◆ 「具体的な数字を出した方が自分もそこに向かっていける」
普段はあまり大きいことを口にしない若虎が掲げた目標には野望が詰まっていた。
11月27日、球団事務所で契約更改に臨んだタイガースの小幡竜平は交渉での球団とのやり取りを聞かれると「球団の方にも(来季への課題として)試合数と言われた中で、どうしても143試合全部出たいという気持ちが強くなりました」といきなり宣言した。
20年の54試合が自己最多なだけに“ビッグマウス”にも聞こえるが、それは百も承知。「まだ100試合も経験してないですけど。毎年レギュラーを獲ると言ってきている中で、もっと具体的な数字を出した方が自分もそこに向かっていける」と明確な数字を示した理由を明かした。自分へのムチ、プレッシャーをかけているようにも聞こえた。
中野拓夢が二塁へコンバートされた昨年から木浪とのレギュラー争いが続いている。23年は開幕スタメンこそ勝ち取ったが、「恐怖の8番」として勝負強さを見せつけた木浪に出番を奪われた。
今季は開幕1軍もベンチを温める日々。木浪の不振で6月から7月にかけて連日スタメンに名を連ねて打撃でもアピールしたのも束の間、7月17日のジャイアンツ戦で走塁中に左太腿裏の肉離れを発症して長期離脱しレギュラー奪取の好機を逃した。
来年でまだ25歳とはいえ、気づけばプロ6年目が終了。数字では全試合出場を目標に設定したように“突き抜ける”1年にしたいのが本音だろう。当然、143試合出ることがいかに難しいことかは小幡本人も自覚する。
「そこ(全試合出ることの難しさ)はすごく感じます。近本さん、中野さんを見てやっぱり体が強いなと。練習に入る前に準備もしていますし、トレーニングもそう。そういったものを近くで見ている」
今季、チームで唯一全試合出場を果たした中野、入団1年目から6年連続でレギュラーを張り続けている近本の凄みは間近で感じてきた。だからこそ、今オフにやるべきことも迷いなく決めた。
「一番は体幹。そこは取り組んでいきたいなと」。ウエートトレーニングの量を増やし、体重増にも意欲を見せる。
「ただ、大きくなっても意味がないのでしっかり動ける状態で」と持ち味のスピードも兼ね備えた頑丈な土台を作り上げるつもりでいる。
「(今季を振り返ると)一番は怪我というのはありますけど、その中で11試合連続安打を打ったり。すごく来年につながるなと感じた。怪我が一番もったいなかったなと」
「全試合出場」、「シーズン完走」という言葉では簡単でも、とてつもなく難しいハードルを小幡が飛び越えた先に新しい“景色”が待っている。
文=遠藤礼(スポーツニッポン・タイガース担当)