にしな、Zeppツアー終幕 一人ひとりの「光」に彩られた万感の一夜を振り返る

2024年11月29日(金)、にしなのZepp Nagoya公演が開催された。この日のライブは、全国5都市を周ったツアー「にしな ZEPP TOUR 2024 『SUPER COMPLEX』」のツアーファイナルにあたる公演。この記事では、同ツアーが万感の終幕を迎えた一夜について振り返っていく。

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まず、今回のツアーのタイトルとなっているキーワード「SUPER COMPLEX」について。これは、化学用語で「ミトコンドリアの呼吸連鎖」を意味する言葉である。コンプレックスという言葉にネガティブなニュアンスを感じ取る人が多いかもしれないが、ライブ開幕を告げるアナウンス映像では、「SUPER COMPLEX」は、生命活動に不可欠なものであることが説明された。劣等感さえも、生きていく上では大切なもの。だからこそ、気にすることも恥じることもせず、自由に歌い踊りながら、ポジティブもネガティヴも全て曝け出し合っていこう。そう促すアナウンス映像は、「また、光るグッズをお持ちの方は、ぜひマイペースにご点灯ください」という言葉で結ばれた。グッズとして販売されている「照らすcomplex ring」やスマホのライトを自由に照らすことによって、観客がにしなと一緒になってライブ空間をつくっていく。これこそまさに今回のツアーにおける新たな試みであり、アナウンスを受け、さっそく暗いフロアに一つひとつの光が灯り始めていく。

アナウンス映像に続いて、ライブ開幕を告げるオープニングムービーが流れ始める。ポップでキュートでありながら同時にストレンジでもあるテイストで、そのアンビバレントな映像演出によって、未知数な生命のダイナミックな躍動が伝わってくる。そして、バンドメンバーに続き満を持してにしながステージイン。1曲目は、9月にリリースされた「plum」だ。通常のライブと比べてステージ上もフロアも薄暗く、にしなの表情こそ見えないが、逆に、歌の力・言葉の力がいつにも増してダイレクトに伝わってくる。何より、次第にドラマチックに高揚していくバンドサウンドに合わせて、一人ひとりの観客が思い思いに光を灯らせていく展開は今回のツアーだからこその特別なもので、サビで一斉に光が灯る光景がとても美しい。

「ファイナル、名古屋、楽しむ準備はできてますか!」と呼びかけ、続けて「bugs」へ。洗練されたダンスビートをフィーチャーしたフロアライクな一曲で、通常時よりもライティングを落とした薄暗い空間の中で非常によく映える。ビートに合わせて、少しずつ高まっていく高揚感、そして一体感。いや、一体感という言葉では表現しきれないフィーリングがある。今回のライブでは、一人ひとりの観客がそれぞれ自由に光を掲げたり振ったり揺らしたりしているため、それぞれの観客の"一人"の実存がより際立つように思えた。大いなる一体感の中で、それぞれの"個"が並列してバラバラに存在している不思議な感覚。それは、これまでのライブ体験の中でも無意識の内に感じ取っていたものではあるが、今回のライブでは、その感覚がいつにも増して強調される。その後の「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」「スローモーション」「夜になって」も、これまでに何度も披露されてきた楽曲ではあるが、今回のツアーではその表情が大きく変わっていた印象を受けた。薄暗い会場、また、逆光の演出によって、依然としてにしなの表情は見えないが、楽曲に込められた切実なエモーションが手に取るようにありありと伝わってくる。

「今回は、シャイな私たちのために薄暗めのステージを用意したんですけど、いかがですか? いい感じ?」そう呼びかけたにしなは、改めて、光の点灯に関してはルールはないことを伝えた上で、「よかったら、『ここにいるよー』ってアピールしてくれたら嬉しいです」と告げた。そして、「真白」へ。黒いスクリーンの上に儚げに発光する歌詞の演出が、会場の薄暗さによってとても際立っていて、また、「debbie」における、円錐や立方体をはじめとした巨大なオブジェクトが夜空を舞うモノクロの映像演出は、にしなの歌に宿るスケール感と深みをいっそう引き出す役割を果たしていたように思う。「透明な黒と鉄分のある赤」では、にしな&バンドメンバーが放つ情熱的なダンスフィーリングに呼応するように、フロアから少しずつ光が灯り始めていき、ラストのサビでは、にしなが、「照らすcomplex ring」を付けた左手を高く掲げ、会場全体をさらなる熱狂へと導いていく。一方、極めてパーソナルな(それ故に、果てしないほどに深淵な)心情を高らかに歌い上げていく「ワンルーム」「ヘビースモーク」の2連打も圧巻で、ライブ全編を通して、静と動、明と暗のコントラストが冴えわたる展開に深く惹き込まれていく。

バンドメンバーの紹介の後、にしなはアコギを担ぎ、「ツアーで一番大きい声で歌ってくれますか!」と力強く呼びかける。そして、今春にリリースした「It's a piece of cake」へ。ここからライティングが通常の形に戻り、にしな&バンドメンバーの晴れやかな表情がはっきりと見えるようになった。この楽曲は、その日、その時、その会場に集まった全員のフィーリングを大切にしながらアンサンブルを紡いでいくナンバーで、この日も名古屋の観客の手拍子と歌声が重なることによって、たった一度限りの特別なパフォーマンスが生まれていた。さらに、一人ひとりの観客の光がライブパフォーマンスに新たな彩りを与えていて、続く「ケダモノのフレンズ」における、一人ひとりが自由にバラバラに動かす光たちもとても美しかった。(光を掲げる手と逆の手で、グッズ「ケダモノのしっぽ」を振る人も多くいた。)〈ひとりぼっちの夜が無数に 散らばって煌めくチリのように〉という歌詞があるように、たしかに私たちは誰しもが〈ひとりぼっち〉かもしれない。それでも、ライブの空間・時間では、一人ひとりが〈ひとりぼっち〉のまま、みんなで同じフィーリングを共有しているような温かな実感を得ることができる。そう改めて強く感じた。「お星さまつくって歌っていきましょう!」という呼びかけを受け、観客が一斉に高く掲げた光を左右にウェーブさせてみせた「ランデブー」も、とても美しい名演だった。

「もう後半戦なんですけど、まだまだ盛り上がっていけますか!」ついに突入したクライマックスパートの口火を切ったのは、これまではライブの序盤で披露されることが多かった「東京マーブル」だ。今回は終盤戦をさらに盛り上げる熱烈なパーティーチューンとしての役割を担っていて、にしなは歌いながらマラカスを振ってグルーヴを深め、観客も負けじと各々の光を振って応えていく。そして、昨年夏のリリース以降、新しいライブアンセムと化している「クランベリージャムをかけて」へ。にしなは、トリケラトプスのぬいぐるみを肩からかけ、ステージ上手・下手へ無邪気に往来したり、たくさんのキャンディをフロアに投げたりしながら、フロアを混沌とした狂騒空間へと導いていく。「最高です。ありがとう」という感謝の言葉を挟み、同じく新たなライブアンセム「シュガースポット」へ。「みんなの力が必要なんですけど、大きい声出せますか!」という問いかけを受け、フロアから次々と歓声や歌声が巻き起こっていくあまりにも熱い展開へ突入。にしなも負けじと、左手で持ったリングベルをめいっぱい鳴らしながら溢れ出るエネルギーを放出しまくっていく。間奏では、「疲れたー!」と叫びながら床に寝そべり、そして立て直してラストのサビへ。怒涛のクライマックスパートだった。

本編のラストを担ったのは、12月11日(水)リリースの新曲「わをん」。にしなは、この曲の完成に至るまでの歩みについて、次のように丁寧に語ってくれた。

小さい頃から、「愛ってなんだろうな」とよく考えたりしていた。世の中には、愛を定義するもの、愛を歌う楽曲がたくさんあるけれど、いまだにその意味がよく分からなくて、なんだかずっと憧れがある。人に「大好きだよ」「愛してるよ」と伝えることは、難しいし、恥ずかしい。今もうまく言えないけれど、ここまで生きてきた自分なりに、愛ってどういうものなんだろうと考えながら、その答えを探しながら、「わをん」という新曲を書いた。小学生の時に最初に習う言語"あいうえお"、その最初の2文字が"あい"。愛とは何かについて、複雑に考えがちだけど、その答えはもっとシンプルで身近なものかもしれないし、私よりも、幼いあの子のほうがその意味を心で理解しているかもしれないと思うこともある。自分のことを振り返った時、すごくいっぱい間違いをしてきたし、人のことを傷付けてきたし、これからもそれを繰り返していくのかもしれない。だけど、たとえバラバラになっても、今目の前にいなくても、笑っていてほしいなと思える人が自分にはいる。両親、バンドメンバー、スタッフ、そして、今日来てくれたみんな。だからこれからも、自分なりに、自分が思う人のことを思って、ちゃんと向き合っていきたい。自分の心と体でめいっぱい生きていきたい。

そう語ったにしなは、最後に、「みんなの、これからの日々や人生にも、優しい気持ちがたくさん溢れることを、微力ながらすごく祈ってるし、私はとても応援しております」「今日は本当に来てくれてありがとう」と告げ、新曲「わをん」を披露した。白いスクリーンに映し出されていく同曲の歌詞には、「愛とは何か?」という永遠の問いに誠実に向き合い、時に迷いながらも、その答えに一歩ずつ向かっていくにしなの懸命の歩みの跡が滲んでいる。そして、神秘さすら帯びるほどに美しい輝きを放つコーラスパートへ。(同曲は、ヴァース→コーラスの展開を軸に構成されている。)〈見上げれば弛まない空 in loneliness planet our life goes on〉1番のコーラスパートでは、にしなは歌うことなく、祈るように、願うように、信じるように立ち尽くしている。続く2番のコーラスパートでは、「いっぱい笑って、いっぱい泣いて、これからも美しく生きていきましょう。」と目の前の一人ひとりの観客に呼びかける。そして、同曲のラスト、言葉にならない想いを、流麗なフェイクを交えた圧巻のロングトーンに託していく。あまりにも美しく、心が震えるほどに感動的なライブパフォーマンスだった。新曲「わをん」。究極的なまでに普遍的な"愛"を巡る、超弩級の名曲だと思う。そして、極めてパーソナルな心情を歌にした「ヘビースモーク」から同曲に至るまでのシンガーソングライターとしての軌跡を思うと、さらにグッとくる。今後「わをん」は、間違いなくにしなの新たな代表曲の一つになっていくはずだし、また、この曲のコーラスパートに観客の歌声が重なる未来を想像すると今から既に胸がいっぱいになる。

万感の終幕を迎えた本編。次第にフロアから、アンコールを求める「It's a piece of cake」のシンガロングパートの歌声が響き、再び、にしながバンドメンバーと共にステージイン。「青藍遊泳」を歌い届けたにしなは、アンコールの呼び出しとして、今回初めて「It's a piece of cake」のメロディを歌ってもらえた喜びと感謝を伝えた。ここで、ツアーファイナルにして初の試みへ。バンドメンバーを含む5人で黒ひげ危機一発をして、負けた人がにしなの曲を弾き語りする、という企画で、今回は、キーボードの松本ジュンが「ヘビースモーク」のサビをジャジーな調べに合わせて歌ってくれた。そして、「マツジュンさんに負けないくらい、おっきい声で歌えますか!」という呼びかけを合図に、10月にリリースされた「ねこぜ」へ。観客が託された〈ほっとけー〉のパート、ばっちりきまっていた。告知を挟み、この日のライブ、および、今回のツアーを締め括るラストナンバー「アイニコイ」へ。熱烈な疾走感の中で迎えた圧巻のフィナーレ。にしなは、最後に、メンバーと手を繋いで横一列に並び、オフマイクで「ありがとうございました!」と渾身の想いを伝え、ステージを去っていった。

アンコールで告知があったように、次のワンマンライブの舞台は、東京国際フォーラム ホールA。にしなのワンマンライブ史上最大規模の会場となる。かつてないほどに広大な空間で、にしなの歌は、そして、観客一人ひとりの声は、いったいどのような新しい響きや輝きを放つのか。期待して、来春のその日を待ちたい。

セットリスト

1. plum

2. bugs

3. FRIDAY KIDS CHINA TOWN

4. スローモーション

5. 夜になって

6. 真白

7. debbie

8. 透明な黒と鉄分のある赤

9. ワンルーム

10. ヘビースモーク

11. It's a piece of cake

12. ケダモノのフレンズ

13. ランデブー

14. 東京マーブル

15. クランベリージャムをかけて

16. シュガースポット

17. わをん

EN1. 青藍遊泳

EN2. ねこぜ

EN3. アイニコイ

<ライブ情報>

2025年4月12日(土)東京国際フォーラム ホールA

OPEN 17:00 / START 18:00

チケット先行中

https://eplus.jp/nishina2025/