田渕ひさ子も愛を熱弁、NHK「エフェクター特化ドキュメント」濃密すぎる制作秘話「普通の音楽番組にはしたくなかった」

本日12月1日(日)の午後11時45分から、NHK総合で『ドキュメント20min. NO EFFECTOR,NO LIFE.』が放送される。”全人類に捧ぐエフェクター特化ドキュメント”と銘打たれたこの番組は、文字通りエフェクターの魅力を追求することだけを目的とした20分間。なおかつ、ホームページの紹介文には「これは音楽の物語ではない。生き方の物語だ」と書かれているように、人間を描いたドキュメントとしても実に濃密な20分間である。

【NO EFFECTOR,NO LIFE.】

担当者曰く「全人類に捧ぐエフェクター特化ドキュメント」…そんなの聞いたことないです。

一度でもギターを手にしたことのある方、今度の日曜の夜です。

12/1(日)夜11:45[総合]https://t.co/FpFiYCpirQ#NHKエフェクター

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普通の番組にはしたくなかった「クリーンじゃいられなかったんです」

番組を企画・制作したNHKディレクター・和田大輝氏は、『ドキュメント20min.』でエフェクターを取り上げようと思った理由をこのように語る(以下、発言は全てインタビューでの和田氏の回答)。

「NHK『ドキュメント20min.』は全国の若手制作者が自由な発想で新しいテレビの形を模索する番組です。『見たいテレビなどない』という若い世代に向けて、『こんなテレビ見たことない!』と言ってもらうための20分間をテーマにしています」

「この番組を企画することになり、私自身1人の20代の人間として、『見たいテレビとは何か』を考え、純粋に『好きなもので番組を作ってみよう』と提案を書き始めました。高校生のころからバンドを組み、生っ粋のバンドマンだったので、『エフェクターボード』というものは他のバンドメンバーにも中身を知られていない使用者だけの不可侵領域であり、使用者の思い(個人的な思い出や思い入れであったり、もちろん使用面の利便性であったり)、趣味嗜好が詰まっているものだと考えていました。つまり、エフェクターにはただ音を変化させるというだけではない、それぞれにドラマがあるとずっと感じていました」

「『エフェクターでドキュメンタリーができると思います!』と心に沸き立った衝動でそのまま提案書を書き、伝説のリズムマシンにスポットをあてたノーナレ『808 Revolution』(2022年12月にNHK総合で放送)を手がけたプロデューサーに採用していただきました。そのため、エフェクターをたくさん紹介する”ただの音楽の物語”ではなく、エフェクターと使用者の思いが結びつく、奥深い世界を紹介する”生き方の物語”を作るというテーマで制作し、”エフェクター特化型ドキュメンタリー”とうたう番組になりました。普通の音楽番組やただエフェクターを紹介するような番組にしたくなかった、クリーンじゃいられなかったんです。この番組の性質と私自身の経験が交差するなかで生まれたと考えています」

田渕ひさ子を迎えた理由「溢れて止まらないエフェクター愛」

この番組でエフェクターについて語るのは田渕ひさ子。言わずと知れたNUMBER GIRLのメンバーであり、toddleやbloodthirsty butchersとしての活動はもちろん、椎名林檎からPEDROまで、さまざまなアーティストのサポートでも知られる、日本を代表するギタリストの一人である。その彼女が新代田FEVERのステージでエフェクターボードを広げ、実演を交えながらオーヴァードライヴ、ファズ、コーラス、ディレイといった愛用のエフェクターを紹介するのは番組の大きな見どころの一つ。また、「NUMBER GIRLにおける田渕ひさ子のギタープレイといえばこの曲!」と言っていいであろう、”あの名曲”の演奏シーンは必見だ。

田渕ひさ子の実演は大きな見どころ。新代田FEVERで収録しているのもこだわりを感じる

エフェクターを初めて使ったときの感動、NUMBER GIRLにまつわるエピソードも披露

「田渕ひさ子さんは今も多くのギタリストに影響を与え、ご本人のバンドだけでなく、様々なバンド、プロジェクトのサポートも務めていらっしゃいます。その日のバンドごとにエフェクターを入れ替えてボードを自分で制作し、練習やライブに臨むこと、エフェクターの試奏動画/雑誌のインタビューに数多く出演していらっしゃることも存じ上げておりました。エフェクターを知らない人にも優しくわかりやすく説明いただけること、そしてご本人の溢れて止まらないエフェクター愛をじっくり伺えると考え、オファーしました」

「NUMBER GIRLやブッチャーズの田渕さんは、まるで体の内側から叫んでいるような轟音のギターサウンドが魅力だと思いますが、toddleをはじめ、その他のバンドやプロジェクトでは、同じギターから発せられているとは思えない、美しく繊細な、包み込むようなサウンド、バンドアンサンブルに溶け込む硬派なサウンドが魅力だと思います。田渕さんのギターサウンドはどの音も聴いている人の感情を揺さぶるものだと思います」

エフェクター収集研究家・細川雄一郎(CULT)がエフェクターの歴史を解説

エフェクター製作者・手塚大哉(VEMURAM)は製作工程や歪みの原理を語る

専門家が語る、歪み”の”本質”「奥深い世界を感じてもらえたら」

さらにはエフェクター専門店経営/収集/研究家の細川雄一郎がザ・ローリング・ストーンズやはっぴいえんどなどのエピソードを交えながらエフェクターの歴史を語り、エフェクター製作者の手塚大哉がエフェクターの製作工程や歪みの原理を語っているのも非常に興味深い。その熱のこもった語り口からは、エフェクターに魅せられた男たちの人生哲学が確かに伝わってくる。

「エフェクターに触れている音楽番組や、ニッチな企画を打ち出す音楽番組、エフェクターに関するネット動画、音楽雑誌の企画、楽器屋さんの企画など、本当に素晴らしいコンテンツがたくさんありますし、私もそのような番組/動画の1ファンです。ただ、今回の番組では、普遍的にエフェクター/歪みサウンドが人を魅了する理由は何かを考え、いろんなエフェクターをただ紹介するのではなく、この20分でエフェクターを通して人間の歪みに魅せられる本質が見えないかと制作していました。エフェクター好きも、あまりエフェクターを知らない人も、その奥深い世界を感じてもらえたら嬉しいです」

和田氏の熱すぎるこだわり「小さな音にも耳を傾けてほしい」

「番組でこだわったのは”音”です。ロケの音声担当のスタッフさんもギタリストで、エフェクター/アンプマニアでもあり、音の収録に関して並々ならぬ気持ちで臨んでいただきました。例えば、アンプから出る音はロケ現場では爆音だったのですが、『絶対に割れないように収録するから安心して!』と別でマイクを持ってきていただき収録しました。その中でも特にこだわったのが、スイッチ音を全て別で収録してもらったことです。私自身、エフェクターのスイッチを踏むときの『カチッ』という音にやや興奮を覚えるフェチがありまして、筐体が堅いものは鈍い音がしたり、中に空洞が広くあるものは少しリバーブがかったような音がしたり、スイッチ自体が特殊で『フニャ』という音がしたり……。スイッチ一つ取っても個性豊かで魅力の一つだと思っています。視聴者の方々にもそのようなエフェクターの肌触りを感じてもらいたいです。また、音に集中して聴いてほしい狙いもあったので、ナレーションなしで編集しました。ぜひ、小さな音にも耳を傾けてほしいです」

出演者も、制作サイドも、エフェクターを愛するがゆえにクリーンではいられない人々の手で作られた20分間は、日曜日の深夜に騒やかな歪みを生み出すことだろう。最後に、「生っ粋のバンドマンだった」という和田氏に「推しのエフェクター」と”音”へのこだわりを聞いてみた。

「ファズとコーラスとディレイをループに入れておいて、同時に踏んだときのノイズと、ロングディレイなら空間を包み込むサウンド、ショートディレイなら空間を切り裂くサウンドが大好きです。ファズは低域がズンと鳴りながら、ジャリジャリした倍音もする図太いサウンドのものが好きです。どうしてもこもりがちになるので、ソロを弾くときはショートディレイで音抜けさせたり、きらびやかなハイがでるディレイ・コーラスなどで味付けをするという感じでセッティングするのですが……っと、ここらへんでやめておきます(笑)」

▼番組情報

NHK総合「ドキュメント 20min.『NO EFFECTOR, NO LIFE.』」

2024年12月1日(日)23:45~24:05

※NHKプラス/TVerで1週間の見逃し配信&NHKオンデマンドでも配信予定

出演:田渕ひさ子 / 細川雄一郎 / 手塚大哉

番組HP:https://www.nhk.jp/p/ts/YN5YRJ9KP6/