藤井聡太竜王に佐々木勇気八段が挑戦する第37期竜王戦七番勝負(主催:読売新聞社)は、第5局が11月27日(水)・28日(木)に和歌山県和歌山市の「和歌山城ホール」で行われました。対局の結果、佐々木八段の打ち出した雁木策を得意の早繰り銀で打ち破った藤井竜王が91手で勝利、3勝2敗として防衛まであと1勝に迫っています。

最初の長考は藤井

両者2勝2敗で迎えた第5局、ここまでは先手を持った棋士が勝利を収める展開が続いています。後手番となった佐々木八段は早々に角道を止めて雁木の作戦を表明。右金の動きを保留したまま上部に厚く構えたのが細かな工夫で、この瞬間の壁形さえとがめられなければその後の駒組みに広い選択肢を持つことができます。

ノータイムに近い佐々木八段の指し手からは深い事前研究をうかがわせますが、先手の藤井竜王もじっくりと対応を考慮して動じません。48分の考慮で早繰り銀の形を決めたのはその後の攻撃策を見通したもの。やがて角交換が行われて盤上は第二次駒組みへと突入しました。1日目の午後、駒組みは頂点に達して戦いの機運が高まっています。

ファン嘆息のさばきが決め手

盤上は早い段階で前例を離れて二人だけの戦いが続いています。佐々木八段が78分の長考を払って飛車先の歩を突き捨てたのはその後の角打ちに期待したもの。作った馬を自陣に引きつければ攻防に手厚いと思われましたが、実戦はここから藤井竜王の魔法のような指し回しを見るばかりでした。追われた飛車を自玉そばに隠居させたのがその伏線です。

歩損にあえぐ佐々木八段は先手玉めがけて戦力を集中させますが藤井竜王の対応は冷静でした。1筋に打った自陣角を起点に攻め合いへと踏み込んだのは自玉の危険度を正確に読み切っている証拠に他なりません。隠居させていた自陣の飛車がさばけたのは追われた玉が7筋の道を譲ったからこそ実現した手順で、これを見た観戦者も「凄いなあ…」と嘆息を禁じ得ません。

この飛車がさばけては勝負あり。終局時刻は16時21分、最後は自玉の寄りを認めた佐々木八段の投了により藤井竜王の勝ち越しが決まりました。一局を振り返ると、得意の早繰り銀で雁木を攻略した藤井竜王の快勝譜に。藤井竜王が防衛を決めるか佐々木八段がフルセットに持ち込むか、注目の第6局は12月11日(水)・12日(木)に鹿児島県指宿市の「指宿白水館」で行われます。

水留啓(将棋情報局)

  • 藤井竜王は局後「次も気を引き締めて臨みたい」と次局への抱負を語った(提供:日本将棋連盟)

    藤井竜王は局後「次も気を引き締めて臨みたい」と次局への抱負を語った(提供:日本将棋連盟)