宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月26日、イプシロンSロケットの第2段モーター地上燃焼試験を実施したものの、燃焼中に突然爆発が発生、激しく炎上した。この第2段モーター「E-21」は、2023年7月、秋田県の能代ロケット実験場にて地上燃焼試験を行い、爆発。今回はその再試験として、種子島宇宙センターで実施していた。
同ロケットは、すでに第1段と第3段の燃焼試験が完了しており、残るは第2段のみという状況だった。しかし、2回連続の爆発という最悪の結果となり、影響は非常に深刻といえる。本格的な原因究明はこれからという段階のため、何が起きたのか、まだほとんど分かっていないが、現時点で判明している情報をまとめてみたい。
前回の爆発原因とその対策内容
まずは、第2段モーターについて、簡単におさらいしておこう。
イプシロンSは、全段固体の3段式ロケットである。従来の強化型イプシロンからは、3段すべてが変更。第1段は、H-IIAの「SRB-A」からH3の「SRB-3」に置き換わり、第3段は、フェアリング内からフェアリング外に出し、推進剤を倍増していた。それに対し、第2段の変更は比較的小規模なため、ここでの失敗は「まさか」と思われた。
イプシロンSの第2段であるE-21は、強化型イプシロンの第2段「M-35」をベースに改良。打ち上げ能力を向上させるため、推進剤を15トンから18トンに増やし、それに伴い全長は4.0mから4.3mへと長くなった。そのほか、燃焼圧力が高くなっており、真空中推力は約470kNから約610kNへと強化されている。
前回の能代での試験では、点火後20秒ほどから燃焼圧力が予測より高くなり始め、点火後約57秒、燃焼圧力が約7.5MPaとなったところで爆発した。モーターケース自体は、事前の耐圧試験で10MPaまで耐えていたが、それよりかなり低い圧力で爆発したのは、温度が予想外に上がり、この高温によって強度が低下したためだ。
その後、原因として特定されたのは、モーターに点火する「イグナイタ」の内部にあり、最初の火種を作る「イグブースタ」と呼ばれる部品が溶けたことだ。溶けた金属が後方に流れ、推進剤とモーターケースの隙間に落ち、断熱材(インシュレーション)が損傷、そこで異常燃焼が発生して温度が上昇した、というのがJAXAの推定したシナリオだ。
この対策として、イグブースタの外側に断熱材を施工し、溶けないようにした。ただ、この対策の妥当性を確認するために実施したイグナイタの燃焼試験において、燃焼ガスが根元からリークする問題が発生。この対策として、シール方法を接着剤からOリングに変え、それに伴ってケースの材質をCFRPから金属にする変更を追加した。
なお補足しておくと、このイグナイタの燃焼試験は、今回初めて、振動・衝撃試験を実施した後に行ったという。振動や衝撃により、ケースの接着が弱くなり、そこから燃焼ガスがリークしたと考えられるが、従来は振動・衝撃試験をやっていなかったため、この問題は発生していなかったそうだ。
対策が完了し、次は再び地上燃焼試験を行い、機能や性能を確認する必要がある。しかし、前回の爆発で能代の設備は大破したため、同じ場所では試験ができない。そこで、今回はSRB-3の燃焼試験が行われていた種子島宇宙センターのテストスタンドを使用。E-21は短くて長さが合わないため、延長アダプタを新たに用意した。