◆住宅ローンの残債が多く、老後が不安。保険を見直したら家計も赤字になりました
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。
今回の相談者は、ご近所トラブルに巻き込まれ夫50歳時に想定していなかった住宅購入をしたという51歳パート主婦の方。
現在の住宅ローン残高は約2500万円。このまま繰上返済をしないと退職時に約1989万円の住宅ローンが残るという匿名希望さんのお悩みに、ファイナンシャル・プランナーの畠中雅子さんがアドバイスします。
◇相談者
匿名希望さん
女性/パート・アルバイト/51歳
持ち家(一戸建て)
◇家族構成
夫(54歳・会社員)、子ども2人(20代、1人は就職して独立)
◇相談内容
5年前、夫50歳の時に新築一戸建てを購入。借入額は2980万円、繰上返済をしないと完済は80歳です。
それまでは公営住宅に住んでいてそのまま住み続ける予定でしたが、ご近所トラブルに巻き込まれ引っ越しをしました。
夫は61歳で退職、その後アルバイトをする予定です。退職金は900万円くらい。私は8年前からフルタイムで働き、定年は65歳ですがいつ雇用終了されるかは不明。給料は頭打ちです。
相談は、繰上返済をすべきか、老後資金に残すかそのタイミングを知りたいです。土地と建物を別々のローンで組んだため、定年までに建物のローンは完済したいと思っています。
私が先に死んだら夫にローンがすべてのしかかるので、なるべくその場合の出費を減らせたらと生命保険も無理して見直し、金額がアップしました。定年までに支払いを終わらせるため出費がかさんでいます。
教育費は子ども2人の奨学金返済です。大学の入学金に充てるため借りました。返済は親がしています。
貯金をしていればよかったのですが、主人の母に毎月援助をしていました。子どもの教育費が終われば貯金できると考えていましたが、住宅を購入してしまったのでいま必死に貯めています。
いろいろとネットで調べていますが、老後に不安もあるし、ローンはなるべく早く返したいしで悩んでいます。どうかアドバイスお願いします。
◇家計収支データ
匿名希望さんの家計収支データは図表のとおりです。
◇家計収支データ補足
(1)義母への援助について
主人の母には結婚当初から援助していたが、今はしていない。ただ、現在も年金がほぼない状態で、母が亡くなった時の葬儀代もないので、貯金から出すことになる。
(2)ローンについて
<建物>
購入時の物件の状況:新築
物件価格:3410万円(※土地建物、諸経費込)
頭金:土地と合わせて500万円
ローン残高:1069万円
借入期間:29年(355カ月)
金利のタイプ:変動、金利1.475%(※8大疾病つき)
毎月の返済額:4万2428円
固定資産税:13万円
<土地>
土地価格:1687万円
ローン残高:1460万円
借入期間:30年(360カ月)
金利のタイプ:変動、金利1.475%(※8大疾病つき)
毎月の返済額:5万7778円
(3)車両費について
今年、普通車から軽自動車に買い換えた。夫の話では5年乗って下取りに出し高値で売り、軽自動車(150万円くらい)を購入予定。
(4)加入保険について
●相談者
・生命保険(定期死亡保険15年500万円、終身医療入院7000円、3大疾病倍額)=毎月の保険料8000円
・生命保険(終身、65歳払込、死亡200万円)=毎月の保険料1万1694円
・個人年金保険60歳まで(60歳から5年間、年40万円+α)=毎月の保険料1万円
●夫
・生命保険(終身、61歳払込、死亡100万円、病気5000円、3大疾病倍額)=毎月の保険料4万745円
・生命保険(終身、65歳払込、死亡200万円)=毎月の保険料1万3916円
(5)毎月の貯金について(相談者コメント)
給料から13万円と、別途、私の母親から毎月3万円もらっている。それを合わせ毎月16万円を貯金している。
しかし昨年保険の見直しをして、夫の生命保険などがかなり高くなったため、それまでは収支がトントンだったが、それ以降赤字になってしまった。
私は働けるなら定年までと思うが、一年雇用で体力面も不安。
上の子どもは同居していて生活費を3万円入れてくれ、そのうち2万円は貯金。いま100万円貯まっている(これは貯蓄900万円に含まれていない。将来のために貯めているけど、どうしてもという時は使うことを子どもに伝えている)。
(6)ボーナスの主な使い道について
・夫婦小遣い→夏冬、各3万円=計12万円
・固定資産税13万円(相談者の給料で固定資産税分を貯金しているが使っていない)
・地震保険2万円、スーツ代2万円。臨時の出費など。
相談者コメント「昨年までは残りを夏冬各10万円繰上返済用の預金に入れていたが、今年から赤字なので補てんもします。住宅ローン減税等で戻ってきた20万円は繰上返済口座に貯金」
(7)年金について
・夫:65歳から受給した場合……190万円/年額
・相談者:65歳から受給した場合……107万円/年額
(8)奨学金について
・第1子:借入額127万円(利子なし)、返済額1万円/月、残額50万円、あと4年で返済予定
・第2子:借入額171万円(利子なし)、返済額1万円/月、残額105万円、あと6年で返済予定
(9)家族について
夫婦2人とも持病があり定期的に薬をもらっています。仕事でケガをした時の通院代がかかることもある。
◇FP畠中雅子の3つのアドバイス
アドバイス1:まずは収支を正しく把握することが第一歩
アドバイス2:最優先すべきは住宅ローンの繰上返済
アドバイス3:家計の見直し、夫61歳以降の働き方の再考を
◆アドバイス1:まずは収支を正しく把握することが第一歩
貯蓄が増えないという人に多いのが、収支をきちんと把握できていないことがあります。匿名希望さんの場合も、まさにそれではないでしょうか。
夫の収入は交通費5万6000円を含めて31万円とのことですが、支出に交通費の費目がありません。ということは、収入は25万4000円ということになります。
また毎月の貯蓄は16万円とありますが、収入が44万4000円で支出が約35万~38万円。現在は保険の見直しで保険料が高くなったため赤字になったとのことですが、これまでは毎月16万円を貯められていたのでしょうか。
ボーナスの支出の内訳も、明記されているのは49万円。これまでは赤字補てんはしていないとのことですから、残りの51万円は何に使われたのでしょう。
まずは、正確な収入、支出、貯蓄額を整理してみてください。通帳などをさかのぼれば内訳まではわからなくても、収入や支出、貯められたお金はわかるはずです。
これらの金額を正しく把握することが、家計の見直しや将来の不安を解消する対策を考えるためには絶対に必要です。
◆アドバイス2:最優先すべきは住宅ローンの繰上返済
匿名希望さん自身もおわかりの通り、家計の最大のリスクは住宅ローンです。繰上返済をしないと毎月約10万円の返済が、夫80歳まで続きます。
退職時(61歳)のローン残高は約1989万円。退職金を返済に充てても完済できませんし、毎月の返済額は年金から支払うには負担が大きすぎます。
そこで、まずは土地と建物のローンを1本にして、借り換えを検討してはどうでしょう。年齢とローン残高を考えると簡単ではないかもしれませんが、変動金利ならば0.6%程度になるはずです。
8大疾病付が3大疾病になるなど条件は少し悪くなるかもしれませんが、少なくとも退職時のローン残高を56万円程度は減らせます。
匿名希望さんの家計にとって、この金額は見過ごせないメリットだと思います。現在借入れをしている金融機関はもちろん、複数の金融機関にあたってみてください。
万が一のことがあったら団体信用生命保険で保障されるから、急いで返済する必要はないという人がいますが、男性の平均寿命は80歳を超えています。住宅ローンの返済を急がないことのリスクは、かなり大きいと考えるべきでしょう。
◆アドバイス3:家計の見直し、夫61歳以降の働き方の再考を
退職まであまり時間がありません。今日からできることは何でもやって、1円でも多く、1日でも早く住宅ローンを返済することを目指しましょう。
ネット銀行など、金額にかかわらず手数料無料で繰上返済できる金融機関も多いです。家計をやりくりして、毎月1万円でも、2万円でもいいのでこまめに繰上返済をしていくのです。
まずは第1子が家計に入れているお金の一部を貯めた100万円で、第1子の奨学金と第2子の奨学金の半分を返済してしまいましょう。
無利子だから急がなくてもいいという考え方もありますが、複数の債務を並行して返済するのは貯められない人にとってハードルが高い作業です。債務を住宅ローンだけに絞ることで、繰上返済できた額が明確になりモチベーションもアップします。
また、子ども2人の結婚資金を貯めているようですが、結婚資金を貯める前に奨学金返済、そして住宅ローン返済が優先です。結婚資金の援助をしても住宅ローンの返済が終わらなかったら、その方が子どもに迷惑をかけることになると思いませんか。
次は家計費の見直しです。まず通信費は、夫婦2人で2万2000円は高いです。格安SIMにすれば、6000円程度に収まるはず。すぐ見直しをしてください。
光熱費も平日の日中は不在の大人3人家庭としては高めです。使い方にムダがないか振り返ってみてください。
新電力会社に変更したり、電気とガスをセットにするなど契約方法で節約することも可能な時代ですから、複数の事業者でシミュレーションをしてみるといいでしょう。
昨年見直したという、月の保険料が約4万円という夫の生命保険は再考の余地はないのでしょうか。
払込期間が短いとはいえ、死亡保障が100万円ということは保険料を貯蓄すれば約2年で貯まる金額です。支払い保険料と保障内容を見比べて、メリットとデメリットを冷静に検討してみましょう。
掛け捨ての医療保険(日額5000円)なら、夫の年齢でも年払いの保険料が4万円程度の商品もあります。
また、夫は61歳で退職しアルバイトをする予定とのことですが、この住宅ローン残高はアルバイトで返済できる金額ではありません。65歳まで継続雇用で働くことは避けられないのではないでしょうか。
もちろん、5年で買い替える予定という車も再考の対象です。車の買い替えは先送りにしてでも、住宅ローンの返済が優先。とにかく家計の現状を夫婦で共有し、夫にも協力してもらいましょう。
いろいろ厳しいアドバイスをしましたが、匿名希望さんも厚生年金に加入しているので、夫婦ともに年金を受給するようになれば月額約25万円。
住宅ローンさえなくなれば貯蓄を取り崩さなくても生活していける家計ですから、逆に老後の不安は小さいといえます。だからこそ、とにかく住宅ローンの返済を最優先して早期の完済を目指しましょう。
◆相談者「匿名希望」さんから寄せられた感想
アドバイスに目を通しましたが、自分自身、長年見て見ぬふりをしていた部分を指摘され、さらにそんな状況ではないことに今更焦りを感じた次第です。
この相談をするにあたり何度もチェックしたはずなのに、保険金額がすでに給料天引きされている金額を含めて相談していたり、まさしく、収支を把握できていないからと思いました。
子どもに迷惑かけたくないので、住宅ローンの繰上返済をしっかりやりたいです。このたびはありがとうございました。
教えてくれたのは……畠中雅子さん
ファイナンシャル・プランナー。大学時代からフリーライターとして活動し、出産後にマネー分野を専門とするライターとなりFP資格を取得。新聞・雑誌・WEBなどに多数の連載やレギュラー執筆を持つとともに、セミナー講師、講演などを行う。「教育資金作り」「生活設計アドバイス」「住宅ローンの賢い借り方、返し方」「オトクな生命保険の入り方と見直し方」などのテーマを得意としている。
取材・文:鈴木弥生
文=あるじゃん 編集部