当のT川さんが読者の興味をひきそうなタイトルつけてくれて、いつも感謝している。「僕らは忘れないようにしよう」に含意はない。野村佑希は骨折でリタイアしただけで、死んでなんかいない。長期離脱しても、あの輝きを忘れないようにしよう。戦列復帰したとき、あの「つづき」を見せてもらおうということだった。

 

 だけど、野村が「ファイターズの新しい主砲」になる日は遠かったのだ。守備の不安もあいまって、不振をかこつ日々が続く。2024シーズンは清宮が出遅れ、サードのポジションを奪うチャンスだったが、郡司裕也に先を越された。(言霊信仰みたいな話をするつもりはないが)ブーイングを浴びた「目の覚めるような野村佑希の活躍を、僕らは忘れないようにしよう」はタイトル通りになってしまった。

 

 野村佑希が幸せなのは、首脳陣も仲間もファンも皆、彼の魅力を忘れていないことだ。もっとシンプルに「信じている」と言ってもいい。僕もCSの原稿のどこかに野村佑希の名前を入れ続けた。フェニックス組は呼び戻されにくいかなと思っても、彼は野村佑希なのだ。代打の1打席でどんなドラマを巻き起こすかわからない。

 

 いや、正直に言えば「野村佑希」の名前を書きたかったのだ。新庄監督の「開幕4番」は胸のすく思いだった。世の中には心配性の人がいて、「今から言われたら調整が難しい」とか「重圧に潰されてしまう」とか不安材料を挙げる。僕はプロが本当に怖れるのは「期待されなくなったとき」「忘れられたとき」だと思う。重圧があるから生き甲斐があるのだ。

 

 万が一調整がうまく行かなかったり、キャンプでケガをしたら「次のチャンスに賭ける」でいいじゃないか。肝心なのは野村が(そして、金村、齋藤、田中が)気持ちをたぎらせてオフを過ごし、新シーズンの準備をすることだ。僕は野村佑希に燃えてほしい。しかし、この辺りはモチベーター新庄剛志の真骨頂だなぁ。