前回の爆発との類似点および相違点
再地上燃焼試験は、11月26日の8時30分に実施。最初は順調に燃焼しているように見えたが、点火から約49秒後に爆発した。燃焼時間は120秒の予定だったので、これは半分にも満たない時間だった。
同日16時30分からは、イプシロンSの井元隆行プロジェクトマネージャによる状況説明が行われた。ただ、この時点では井元プロマネもまだ現場に行けておらず、大量にある計測データをざっと見た程度ということだったが、1つ分かっているのは、今回も燃焼圧力が予想よりも上昇したということだ。
井元プロマネによれば、燃焼圧力の予測値は6MPaだったが、20秒くらいから上がり始め、7MPaになったところで爆発したという。これは前回の現象と非常によく似ている。ただ、前回は約57秒、約7.5MPaだったので、今回はそれよりも低い圧力だったのに、さらに早く爆発したということになる。
爆発した7MPaという圧力は、最大使用圧力である8MPaを下回っている。しかも、今回使用したモーターケースは、事前の耐圧試験を8.8MPaで実施しており、問題無く完了していた。なお、前回の耐圧試験が10MPaだったのは認定試験という位置付けだったためで、今回は領収試験だっため8.8MPaだった、という説明があった。
前回、まだ耐えられるはずの圧力で爆発したのは、温度の異常上昇という、複合的な要因があったためだ。今回も温度上昇がまず疑われるところだが、井元プロマネは「まだざっと見た程度」と断った上で、「多少上がっている部分はあるが、現時点でそれは許容範囲内だと判断している」という見方を示した。
前回との類似を考える上では、イグブースタの状態が注目点となるが、この時点では、まだ現場で見つかっていないという。しかし、イグナイタは現場近くに残っていたそうで、今後、回収した破片などを分析することで、分かってくることも多いだろう。
センサーによる計測は、前回の約170点から約200点に強化されている。データは大量にあり、評価は「1~2週間かかる」(井元プロマネ)見込みだが、これも今後、FTA(故障の木解析)で原因の特定を進める上で貢献するだろう。
前回の原因推定は正しかったのか?
以上が現時点で分かっていることであるが、今回の爆発で考えられる疑問点は以下の2つに集約されるだろう。
- なぜ燃焼圧力が予測より高くなっていったのか
- なぜ最大使用圧力以下なのに爆発したのか
前回の爆発では、前述のように、イグブースタの溶融物が断熱材を損傷させ、そこで予想外の燃焼が発生し、燃焼面積が拡大したことで、圧力が上昇。この異常燃焼によってモーターケースが予想外の高温にさらされ、これで強度が低下、圧力に耐えられなくなって爆発した、と推定された。
しかし今回は、その対策として、イグブースタは溶けないようにしたはず。もちろん、それでも溶けてしまって同じ現象が起きた可能性もあるものの、もしそうでなかったとしたら、話はかなり複雑になる。そもそも、燃焼圧力の予測は正しかったのか、ということになってくると、前回の原因推定が間違っていた可能性すら出てくる。
今回使用した第2段モーターであるが、前回からの変更点はイグナイタ部分だけで、モーターケース、推進剤、断熱材などについては、同じだったという。製造ミスなど今回特有の問題だったり、イグナイタの変更点で新たに発生した問題だったりすれば、見通しは立ちやすいが、設計自体に踏み込むような話になると、長期化する恐れがある。
さらに、再々試験をどこでやるのか、という問題もある。もともと使っていた能代ロケット実験場の真空燃焼試験棟は、爆発により大破。種子島宇宙センターの設備も破損しており、復旧には最低でも「数カ月かかる可能性がある」(同)という。
E-21の規模であれば、能代ロケット実験場の大気燃焼試験棟を使うことも可能ではあるものの、能代は敷地面積が狭く、十分な保安距離が確保できないため、もしこれを使うとなると、爆発しても安全であるように、追加の対策が必要になる。
ただ、種子島宇宙センターのテストスタンドは屋外にあるため、屋内で実施して建屋を大破した能代に比べれば、被害は限定的なはずだ。これらを総合的に考えれば、次回も種子島宇宙センターで実施する可能性が高いのではないだろうか。
厳しくなった2024年度内の打ち上げ
イプシロンSの初打ち上げは、2024年度内に実施する計画だったが、このスケジュールへの影響について、井元プロマネは「現時点ではなんとも言えない」と、言及を避けた。ただ今後、原因を特定し、対策を立て、再々燃焼試験を実施してから打ち上げるというのをあと4カ月足らずで行うというのは、極めて難しい状況になったと言えるだろう。
また、イプシロンSの実証機では、ベトナムから受注した地球観測衛星「LOTUSat-1」を搭載する予定で、JAXAとしての正式な決定は12月中に行われる見込みだったが、今回の爆発により、これもやや不透明になった。より慎重な判断として、H3ロケット2号機のように、ダミーペイロードになる可能性が高くなったのではないかと思う。
なお今回、前日の記者説明会において、イプシロンSの号機名称についても、説明があった。それによれば、「イプシロンS」というのはイプシロンロケットの型式の1つであるとのことで、次の号機は「イプシロンロケット7号機」になるそうだ。ただ、この号機については、「イプシロンSロケット実証機」という名前も付くことになる。