市制100周年を迎えた川崎市は、2024年に多彩なイベントを開催しており、NTT東日本 神奈川事業部はそれをデジタル技術で支援している。11月2~3日に開催された「Colors,Future!Summit 2024」を通じて、川崎市の考える未来を伺ってみたい。
市制100周年を迎えた川崎市
2024年7月1日、神奈川県川崎市は市制100周年を迎えた。この記念すべき節目を契機に、次の100年を見据えた「あたらしい川崎」の実現を目指し、川崎市は多彩なイベントを開催している。
11月2~3日に開催された「Colors,Future!Summit 2024」もそんなイベントのひとつ。
「川崎から『まち』と『社会』の未来を考え、広げる2日間」をテーマに、産官学民が一体となって地域の未来と新しいアクションを考えるカンファレンスとなる。
カンファレンスの期間中は、「川崎愛 遊びつくす3日間」と題され、「みんなの川崎祭」「川崎夜市」「かわむすのおんがえし」などのイベントも同時開催。川崎駅周辺がフェスティバル&カンファレンスの熱気で包まれた。
これらのイベントをデジタル技術等で支援したのがNTT東日本 神奈川事業部だ。同社は「全国都市緑化かわさきフェア」を始めとした川崎市のさまざまなイベントを陰ながら支え、共に次の100年を見据えた取り組みを進めている。
「子育て世帯の豊かさ・幸福の向上につながる多様な働き方の選択肢が創る川崎の未来」と題したセッションには、NTT東日本 執行役員 神奈川事業部長 相原朋子氏、NTT東日本 神奈川事業部 企画総務部 広報担当課長 水谷次郎氏が登壇。子育て中の働き方について、実体験を交えて語るワンシーンもあった。
今回は川崎市とNTT東日本 神奈川事業部の担当者に、川崎市市制100周年記念事業にかける思いとイベントの意義について伺った。
「子育てって楽しい」というメッセージを伝えたい
「市外の方に向けて『来てください』とアピールすることも大事ですが、川崎市は市民に向けたプロモーションをより強く行っています。地域への愛着や誇りを感じてもらって、市民の方々に元気になってもらうことで、おのずと川崎に人が集まってくると考えています。だから市制100周年記念事業は、川崎という街をより好きになってもらう機会にしたいと思って進めてきました。」(川崎市 小池氏)
川崎市 総務企画局 シティプロモーション推進室 市制100周年記念事業担当 担当部長の小池智也氏は、このように行政のスタンスを語る。
ロゴマーク「Colors,Future! Actions」で示されているように、川崎市市制100周年記念事業のコンセプトは、一人ひとりの市民や関係する企業・団体、そして川崎市がともに未来の川崎を考え、創っていこうというもの。
民間から募った参加者を中心とする「フェス&カンファレンス製作委員会」が、多彩な企画を立案している。
この製作委員会に今年から参加しているのが、NTT東日本 神奈川事業部 ビジネスイノベーション部まちづくり推進グループ 担当課長の千原史也氏だ。
2023年度は「防災」をテーマにしたが、2024年度は子育て世代の働き方を中心に、多様な川崎市民、川崎で働く方々にとってよりよい未来をつくることを目標として活動。「Colors,Future!Summit 2024」においては映像制作や配信編集など、NTT東日本グループの技術を活用してカンファレンス全体を支援したと言う。
NTT東日本 神奈川事業部は「子育て世帯の豊かさ・幸福の向上につながる多様な働き方の選択肢が創る川崎の未来」というトークセッションを企画したが、このテーマを選出した経緯は3つあるそうだ。
まずは、「川崎の特徴を捉えた未来」。川崎市は21大都市のなかでもっとも平均年齢が低い街(令和2年国勢調査)であり、若い世代が多いことから、子育て世代も多いという特徴がある。
次に、千原氏自身が7歳と4歳の子どもを持ち、働き方の変化に伴い育児に協力をしているものの、企業制度や行政支援が十分に整備されていないと感じたこと。
最後は、2020年のコロナ禍をきっかけに社会が大きく変化し、リモートワークが普及したことで、働き方に選択肢を持てるようになった点だという。
「川崎の未来を先に見据え、そのうえでNTT東日本として何ができるかを考えました。私たちには働き方改革の実績がありますので、その具体例を交えてお伝えすることで、良い未来も悪い未来も含め子育てについて深く討議できると思いました」(NTT東日本 千原氏)
当日のセッションでは、NTT東日本の2人に加え、日本女子大学 人間社会学部教授 現代女性キャリア研究所 所長の永井暁子氏、シーエスデー 代表取締役社長の呉京美氏も登壇。
日本の子育ての現状をはじめ、海外の子育て環境や女性の働き方、男性の育児休業、行政や企業による育児支援について熱のこもった議論が交わされている。
セッションを振り返り、NTT東日本の千原氏は自身の思いを次のように語る。
「事前にディスカッションさせていただいて、やはり『子育てをしている日本のパパさんママさんは無理をしている』という声をよく聞きました。海外ではもっと緩やかに子育てをされているそうです。我々としては『子育てって楽しいものだよ』というポジティブなメッセージを伝えたくて、それを実現するための環境を企業がしっかり行った上で、より明るい未来を作りたいなと思いました。商品・サービスだけでなく、人もまたNTT東日本の強みですから」(NTT東日本 千原氏)
また川崎市役所の小池氏は、川崎市における女性の働き方について言及し、民間企業の協力に感謝を述べた。
「川崎市では人口も税収も伸びており、女性も働きやすくなったのではないかと感じます。いわゆる女性の労働力率におけるM字曲線があり、子育て世代の就業率が下がる傾向があるのですが、川崎市はあまり下がらないんですよ。税収が伸びている要因でもあるのではないでしょうか。保育所の整備など行政も努力を続けていますが、やはり民間の方々がそういう環境を作ってくださっていることが大きいと思います」(川崎市 小池氏)
川崎市の強みは多様性にあり
「Colors,Future!Summit 2024」では、NTT東日本が参加したセッション以外にもさまざまなチャレンジが提案された。今までにないところでは一杯のコーヒーから広がるまちの可能性をディスカッションしたものや、10代のための"政治"キックオフミーティングもあったという。
また、同時開催されたColors,Future!Summit 2024のフェスティバル会場では"この先の食文化"をテーマに「プラントべースミート」や「卵を使わない卵」を使ったハンバーガーがテスト販売され、約500個を売り上げる人気を博したそうだ。
「『Colors,Future!Summit 2024』は、産官学民それぞれのリソースや強み、特徴を重ね合わせてアクションにしていこうという試みです。NTT東日本さんのデジタル技術の力があったり、飲食に携わる方の未来に向けた提案があったり、若い人たちの政治のセッションがあったりと、本当に多種多様な人たちが組み合わさったイベントになったなと思います」(川崎市 小池氏)
このようにさまざまなアクションが生まれる理由は、川崎市が本当に多様性を大切にしており、また実際に多様性に溢れているからだろう。
高齢の方と話をすると、同市には川崎生まれではない人の方が多い。歴史的に、働くために川崎に住み始めた人が多いからだ。
いろいろな人が集まって発展してきた経緯があるだけにストリート文化も盛んであり、若者が新しいカルチャーを切り開いていく土壌もある。
「川崎市はそれぞれの区に独自の文化があります。歴史の長い臨海部に事業転換が起こっていますし、逆に北部は豊かな緑を大切にする活動に熱心です。しかし地勢的に細長いがゆえに、縦方向の交流はそれほどないんですよ。こういったイベントが川崎市民の文化交流になり、それぞれの区の良さをお互いに知っていただきたいと思っています」(川崎市 小池氏)
NTT東日本は、この川崎市各区の魅力発信にも貢献している。デジタルマップやデジタルスタンプラリー、人流分析といったデジタル技術を活かした取り組みがその代表例だ。
自治体はそういったノウハウが民間に比べ乏しい傾向にあるため、川崎市も取り組みを歓迎している。
100周年記念事業は一年間だけのお祭りではない
年の瀬が迫り、川崎市の市制100周年も間もなく終わりを迎える。
しかし、川崎市役所の小池氏は「市制100周年記念事業は、そもそも1年間だけのお祭りではありません」と話す。
「100周年を迎え、ここから未来へどうつなげていくかがもっとも重要です。今回、市役所前の道路6車線をすべて歩行者に開放して『みんなの川崎祭』を開催しました。これは新しい公共空間の活用方法に挑戦する試みでもあったんです。Colors,Future!Summit 2024のカンファレンスを通じて多くの課題が浮かび上がっているので、セッションで終わらせることなく、ここから実際に事業を生み出し、次回のColors,Future!Summitでその成果を見せていくという長い取り組みにしていきたいと考えています」(川崎市 小池氏)
これに対し、NTT東日本の千原氏は次のように返答する。
「今回、いろいろな提案をさせていただき、『ここからがスタートだ』と実感しました。また、製作委員会の立場から見ても、多くの皆さまに来場いただいたことで将来への期待が膨らみました。各テーマをセッションだけで終わらせず、これからの100年につなげていきたいなと考えています。今後も、川崎の未来づくりに積極的に関わらせていただきたいですね」(NTT東日本 千原氏)
川崎市市制100周年事業で行われたさまざまなイベントで、川崎市民同士の新しいつながりが生まれている。小池氏はこれをさらに広げ、より強固にし、新しいチャレンジを行っていきたいそうだ。
「『川崎に来ればチャレンジができるんだよ』『川崎ってチャレンジできるまちなんだよ』ということを広く伝えていきたいと考えています。これこそが、市制100周年事業で生まれたきっかけを次のステップにつなげるものだと思っていますし、川崎市民の皆さんとともに『あたらしい川崎』を創り上げていくことを楽しみにしています」(川崎市 小池氏)