JR東日本はBIMをどう活用しているのか

土木DXセミナーでは、企業のICT活用事例として、東日本旅客鉄道、前田建設、大林組の担当者が登壇して、自社の取り組みを紹介した。

東日本旅客鉄道 建設工事部 基盤戦略ユニット(技術戦略・DX)の岡本健太郎氏は、社内でのBIMの取り組みについて紹介した。

  • 東日本旅客鉄道株式会社 建設工事部 基盤戦略ユニット(技術戦略・DX)岡本健太郎氏

同社は、調査計画、設計、発注、施工、維持管理というサイクルにおいて、最初の調査計画の段階から3D BIMモデルを作り、設計、発注、施工を行っているという。

設計段階で必要な構造計算がBIMモデルでできると、その後の発注の段階で数量や工事費がBIMモデルから自動で出てくる。施工の段階でも好きな断面で切って鉄筋を組み立てたり、コンクリートを打ったり、盛り土をしたりといった必要な情報がすべてBIMモデルから属性を通じて得られ、竣工した後も、出来上がったモデルを見ながら維持管理ができるそうだ。

「いつこの修繕をしたのか、何の修繕をしたのかがすべて属性で残っている。そんなサイクルができないかということで、BIMモデルを使って動き出しています」(岡本氏)

実際、見通し確認でBIMを活用しているという。

ホームを工事する際は仮囲いを行うが、仮囲いを作ると、乗務員は信号機が見えなくなる場合があるため、見通し確認が必要になってくるという。そこでこれまでは、モックアップ作って、終電から始発までの間に確認していた。だが現在は、実際の写真や点群データを組み合わせながら、BIMモデルで運転士目線の動画や説明資料として使い、大きな効果がでているという。

また、線路の切り替え工事の際も、ホームどのぐらい当たるのかについて、点群と照らし合わせながら確認を行っているという。

  • JR東日本のBIMの活用状況 出典:東日本旅客鉄道

一方、点群やBIMを使う際は、高性能なPCが必要となるため、台数が足りない現象が発生。そこで、同社はWebブラウザでも扱えるデジタルツインソフトウェア「TRANCITY(トランシティ)」を開発し、外販も開始した。

「TRANCITY」は、施工状況を点群でとって3Dで記録を残し、検測簿も3D管理にできる。加えて、構造物も点群で可視化し、災害のときはドローン飛ばして点群をとってくれば現地の状況がわかるといったメリットがあるという。

  • 点群を用いた完成検査 出典:東日本旅客鉄道

マインクラフトで人財育成を実施 - 前田建設工業

前田建設工業 技術企画管理室 新技術実装グループ グループ長 川西敦士氏は、ブロックを使って建築や冒険を楽しむゲーム「マイクラフト」を使った人財育成を紹介した。

  • 前田建設工業 技術企画管理室 新技術実装グループ グループ長 川西敦士氏

同社は、建設業に興味を持ってもらうため、マインクラフトで子供たちに構造物を作ってもらうイベントを開催した。また、大学の80分授業として、建設計画を体験するコンテンツを作成した。このカリキュラムは、30分間でマインクラフトを利用して現場の状況を確認し、30分間で工事数量の情報を整理して施工計画(作業員、重機、資材)を作成。最後の20分間で工程計画をつくるという内容。建築の流れを大学のときからしっかり身につけて、建設業界に入ってもらいたいという狙いがあるという。

  • 80分でマイクラ建設を体験 出典:前田建設工業

また、建設業以外の人にも建設業を知ってもらうために、YouTube上に「土木イノベーターズ」というチャンネルを作り、マインクラフトで学ぶ建設として動画を紹介している。

  • YouTube上に「土木イノベーターズ」というチャンネルを開設 出典:前田建設工業

そのほか同社は、3D編集スキルの教育サービスとして「サクシュアCAMP」を作成。これはオンライン型自学学習で、土木知識と3D CADの基本操作から3Dモデル作成方法までをサポートする、3D編集スキルを1週間でマスターできるプログラムとなる。

川西氏は、「インフラ構造を作る目的をわかりやすく伝えられるのがマインクラフトの効果」という。

デジタルツインを活用した施工管理 - 大林組

デジタルツインアプリ「CONNECTIA」を活用した施工管理を紹介したのは、大林組 土木本部 先端技術推進室技術開発部長 元村亜紀氏だ。

  • 大林組 土木本部 先端技術推進室技術開発部長 元村亜紀氏

同社は、建設DXの実現ステップを次の5段階で考えているという。

  • レベル1:アナログデータの可視化、オンライン化、ビッグデータ化
  • レベル2:デジタル化されたデータを用いて、アプリによって生産性を向上していく
  • レベル3:1つのアプリケーションだけではなく、複数のアプリケーションを連携させたり、ICT研究等でデータを連携させたりすることで、単独のアプリケーションでは実現できなかった機能の価値を付ける
  • レベル4:建設現場全体をデジタル化することにより、データドリブンな現場管理を実現する
  • レベル5:建設業のデジタルモデルの変化

そして、同社はレベル2~3を実現するアプリケーションとして、デジタルツインアプリ「CONNECTIA」を開発した。アプリを開発した背景には、建設現場では、3次元モデルを活用することで業務の効率を上げることが期待されているが、実際には導入の障壁が高く、利用が進んでいないことがあるという。

  • 大林組のデジタルツインアプリ 出典:大林組

元村氏は、3DモデルであるBIM/CIMモデルの活用が進まない理由として、高スペックなパソコンが必要である点、アプリの収得に時間がかかる点を挙げた。「CONNECTIA」は、メタバースゲームの技術を応用して、これらの課題を解決した。

「CONNECTIA」では、BIM/CIMモデルや地形情報、天群や都市モデルといった動かない情報のほか、現場の中で働く人の位置情報や生体情報、車両や機械の位置情報や稼働状況といった動的データも扱える。

これらのデータは連携基盤で集約して、3Dのインタフェースのアプリケーションで表示する。

同社は、このアプリの効果検証を14つの現場で行ったところ、施工検討や施工計画の負荷が軽減、検討漏れや業務上の手戻りの防止、関係者間の理解の向上や協議の迅速化が見られ、80~90%の工程で10%から50%の効果があるという回答を得たという。