「Arc」ブラウザを開発する米The Browser Companyは12月2日(現地時間)、開発中の新Webブラウザの初期プロトタイプを紹介する動画を公開した。新ブラウザの名称は「Dia」である。高機能・複雑化するWebをシンプルに使いこなせるよう設計されており、ブラウザのインターフェイスにAIを統合している。リリースは2025年の早い時期を予定している。
The Browser Companyは現在、スマートブラウザ開発で注目を集める企業の1つである。11月21日にThe Informationが、OpenAIがブラウザ開発に乗り出したと報じた。OpenAIのブラウザへの関心の裏付けとして、GoogleにおいてChrome開発で重要な役割を担ったダーリン・フィッシャー氏の採用を挙げているが、同氏はOpenAIに加わる前にThe Browser Companyでブラウザ開発に携わっていた。
ブラウザの再設計ふたたび
Web標準は常に進化しており、過去10年でもビデオ会議、高品質な動画/オーディオのストリーミング、リアルタイムのデータ共有、デザインツールなど、機能がさまざまに拡張されてきた。Webでやれること、ユーザーが実際にやっていることが増えている状況において、The Browser Companyは、Webブラウザを単なるアプリケーションではなく、OSのように環境を司る存在と捉え、Chromiumをベースにブラウザの使い方を根本から設計し直した。それが同社の最初のブラウザ「Arc」である。
Arcはタブやツールバーをサイドバーにまとめ、タブをアプリのように扱う機能があるなど、PCのデスクトップを思わせるインターフェイスを持つ。タブやブックマークをグループ化できる「スペース」機能や、設定・ログイン情報を切り替えられる「プロファイル」機能により、効率的な作業環境を提供する。また、生成AIブームの早い段階から、AIアシスタントやAI検索を統合したブラウザとしても注目された。
しかし、Arcユーザーは期待ほど増えていない。ブラウザに機能性や生産性、カスタマイズ性を求める人たちに受け入れられているものの、使いこなすにはその仕組みを理解して自分なりの環境を作る努力が必要であり、普及に課題を残している。この点についてCEOのジョシュ・ミラー氏も「全てのユーザーに受け入れられるものではない」と認めている。Diaはこれを踏まえ、誰でも最新のWebを活用できるブラウザを目指して再設計されている。
AIは複雑な作業や反復的な作業を効率化する有力なソリューションとなり得る。しかし、生成AIは注目を集める一方で、日常的に活用するユーザーの増加ペースは鈍い。多くの人が試してはいるものの、具体的な使い方が分からず、必要性を感じていないのが現状である。これは、技術とユーザーのニーズが結びついていないことが主な原因の1つであると考えられる。The Browser Companyは、AIが独立したアプリやボタンではなく、Webブラウザの一部として統合され、ユーザーが日々のブラウザ利用において自然に活用できる形で提供されるべきだと主張している。
一例として動画で、テキスト挿入カーソルで機能するAIツールを紹介している。「Apple released the original iPhone in 」とオリジナルiPhoneに関する文章を書いていて、オリジナルiPhoneが何年に発売されたか不確かな際に、挿入カーソルをクリックすると「次の行を書いて」「アイディアを提案して」といったAIサポート機能のメニューがポップアップする。これは「プラウザレイヤーで構築された、新しいコンピューティング環境である」と、ミラー氏は述べている。
もう1つのデモでは、家族へのプレゼントを調べていて、複数の商品のタブを開いている状態でメールを書き始め、挿入カーソルをクリックして「これら3つのAmazonリンクを貼り付けて、どれが良いか訊ねるメールを [妻に] 書いてください」と入力すると、メール本文が作成された。
従来のブラウザがWebサイトの静的フレームとして機能するのに対し、Diaはコンテンツと対話し、ユーザーのニーズに適応することを目指す。The Browser Companyは、5年前にArc Development Kit (ADK)を導入して、ブラウザ開発において新機能のプロトタイプを迅速に作成できる環境を整えた。Diaを開発する上で、ADKの上に「メモリー」「アクション」「大規模言語モデル」「セルフドライビング」の4つのコンポーネントを追加した。
Diaは開発初期段階であり、全体像も見えていない状況だが、ユーザーのツールやワークフローに深く統合され、ユーザーの状況を理解して動作する「よりパーソナルなWebブラウザ」を目指している。iPhoneがタッチインターフェイスでコンピュータを身近な存在にしたように、The Browser Companyは、マウスカーソル、テキスト挿入カーソル、ブラウザのアドレスバーといった従来の基本的なコンピューティング・インターフェイスをブラウザレイヤーで再構築し、より強力で個別化された環境を提供しようとしている。