DURDNが語る、すべての人を包み込む「肯定感」が生まれる背景

韓国をルーツとするBakuがボーカリストを務め、アジアを中心に海外からのリスナーも多い3人組プロジェクト・DURDN。11月6日には4曲入りシングル『ON THE ISLAND』をリリースした。

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DURDNのユニークな特徴のひとつは、プロデュースデュオ・tee teaとして活動していたyaccoとSHINTAが、ボーカリストを招いてアーティストデビューしたという、その編成・変遷だ。ライブでは、SHINTAはギタリストとしてステージに上がるが、yaccoは「トップライナー・作詞家」であるため基本的にステージに上がらない。

もうひとつは、yaccoは顔出しせず、DURDNとしてのアーティスト写真も顔が隠れたものであり、楽曲も汗水飛んでくるようなジャンルのサウンドではなく、もしかしたらパーソナリティが見えづらい印象があるかもしれないが、実は歌詞がとても泥臭くて生活感も漂うところだ。洗練されたトラックに人間味のある歌詞が乗って、それをBakuが日本語を独特に操って新鮮なグルーヴを歌に生み出す、といったところがDURDNの強烈なオリジナリティだと私は感じている。

そういったDURDNならではの話をじっくり聞き出したく、前半は、プロデューサー/作詞・作曲家として音楽業界に入った2人が、自身のプロジェクトを持つよさをどういったところに感じているのかを聞いた。そして後半は、普段顔を見せないyaccoやDURDNの人間的な内面に潜り込ませてもらった。

―プロデューサーや作曲家自身がアーティストとして活動するケースは日本でも増えていると思うんですけど、トラックメイカーとトップライナーのプロデュースデュオがボーカリストを招いた編成で約4年やってきて、このやり方自体にどんな手応えを感じていますか?

yacco(トップライナー):私はこのやり方、好きで。それぞれのルーツがうまく混ざって1曲ができあがるし、作品が完成するスピードも早いので、めちゃめちゃ効率的な気がしています。

Baku(Vo):それぞれやることがはっきりしてるから、本当に効率よく、どんどん曲を出せるという。1年目は毎月1曲出していたくらいなので。

SHINTA(トラックメイカー):その通り、効率的ですね。ギター以外は、曲によって頼む人を選べるので、バンドみたいにひとつのカラーに定まらないことも面白いし。ライブと音源が違うのも、この形態だからこそできることだと思います。

―もともとはプロデュースデュオ・tee teaとして楽曲をコンペに出しても実績がないとなかなか通らないことを実感して、実績を作るためにもDURDNを始めたところがあったと思うんですけど、実際、コンペで受かる頻度や楽曲提供の依頼は増えました? それとも今はDURDNに集中したい、という気持ちですか?

SHINTA:始めた頃は、ここまでしっかりDURDNをやれるようになるとはまったく思ってなくて。今は「もっとたくさん(プロデュースや楽曲提供の)依頼がほしい」というよりは、ここまで来たからまずはDURDNを大きくしよう、というエナジーの方があるにはあります。でもその中で楽曲提供を頼んでくれる人もいて、それには全力で作ることができているので、現状、すごく満足ですね。

―今後、DURDNとして頑張っていきたいのか、それともDURDNを活かしながらプロデューサーとしての仕事ももっと力を入れていきたいのか、そのあたりはどう考えてますか? もしかしたら普段、メンバー同士でもあまりしゃべってないことかもしれないですけど。

SHINTA:あんまりしゃべってないですね(笑)。個人の意見として聞いてほしいんですけど、僕はいろんなジャンルの曲を書くことが本当に好きなので、DURDNをメインでやりつつも、頼んでいただいた人と親和性があると感じたら全力でたくさんやっていきたいなとすごく思っています。DURDNのSHINTAでもありつつ、プロデューサーとしてもしっかり成功していきたいという気持ちが、正直あります。多分、3人ともDURDNでできてないことはあると思うんですよね。

Baku:僕がこのグループで担当しているのは歌だけなんですけど、シンガーだけに収まるつもりはないから。もっとこのシーンでユニークな存在になれるように工夫したいですね。今もちょっと曲を作ったりはしています。まだ出してないですけど。

yacco:私は逆に、DURDNメインでいいかなっていう感じがあって。やっぱりコンペとかになると、自分のクリエイティブが100%できるわけではないというか。要望に合わせたものを作ることも好きなんですけど、それが100%自分のやりたいことかと言われるとまた違って。DURDNでは自分のクリエイティブが100%できているので、ここに重きを置きたいなと思ってます。

―Bakuさんが書いた曲や、SHINTAさんの書く曲すべてがDURDNで採用されてないということは、何かしら「DURDNの音楽」の基準を3人の中で持っているということですよね。

SHINTA:それは僕じゃなくて、yaccoが決めている気がします。僕が作った曲をクラウドに上げて、そのストックの中から「これはDURDNでいけそう」というものをyaccoが選んでいるので。僕は作りたいものを作って、yaccoが使いたいものを使ってくれてる、という感じです。「DURDNっぽい」と思いながら書いてる曲はあまりないかも。

yacco:私の基準は、Bakuが歌っているのを想像できるかできないか、ということかもしれないです。ジャンルでいうと、たとえばめちゃくちゃEDMの曲とかは、BAKUが歌っているところを想像できない。Bakuの声はアンニュイな感じがするから、底抜けに明るい曲とかはちょっと違うかなって感じてます。自分がBakuに合うトップラインを書けないなと思ったときは選ばないのかもしれないです。

Baku:空気成分が多い声質だし、何を歌ってもちょっと切なくなるというか。ロックボーカルみたいに盛り上げられる声ではないんですよね。

SHINTA:僕もメロディを書いたり、逆にyaccoやBakuが曲を書いたり、Bakuが歌詞を書いたり、ということをやりすぎちゃうと……これ、難しいんですよ。今のバランスだからこそ成り立っていることをすごく感じます。

―私が思うDURDNのオリジナリティは、SHINTAさんが作る踊れるトラックがあって、そこに実はかなり生活感のある歌詞が乗って、それをBakuさんが歌ってメロディに独特なグルーヴを生み出しているという、この3つが揃っていることだなと思っていて。バランスを変えるとそれが崩れちゃうかも、ということですよね。

SHINTA:それが本当に、役割分担してできているイメージですね。

「DURDNの人間味」

―今日は、DURDNの音のクオリティについてももちろんなんですけど、みんながどういう人間なのかを知りたいし、「DURDNの人間味」みたいなものを掴んで読者にも届けたいなと思ってます。なので歌詞のことも深く訊きたいなと思うんですけど、新作「ON THE ISLAND」はどんなところから作り始めた曲ですか?

SHINTA:サウンドでいうと、この曲はもともとyaccoがリファレンスをひとつ送ってきてくれて、それがフューチャーポップとかトロピカル系サウンドに近くて、でも音数が少ない洗練されたトラックで。それをもうちょっとだけ、グルーヴをレゲトンとかアフロビートに寄せて、腰が横に動いちゃうような曲にしようと思って作りました。これを作っていたときから3人ともTylaにめちゃくちゃハマって、「いいよね」ってずっと言ってて。この辺からTylaの影響がすごく出てます(笑)。

yacco:このトラックを聴いたときに、洞窟みたいなところで2人が焚き火してる映像が浮かんで。それと映画『猿の惑星』の新作をちょうど見て「野生味」みたいなものが自分の中で浮かんでいたのかもしれないんですけど、「無人島」をテーマにしてみたいなと思ったのが最初で。曲からはかなりポップな明るい印象を受けたので、そんなに重い内容の歌詞は書かない方がいいなと思いつつ、やっぱりDURDNの主人公らしさは出したいなと思って。DURDNの主人公って、自信がなくて、ちょっと悲観的で、「自分なんて」と思っているイメージなんです。だから主人公が「自分は無人島に必要なものも持ってないんだけど」という話をしてるときに、パートナーが「私はあなたにすごく惹かれてるよ」って伝えるようなことを書けたらいいなと思って。

―その主人公像は、yaccoさん自身も重なるところがありますか?

yacco:そうですね。私も「これ言わなきゃよかった」「なんでああいう言い回しをしちゃったんだろう」とか、夜になると反省するタイプで。過去の自分をすごく反省しちゃう。小さい物事に関しては悲観的なんだけど、タフな部分もあるというのは、歌の主人公と重なっているかなと思います。自信がないけど、自信があるというか……生きていく自信はあるけど、みたいな感じです。

―そういうyaccoさんの人間性を歌に落とし込むことで、今の時代のみんなとも共鳴できるんじゃないか、という想いもありますか?

yacco:そういう想いもありますね。共感してくれる人がいることで自分が救われる、というのもあるかもしれないです。コミュニケーションできる人とか世渡り上手な人だけがうまくいくっていうのは、嫌だなって思うから、「そうじゃない人も、それでもいいんじゃない?」っていうくらいの肯定感を曲に書きたいなと思ってます。

―「ON THE ISLAND」は、「無人島にたったひとつしか持っていけないとするなら?」というテーマから、この音楽シーンをどうサバイブするのかとか、そもそも人生をどうサバイブするのか、というところまで広げられている歌詞だなと思っていて。

yacco:まさに。どの曲でもそうなのかもしれないですけど、「自分の中で大事なものって、ものではないよね」っていうのがあるのかもしれないです。だからこの曲には、ちょっと皮肉じみて、”それともマッチとか…?”って入れました。無人島に必要なものとか、人生で必要なものって、マッチとかの「もの」ではないんじゃないかなっていうことを、なんとなく匂わせている感じです。

―そういったyaccoさんの考えや人生観みたいなものが素直に、こういったサウンドのトラックに乗っているのが、DURDNの深さだなと改めて思います。SHINTAさん、Bakuさんはyaccoさんの歌詞をどう捉えてますか?

Baku:ちょうど今日、歌詞のストーリーを咀嚼しながら「306」を聴いてたら、すごく響きました。

SHINTA:「306」は、yaccoの幼少期の頃からのインスピレーションが入ってる曲なんですよね。「yacco節」は確実に存在するなと思います。なるべく英語を使わず、日本語オンリーにするというこだわりもひしひしと感じるし。「ON THE ISLAND」のサビも、英語だったらアイドルポップみたいになっちゃうけど、英語じゃないからよりいいなと思います。あと、語感がいいですよね。無理に韻を踏まないけど、よく見たら踏んでいたり。しかも普段使う言葉が多い。語感をよくしようとするがあまり、普段使わない言葉を使ったりすると、やっぱり身体に入りにくいと思うんです。ぶっちゃけ、僕は昔からダンスをやっていたせいで洋楽から音楽に入っていて、歌詞にフィーチャーして聴くことがあまりなかったんです。そんな僕みたいな人間でも身体に入ってくるということは、それだけ馴染みのある言葉を使っているんだなと思います。

―yaccoさんが英語を使わないのは、どういう理由ですか?

yacco:専門学校で作詞の先生から「言葉を扱う人が、その意味をわからずに使うな」ということをすごく言われていて、それは確かにそうだよなと思って。だからDURDNではなるべく英語を使わないでいきたいなと思ってます。

―それを、Bakuさんが歌うことでまたオリジナリティが出ていると思うんです。日本語を崩しながら洋楽のグルーヴっぽく聴かせる歌が最近トレンドのひとつだったりしますけど、「日本語でいかにグルーヴを作るか」みたいな意識がBakuさんの中にあったりしますか?

Baku:あるかもしれないです。というか、本能的に自分が発音しやすい方に持っていってるかもしれないです。意識してることではなくて、自然とそうなってる。「ON THE ISLAND」でいえば、”持っていない”の”持って”に「あ」が入るとか。ニュアンスと合ってないときは気をつけるんですけど、逆にいい感じにハマるときはやっていこうかなと思ってます。

―日本語を崩してグルーヴを作ることを狙ってやってるわけではなく、ナチュラルにやれているというのはめちゃくちゃ強みですね。

Baku:……俺も考えないとな(笑)。

SHINTA:考えなくていいよ。それがいいと思う。

―他の楽曲にも触れさせてもらうと、「Study」も、踊れるトラックに”勉強 勉強 勉強””あー人生”という、ある種かたいワードが乗っているのがとても面白いなと思って。”特技趣味なし 満たしてたのは見返り付きの物語”というのも、自分のリアルだったりしますか?

yacco:過去はそうだったのかもしれないなと思ったりして。今は、ここまで思うことはないんですけど。

―「Summer Jumbo」の冒頭の「満点取ってもいつまで経っても満たされないのは why why why?」も?

yacco:これは自分というより、DURDNみんなに当てはまるかなって。みんな本当に現状に満足できない性格で、それが反映されているかもしれないです。

―”ラッキーボーイとか充実感とか無縁の人生”も、3人に当てはまる?

yacco:SHINTAがよく「俺ついてないわ」みたいなことを言うんですよね(笑)。

Baku:それを言うことで、どんどんつかなくなるよ。

SHINTA:……いやあ、本当、そうですね……。

yacco:雨男だし。

Baku:雨男だって最初に聞いたとき、「そんなわけないでしょ」って思ったけど、どんどん怖くなってきた。「また雨!?」ってなるから。

SHINTA:……ライブも、リハも、毎回雨なんですよ……。

―この曲を作ったことで清算して、これ以降はきっと晴れ男です!

SHINTA:……全然ならないです、ダメです……。

Baku:そうやって言うからだよ!

―このシングルには安全地帯「恋の予感」のカバーが収録されています。中森明菜さん、坂本冬美さん、JUJUさんなどもカバーされている名曲で、これをチョイスするのは結構勇気要ったんじゃないかなという気がしますが。

SHINTA:勇気要ったねえ。

yacco:このカバーは2年前くらいからずっと温めていたもので、今回カバーをやろうってなったときに、やっぱりあれがめちゃくちゃよかったなと思って。メロディの音数が少なくて音価の長い感じが、Bakuの声質とすごくマッチするなと思ったんですよね。しかもバラードはDURDNでほとんど書いてないから、こういう機会で入れるのもすごくいいのかもねっていう話になって。

SHINTA:毎回カバーするときは、リスペクトの心は持ちつつ、真反対にしたいという気持ちがあって。今回は「ブラックミュージックのメインストリームの人がバラードでやるならこんなアレンジで、とんでもないスタジアムでやったら面白いだろうな」っていうサウンドを目指しました。

―最後に、DURDNとして目指したいことを、一人ずつ教えてください。

SHINTA:僕は変わらず、ずっとDURDNで居続ける、ということを叶えるための努力をしていきたいです。DURDNがメインストリームになる日が来てほしいなとはずっと思っています。「DURDNはメインストリームだ」と胸張れるようになりたいですね。

yacco:新しい作品が今までで一番好きだなって、そう思えることを永遠に繰り返していきたい。自己ベストをずっと更新していきたいなと思います。

Baku:ライブに関しては、もっと規模がデカいところでやりたいですね。ホールツアーとかができるくらいまで売れたい気持ちです。とにかく、このグループでもっともっと伸びていきたいです。

『ON THE ISLAND』

DURDN

配信中

https://DURDN.lnk.to/ONTHEISLANDRS

1. ON THE ISLAND

2. Study

3. Summer Jumbo

4. 恋の予感 (安全地帯cover)

DURDN Live Tour 2024-2025 GET ON THE BOAT

チケット一般発売中

http://lit.link/durdn