2018年、厚生労働省が副業・兼業の促進に関するガイドラインを発表し、副業解禁元年と言われ注目を集めた。それから6年が経ち、副業を認める企業や副業したいと考えるビジネスパーソンの割合は着実に増えている。

こうした社会の動きを背景に、人材サービスのビズリーチと独立行政法人国立高等学校専門学校機構(以下、高専機構)が連携して3年前にスタートした、「副業先生プロジェクト」の成果発表会に注目したい。

  • 3年前にスタートした「副業先生プロジェクト」の成果発表会

社会的課題を抱える分野で副業先生として活躍するチャンス

「副業先生プロジェクト」はビズリーチと高専機構が協定を結び、ビジネスの第一線で活躍するプロフェッショナル人材を教育の現場に招く取り組みだ。

報告会ではまず、高専機構の理事である梶山正司氏がこれまでの成果と新たな取り組みについて発表した。

「これまでに全国51校の国立高等専門学校のうち12校で『副業先生』を募集し、1,840名の応募がありました。そのうち64名が採用されています。学生からは『副業先生から話を聞くことで、キャリアを考えるようになった』、教員からは『副業先生との授業構築により、楽しく授業改善ができた』といった声が上がっています。また、副業先生からも『次世代の人材育成に貢献できる』等の感想が寄せられています」(梶山氏)

  • 副業先生が活躍する12校は、北海道や岩手県、宮城県、富山県、三重県、島根県、広島県、高知県、長崎県、熊本県、鹿児島県と地方に位置する 出典:「国立高専における副業先生の成果報告と新たな取り組みについての資料」

学生や教員、副業先生からも好意的な声が上がる同プロジェクトだが、これまでの募集はIT・情報科学分野に限られていた。今後、違う分野への広がりが期待できるのだろうか。この点についても、梶山氏から次のような報告があった。

「すでに佐世保高専や熊本高専においては半導体分野、広島商船高専では船の自動運転に関する副業先生を募集する計画が進んでいます。さらに、ウェルビーイングやアントレプレーシップ、GX(グリーントランスフォーメーション)といった分野への広がりも考えられます」(梶山氏)

いずれも社会的課題とされている分野。こうした領域で知見を持つビジネスパーソンは、副業先生として活躍する絶好のチャンスとなりそうだ。

教員志望者は減る一方で、副業では教育分野に高い関心

では、「副業先生プロジェクト」が成功した背景にはどのような要因があるのだろうか。ビズリーチで同プロジェクトを主宰した加瀬澤良年氏がこう解説した。

「まず挙げられるのは、人材の採用が難しい時代になっていること。次に、民間プロフェッショナル人材の教育分野への関心の高まりです。当社会員のアンケート調査では、75%が教育に携わることに関心があると回答し、かつ副業先生だけでなく学校に関するさまざまな支援で力を発揮できると考えているようです」(加瀬澤氏)

  • 出典:ビズリーチ「国立高専における副業先生拡大の背景について」

アンケート結果からは、ビズリーチ会員の教育分野への関心の高さと、そこで力を発揮したいという強い意欲が見てとれる。一方日々の報道では、教員採用試験における応募者の減少という話題が目につく。

フルタイムの教員として働くことには抵抗があるが、副業なら社会貢献度を実感できる分野で活躍したいという希望があるのかもしれない。

副業先生の経験が自身のキャリアや実務のプラスに

今回特に興味深かったのは、一関工業高等専門学校で副業先生として実際に活躍する3名の声を聞けたことだ。それぞれ、応募した動機や授業の感想等を語ってくれた。

  • 左から倉茂氏、芳賀氏、武藤氏

「私が同校の卒業生であったことと、もともと社内でサイバーセキュリティに関する実務者研修を行っていたことが動機です。授業は専門分野であるサイバーセキュリティを担当し、もっと自分のスキルレベルを上げたいというモチベーションにもつながりました」(倉茂氏)

「もともと教育分野への関心があって、自分自身のキャリア形成や社会貢献度の高さを考えて応募しました。授業では、倉茂先生と同様サイバーセキュリティを担当し、インシデント実習で学生とワイワイ盛り上がりました。学生たちや学校からのフィードバックが豊富で、実務面でもわかりやすく伝えるスキルを磨くことができました」(芳賀氏)

「学生時代、教員を志望していた時期もあって、そのときの夢を叶えたい気持ちで応募しました。授業では機械学習を担当し、学生が自ら集めたデータで生成AIソフトを動かす演習を行いました。教育現場は初めてでしたが、実務でも社内外に向けWebの講義をしているので、この経験が役に立つと思っています」(武藤氏) 

共通して語られたのは、副業先生の経験が実務面や自身のキャリアアップにも役立っていることだ。また、梶山氏が冒頭で紹介したように、副業先生が活躍する高等専門学校はいずれも都市部ではなく地方にある。

副業先生は教育分野で社会に貢献できるやりがいに加えて、学生たちの学びを深めることを通して、地域の活性化にも一役買っているようだ。