ビザ・ワールドワイド・ジャパンは11月26日、今年1年の状況を説明する説明会を報道関係者向けに開催。同社のシータン・キトニー社長は、日本でもタッチ決済が順調に広がり、公共交通機関での利用も拡大した点をアピール。来年は企業間決済のキャッシュレス化やClick to Payをはじめとしたトークン化をさらに推進していく意向も示した。

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    Visaが掲げる5年後のビジョン。決済のデジタル化を推進し、利便性と安全性を提供して進化した日本の決済エコシステムを構築する

「タッチ決済」の割合が45%に、モバイル化も推進

Visaではこれまでも5年後のビジョンとして「世界で最も信頼性が高く、一人一人のニーズを満たす決済エコシステムを日本で構築する」としてきた。

このビジョン実現に向けた事業の一環として同社が注力するタッチ決済は順調に進捗。2024年9月末の段階でVisaのタッチ決済対応カードは1億4,000万枚が発行された。Visaの対面決済におけるタッチ決済の割合は45%(9月時点)にまで達している。

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    Visaのタッチ決済対応カードの発行枚数と対面でのタッチ決済取引割合

2022年と比べると、タッチ決済の取引数は5倍になった。22年にはタッチ決済利用の85%がコンビニやレストランなどの日常利用の加盟店だったが、24年にはこれが70%となって、様々な加盟店で使われるようになってきているという。

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    店頭でのタッチ決済が拡大するとともに、利用範囲も拡大した

日常使いの加盟店での利用も順調に拡大しており、2022年と2024年の第4四半期での利用率を比較すると、コンビニエンスストアで3.1倍、レストランで7.8倍など、さらに普及している。キトニー社長は「消費者と加盟店の双方で、タッチ決済がクリーンでシームレスな体験が得られ、効率的で決済速度に価値を認めている」と指摘する。

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    ビザ・ワールドワイド・ジャパンのシータン・キトニー社長

利用エリアの拡大としては公共交通機関でのタッチ決済対応が挙げられる。日本では32都道府県、100以上の交通事業者がタッチ決済に対応。公共交通機関を利用した人は、単に乗車だけでなくクレジットカードの利用も多く、利用したない人に比べて1人あたりの利用金額は4.5%(約5,000円)ほど多いという。同じく取引件数も5%(1.2回)多くなっており、公共交通機関に対応することでカード利用が増え、日本のキャッシュレス推進に貢献する、とキトニー社長は主張する

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    公共交通機関の利用も拡大。その中で、公共交通機関のタッチ決済を利用する人はより多く決済を利用しているという。さらに今後、中小企業の加盟店拡大やTap to Phoneの推進を進める

公共交通機関で使われるクレジットカードは、その人のメインカードであることが多いそうで、公共交通機関で利用されることによってカードの売上拡大に繋がるとしている。こうしたことから「タッチ決済の基盤は拡大している」とキトニー社長。

とはいえ、まだ中小企業における利用の拡大が足りておらず、「日本ではVisaを扱っていない店舗が何百万とある」とキトニー社長。こうした中小企業での拡大にチャンスがある、とキトニー社長は見ている。

モバイル端末での利用も拡大したい考えで、スマートフォンを決済端末とする「Tap to Phone」を推進する意向を示す。同様に、「プラスチックカードではなくモバイル中心の利用を進めていく」とキトニー社長。

安全性と利便性を向上させる「トークン化」

今後さらに重視するのが「トークン化」だ。これは、クレジットカード番号を変換して番号漏洩による悪用などを避けるための技術で、クレジットカードの不正利用の対策になる。国内でのVisa決済におけるトークンの普及率は前年比9.3%増になり、これによって国内承認率は2%増となったという。

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    クレジットカードの不正利用は年間541億円(2023年)の被害額となり拡大の一途。こうした状況を改善する一助となるのがトークン化。Apple Payなどでも活用されて普及率は拡大しているが、特にオンラインでの利用が進んでいない。それを実現するのがClick to Pay

キトニー社長は、トークンをタッチ決済のように一般化させたい考えを示す。「3~4年前はなぜタッチ決済に投資するのかと言われるぐらいだったが、今はタッチ決済がクレジットカード支払いの標準となった」とキトニー社長。同様に、トークンが標準的に使われる状況にしたいとしている。

「トークンは単なる不正対策だけではない」(キトニー社長)。決済の利便性も提供することになり、その1つがClick to Payだ。国際標準のEMV SRC仕様を採用したウォレットサービスで、オンライン上にクレジットカード情報をトークン化して保管し、ECサイトなどに決済情報を入力する。オンラインの支払いでApple WalletやGoogle Walletと同様に利用できるサービスだ。

すでに米国などではサービスが提供され、Visa、Mastercard、アメリカン・エキスプレスらが対応している。いったんウォレットにクレジットカード情報を保管すれば、複数のECサイトで決済情報が利用できるため、複数のサイトにカード情報を登録する手間が省けるなど、利用者にとっては利便性が向上し、加盟店側にとってはカゴ落ちリスクが低減する。

クレジットカード情報を毎回入力しないため、最近問題のECサイトのペイメントアプリケーションの改ざんによるクレジットカード流出にも対処でき、フィッシングサイトへのクレジットカード入力対策にもなる

キトニー社長は、このClick to Payを2025年にも国内でサービス展開できるよう取り組む。Mastercardなど他の国際ブランドとも連携して提供したい考えだ。

個人向けだけでなく、企業間決済への取り組みも強化する。日本のキャッシュレス決済比率は40%弱となったが、現金利用が約6割残っており、さらなる拡大の余地がある。ただ、これは個人市場で、法人市場は1,000兆円規模とされ、そのうちキャッシュレス化しているのは1%程度だという。「さらなるチャンスが広がっている」とキトニー社長は強調する。

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    個人向け市場もまだ開拓の余地はあるが、それ以上に巨大なのが法人市場でキャッシュレス化がまだ進んでいない

この企業間取引においてキャッシュレスを導入するために、Visaでは様々なサービスを展開する。B2B AcceptanceやVBIP(Visa B2B Integrated Payments)など、あらゆる規模の企業にとってシームレスで安全な決済プロセスを提供し、コスト削減や財務管理の強化などのメリットを提供するとしている。

「大阪エリア振興プロジェクト」も順調

2024年4月から展開しているプロジェクトが「大阪エリア振興プロジェクト」。これは地域経済の活性化などを目的として継続したプロモーションを実施している。タッチ決済のプロモーションでは、認知度が全国平均の76.4%に対して80.7%と上振れ。毎月200万以上のアカウントがタッチ決済を利用し、「大阪府民880万人のうち25%がタッチ決済を利用している」とキトニー社長は説明する。さらに2回のキャンペーンでは新規利用が倍増しており、キャンペーンの効果が出ているという。

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    大阪エリアにおいて実施し荒れている振興プロジェクト

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    キャンペーンによって大阪での認知度や利用が拡大

こうした取り組みの結果、タッチ決済のアクティブカードは121%の成長率。モバイルでのアクティブカードは142%の成長率となった。「大阪での集中的な取り組みによってタッチ決済対応カードの成長率は日本全国の平均より高い成長率を実現した」とキトニー社長はアピールする。

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    全国平均に対して大阪エリアでタッチ決済の利用促進の効果が出ている

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    消費者の反応も良好

利用者側の拡大だけでなく、加盟店においても約半数がキャンペーンによる売上向上を実感し、タッチ決済端末を利用した加盟店の40%が満足と回答。店員のオペレーションも簡単で効率的だったといった意見が寄せられたそうだ。

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    加盟店側の満足度も高かったという

大阪エリアではさらに、堺市、岸和田市、泉佐野市と連携して、大阪・関西万博期間中のインバウンドキャンペーンを実施する予定。大阪市だけでなく周辺自治体へも観光客の回遊を促して地域経済の活性化を目指す。

他にも様々なキャンペーンなどの取り組みを行って大阪・関西万博の成功や大阪の経済成長を目指したうえで、「大阪を皮切りに日本の決済の可能性を最大限に引き出すことにコミットしていく」とキトニー社長は強調。今後も取り組みを継続、強化していく考えを示している。