「ぽん鍋缶」をご存知だろうか。高校生たちのビジネスコンテスト「マイナビキャリア甲子園 2022年度大会」に参加し、ミツカン代表として戦った兵庫県立長田高等学校(以下長田高校)の生徒4名(チーム名:ながったらー)の生徒たちが考え出した商品である。
もともとはビジコンで競うために考えられたアイデアであり、商品化の予定もなかったのだが、なんと先日、大阪で実施された「こたつ会議」というイベントで数量限定販売され、すべて完売したのだという。
なぜ商品化するに至ったのか、商品化にあたってどのような課題に突き当たったのか、『ぽん鍋缶』プロジェクトに携わったミツカン担当者、吉岡 真優さんと小又 美智さんに話をうかがった。
■「もともと製品化しようとは考えていなかったが……」
ーーまず、「ぽん鍋缶」という商品についてご紹介いただけますか?
「味ぽんのお鍋を缶詰にする」というアイデアから生まれた商品です。忙しい高校生活の中でも、友達と一緒に温かいものを囲むことで束の間の癒やしになるんじゃないか、というコンセプトで作られました。
ーーそもそもどういう流れで「ぽん鍋缶」という商品が生まれたのでしょう?
「せっかくマイナビキャリア甲子園でいいアイデアをいただいたのだから、ちゃんと形にすればさらにその価値が進化するんじゃないか」という話が社内で出たんです。長田高校の生徒も先生もすごく熱意があって協力的だったので、学業に差し支えがないよう“半年限定の開発プロジェクト”として立ち上げました。私たちから提案したのですが、生徒たちからは即答で「やります!」とお返事をいただきました。
ーー実際の商品は、まだ「こたつ会議」(今年第16回目の開催を迎えた、未来のモノづくりについて考えるトークイベント)でしか販売されていないそうですが、一般販売する予定などはないんですか?
もともと販売しようとは考えていなかったんですよ。実際に作った「ぽん鍋缶」はすべて長田高校に寄付したのですが、今回はお客さま相談センターのほうにこたつ会議の主催者さんから製品に関する問い合わせをいただいて、特別に数量限定で販売したんです。
ーーやっぱりレギュラー商品化はハードルが高いんですか?
そもそもミツカンは缶詰を手掛ける会社ではないので、「(高温になることでの)安全性の担保」がレギュラー商品化への最大ハードルと言えます。今回も製造過程で協力してくれる会社の存在が必要不可欠でしたし、そこがやっぱり一番ハードルが高い部分でもありました。
長田高校のOBを紹介してもらって、実際に会社にうかがったりもしたのですが、最終的には淡路島にある「株式会社アイナス(以下アイナス)」という缶詰を製造している会社をインターネットで見つけて、ご協力いただくことができました。
■いざ、アイデアをカタチに! 開発ラボで苦労したこと
ーー実際の商品づくりの現場はどんな雰囲気だったのでしょう?
アイナスさんの開発ラボを長田高校のメンバーたちと訪れ、朝から晩まで試作品を作り続けました。予定していた時間はかなりオーバーしちゃいましたね(笑)。レシピ自体はマイナビキャリア甲子園の時点で考えていたのですが、蓋を開けばやっぱりそのまま製品化できるわけでもなく、かなり試行錯誤を繰り返しました。
ーー具体的に、どのような試行錯誤があったんですか?
基本的には、ながったらーの皆さんにとっての製品開発の経験になれば、と思っていましたので、ながったらーの皆さんの試行錯誤を温かく見守り、アドバイスをするような形で試作を行いました。
例えば白菜をそのまま缶詰にすると味が染みすぎて酸味が強くなりすぎてしまうということがわかったり、ごぼうから想像以上にアクが出てきたり、しらたきは結ぶタイプにするかどうかといったことまで議論したりして、何度も試作と修正を繰り返しました。酸味の具合を見て、「味ぽんだけじゃなく、“味ぽんマイルド”も混ぜたほうがいいね」という話にもなって、急遽、スーパーまで買いに行ったりもしましたね(笑)
ーーやっぱり実際に作ってみると、想像以上に大変なんですね。
アイナスさんが「納得いくまでやってください!」と言ってくれたのが救いでした。夜までかかっちゃいましたが、先生も同伴してくれていたので、生徒たちも最後まで頑張ることができたと思います。
あと、缶詰の状態にすると数日で味がまた変わってくるので、ラボでの試作後もサンプルを郵送してもらいながら味見を重ね、微調整したうえでようやく製造まで漕ぎ着けました。
ーー「こたつ会議」での反響はいかがでしたか?
反響は大きかったですね。数量限定販売だったのですが、長田高校のみなさんがすべて売り切ってくれました。お客さまからは「アイデア自体が面白いね」といった声もいただきました。「鍋を缶詰にした」というアプローチが特に響いていたようです。
当日は実演販売も行い、発熱剤で缶詰を温めたりもしたのですが、おかげさまで「発熱剤とセットで売ってほしい」といった要望も多くいただきました。
ーーどういう仕組みで温めたんですか?
水を注ぐだけで100度近くまで温まる発熱剤入りの袋のようなものがあるので、そこに缶詰を入れて湯煎しました。一瞬で温かくなるし、しばらく高温も持続するので、本当に熱々のお鍋が食べられるんですよ。サンプルでは缶詰と発熱剤がセットになった“ぽん鍋缶BOX”も作っていたのですが、安全性の観点から販売には至っていません。
■ミツカンが見据える、Z世代へのマーケティングの今後
ーー今後、「ぽん鍋缶」が一般販売される日はくるのでしょうか?
定番商品として商品化することは考えていないのですが、災害食としても活用できますし、どこかでお披露目する機会があるといいですね。
ーー今回の一連のプロジェクトを通して、高校生のみなさんから得たものなどはありますか?
得られたものは本当に多かったと思います。まず、高校生の日常について知らないことだらけだったことにも気付きましたし、そこで得られたインサイトも大きな収穫でした。
あとはミツカンに好印象を持ってもらえたこともありがたかったですね。こたつ会議で販売し終わったあと、長田高校のみなさんが「ミツカンで働きたいと思った」って言ってくれて、本当に嬉しく思いました。
メンバーはみんなすごく優秀で、将来は政治家や起業家志望だったりするのですが、今回の経験を経て「一回企業で働いてみるのもいいかもしれない」と言ってくれて、彼らの意識を多少なりとも刺激できたのかなって思うと単純に嬉しかったですね。ぜひ将来うちの会社で働いてもらいたいな、と思います(笑)
ーーミツカンはZ世代へのマーケティングについてどのように考えていますか?
今年、「味ぽん」の誕生から60周年を迎えたんですけど、もともとは鍋に使う調味料としてアピールしてきましたし、今もそのイメージが強く残っているかと思います。そういった原体験を持つ年齢層のみなさんからは今も愛されているのですが、今後は若いみなさんにも原体験を持っていただけるように努力していきたいと考えています。
マイナビキャリア甲子園はまさにそのキッカケのひとつですが、これからはZ世代のみなさんにも、何かあれば「味ぽん」を思い出していただけるようなマーケティングをして、活力あるブランドであり続けたいと思っています。