BioMarin Pharmaceutical Japanは11月30日、軟骨無形成症の当事者でありモデルや俳優として活躍する後藤仁美(ちびた)さん、カリスマ保育士のてぃ先生、小児科専門医の北岡太一先生をゲストに迎えた市民公開講座「家族と共に学ぶ軟骨無形成症」を開催。講座の模様は、オンラインでも生配信された。
■軟骨無形成症とは?
冒頭、医誠会国際総合病院 小児科の北岡先生が登壇し、軟骨無形成症の特徴について説明した。軟骨無形成症は、低身長や四肢・指の短さが生まれつき体に表れる指定難病。出生児の1万人から3万人に1人の割合でみられ、世界には25万人以上の患者がいる。日本では2万人に1人くらいの割合で生まれ、約6,000人の患者がいることが推定される。
軟骨無形成症は、出生時の身長はそこまで小さくないが、成長期になっても身長が伸びにくい。治療を受けなかった場合、成人になっても男性で131cm程度、女性で124cm程度になると言われている。
「軟骨無形成症は、軟骨が形成されないわけではありません。背が伸びるために必要な成長軟骨帯に問題が生じて、骨の成長が妨げられるというものです」と北岡先生。軟骨無形成症が原因の低身長に対する治療法については、CNP類縁体治療、成長ホルモン治療のほか、外科手術によって脚や腕の骨を伸ばす四肢延長術などが広く採用されている。四肢延長術では骨に切れ目をつくり、修復される段階の骨を器具を使ってゆっくり引っ張ることで、少しずつ骨を伸ばしていくという。
そもそも軟骨無形成症の原因は、FGFR3 (Fibroblast growth factor receptor 3)と呼ばれる遺伝子の変化にある。変化した遺伝子からつくられるFGFR3分子の働きに異常が起こり、成長軟骨帯にある軟骨細胞がうまく働かなくなるとのこと。北岡先生はこの後も専門的治験を踏まえて、様々な合併症や生活上の注意点について詳しく解説した。
■日常の困難をどうやって克服した?
講座の後半には、軟骨無形成症の当事者であり身長115cmの小さなモデル・俳優として活躍する後藤仁美さん、そしてカリスマ保育士のてぃ先生が登壇。北岡先生を交えたトークセッションを行った。
最初のテーマは、『当事者が直面する日常の課題について』。後藤さんは「3つあります」として、次のように続けた。「まずは、やはり小さい頃から感じていたことなんですが、人からジロジロと見られます。背が低いだけでなく、身体のバランスが特徴的なので、日常的に人からの視線を感じ、それがストレスになってきました」。
2つめは、友だちと行動するときにテンポについていけていない気がして、周りに迷惑をかけているんじゃないか、と疑心暗鬼に陥った過去があったこと。3つめは、おしゃれが大好きなのに着たい服が着れず、友だちと服を買いに行っても自分だけアクセサリーを買うなどして寂しい思いを続けてきた、と明かす。
では、どのように克服してきたのだろうか? そんな問いかけに対し、後藤さんは「ジロジロ見てくる人は、見知らぬ人たち。知らない人から冷たい視線を浴びても『そのときだけ』と割り切りました。自分には大切な家族や友だちなど、いつでも自分の味方になってくれる温かい人たちがいる。そういう人たちの存在が心の支えになりました」。
現在はモデル・俳優として人前に立ち、ブログやSNSでも自身の日常を積極的に発信している立場。「皆さん、知らないからジロジロと見てくるんですよね。今日まで情報を発信してきたおかげで、最近では『応援しています』なんて声をかけてもらえることも増えました」。ファッションについては、小さな体型を活かして、この身体じゃなくては着れないファッションにも挑戦している、と明るく話した。
では保育園に、軟骨無形成症のお子さんが入園してきたとき、周りはどのように対応したら良いのだろう? そんな疑問に対して、てぃ先生は「当事者の方々が“過度な特別扱い”まで求めていないケースも多いことを、まずは理解しておくべきです」と話す。
てぃ先生は「大人たちが考えているよりも、子どもたちの世界って、愛にあふれているんですよ」と言葉を弾ませる。「たとえば、5歳くらいのクラスでうまく喋ることのできない子がいるとします。すると、それを見た周りの子は『先生、何ちゃんがこう言おうとしているよ』と助け舟を出して、友だちの思いに共感する。そんな場面をよく目にします。だから大人も、その子のために何か特別なことをしてあげなきゃ、って考えない方が良いと個人的には思うんです」。
続くテーマは『軟骨無形成症に対する社会的サポートについて』。後藤さんは普段、どんなことにサポートの必要性を感じているのだろうか?
「まず、色々なものが手が届かない位置にあることに不便さを感じます。たとえば駅の券売機、そして銀行のATMにも手が届きません。階段も高く感じますし、外に出て何かをすることがハードルになっているんです。でも最近では、駅の改札ではモバイルSuicaが使えます。銀行に行かなくてもオンライン決済で対応できるケースもあり、とても便利になりました」。
このあと後藤さんは、自分の体に合うように部屋をリフォームする・洋服をお直しする、そのために余計にかかったコストはマイノリティー個人で負担せざるを得ないのか、そんなところにも疑問を感じていると続けた。
北岡先生のもとには、保育園の運営者から「軟骨無形成症のお子さんをお預かりすることになりました。どうしたら良いですか?」という問い合わせが寄せられることもある。そんなときは保育士さんと面談し、たとえば運動会であれば一緒にできる動きなどアドバイスするそう。
また、運動会について、後藤さんはこんなエピソードを語ってくれた。「私は小学校の運動会が、いまでも思い出に残っています。小学校5年生のとき、組体操をやったんですね。みんなと組むのは危ないということで、先生は前もって『ひとみちゃんは参加する?』と聞いてくれた。私が、みんなとその場にいたいと答えたら、先生が私がやれる範囲で一緒に組体操をしてくれたんです。だから『できないから、やらないでおこう』ではなくて、できるにはどうしたら良いか、そんな風に、一緒に考えてくれる姿勢が大事だと思っています」。
■子どもに質問されたら?
最後に3人は、事前に寄せられたアンケートに回答した。まずは「周りの友だちとの身体的な違いに気付いて『自分はどうして小さいの?』と聞かれたとき、親はどう答えたら良いですか?」という質問。これに後藤さんは、シチュエーションなどにもよると思いますが、と前置きをしつつ「正解はないと思うんです。私は、小学生の低学年のときに親に相談したら『小さくて可愛くて良いよね』と答えてくれた。私はそれで納得して、深く考えませんでした。高学年になって、もう1度聞いたときに、軟骨無形成症のことを教えてもらったんです」。
これに、てぃ先生も「本当にその通りで。たとえば、祖母が亡くなってしまった。そのとき小さいお子さんが『ママもいつか死んじゃうの?』と不安がります。そんなとき、そのお子さんが答えてもらいたい言葉が正解だと思うんです。お子さんが不安になっているのだから、嘘でも何でも良いから『ママは死なないよ』というのが正解。だから、同様に『自分はどうして小さいの?』と聞かれたとき、どう言ってほしいのか考えて、子どもの心に寄り添った回答ができると良いと思います」。
2人の回答に、北岡先生も大きくうなずいた。「まず親御さんには、軟骨無形成症について正確な情報を理解してもらいます。そのうえで、その子の年齢に応じた答え、何が聞きたいんだろうということに思いをめぐらして返答してあげることだと思います。中学生、高校生の子どもたちは、自分が納得したい回答がほしくて質問しています。でも小さい子は、どんな風に、どんなシチュエーションで答えてあげるのが良いか、考えてみてほしいですね」。
■今後の医療現場で必要とされること
講座終了後、軟骨無形成症の当事者や親御さんに向けて、北岡先生が普段どういったことをお伝えしているのか、また今後の医療現場のサポートについて聞いてみた。
――軟骨無形成症の方が周りにいる場合、1番大切にするとよいことは何でしょうか?
必要であればすぐに手助けができるように心の準備や目配りはしつつ、自分でやってみようとする意欲を削がないことだと思います。特別扱いをしないということも大事ですが、サポートが必要になる場面はありますので、気軽に声をかけやすい雰囲気や環境づくりをすること、また、親御さんは助けてあげたい気持ちをぐっと堪えて「自分でできた」という達成感を体験できるように、手助けと見守りのバランスをとることが理想的かと思います。
――親御さんが日常で気をつける点や工夫する点について教えていただけますか?
1つは、車の運転時は気をつけていても急な動きで頭が振られることがあると思いますので、月齢年齢相当にチャイルドシートのステップアップをするのではなく、リクライニングの角度を上げない状態でなるべく長く使用いただきたいとお伝えしています。
ただ、好奇心で、周りの景色を見たくて起き上がろうとすることもあるかと思います。そんなときは、車内設置用のミラーを活用して、運転者の顔が見えるようにしたり、歌を歌ったり、しりとりをしたりと、周囲の景色を見ること以外に楽しんでもらえるようにすると良いと思います。
2つめは、滲出性中耳炎です。軟骨無形成症は、顔の中央部のつくりが小さくなるので鼻から喉にかけての気道が狭くなります。上気道が狭くなると、相対的に喉の奥にある扁桃やアデノイドは大きくなるため、気道を占拠しやすくなり、閉塞性睡眠時無呼吸につながるわけですが、アデノイドは繰り返す滲出性中耳炎の原因にもなります。乳幼児期は成人と異なり耳管の走行が水平なため中耳に水が溜まっても出にくいともいわれています。なので、かかりつけの耳鼻咽喉科を見つけておき、耳のこともすぐに相談できるようにしておくと良いですね。
――最後に医療現場で今後必要とされるサポートについてお聞かせください。
赤ちゃんから成人までをカバーできる多職種連携の医療体制を整えることができれば理想的な医療サポートが可能と考えています。各地のこども病院は小児に特化した全診療科が揃っている一方、大学病院や公立病院などの総合病院には、必ずしも小児を専門とした整形外科や脳神経外科が整備されているわけではありません。
あちこちの病院を巡らなくても、一つの医療機関で軟骨無形成症に対するすべての診療を完結できるような体制を整えることが大切だと思っています。現在、医誠会国際総合病院の難病医療推進センターでは小児から成人まで難病医療に対してシームレスに医療提供ができる体制を目指して取り組んでいるところです。