皮膚が赤くブツブツになったり、乾燥してむけたりする「アトピー性皮膚炎」。普通では感じない刺激でもかゆみが強くなり、皮膚を掻くことによって症状が悪化してしまうこともあります。強いかゆみが生じるアトピーですが、具体的にはどのような症状が出るのでしょうか。

また、乾燥によってアトピーが悪化することもあるこれからの季節は、どのような対策が有効なのでしょうか。今回はアトピーの症状や、冬に悪化させないためにできる対策について解説します。

■アトピーとは?

アトピー性皮膚炎は、皮膚症状が悪くなったり改善したりを繰り返し、強いかゆみのある湿疹が発生する病気です。アトピー性皮膚炎の患者は皮膚のバリア機能が低下しているため、さまざまな刺激に皮膚が反応して炎症が起こりやすくなります。また、皮膚から水分が失われやすくなるため、乾燥肌の人が多いという特徴もあります。

また、アトピー性皮膚炎の患者の多くは、以下の【1】もしくは【2】のような「アトピー素因」を持ちます。

【1】家族がぜん息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎にかかったことがある。または、患者自身がいずれか、あるいは複数にかかったことがある

【2】IgE抗体(免疫グロブリンの一種で、アレルゲンが体内に入るとマスト細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質を放出する)ができやすい

アトピー性皮膚炎と診断される基準としては、まずは「強いかゆみ」があります。また、アトピー性皮膚炎に特徴的な皮疹(湿疹)も出ますが、この湿疹は体の左右の同じような場所に現れるのも特徴です。

湿疹は、おでこ、目や口や耳の周り、首、手や足の関節のやわらかい部分に現れることが多く、皮膚症状は改善したり悪化したりを繰り返します。

そしてアトピーは、年齢による特徴もあります。乳児期は頭や顔に始まり、次第に体や手足に降りてくる傾向にあります。幼少児期は、首や手足の関節に皮疹ができやすい傾向にあり、思春期・成人期は上半身(頭、首、胸、背中)の皮疹が強い傾向にあります。

■アトピーの具体的な症状

アトピーの一番の特徴は「猛烈なかゆさ」ですが、特に、以下のような状況でかゆさが襲ってくると言われています。

・布団に入って30分~90分経った頃
・入浴中、お風呂上りの10分後あたり
・衣服を脱いだ時
・汗をかいた時
・激しい運動の直後
・イライラしている時
・非日常的なことで緊張した時
・湿疹が治りかけている時

また、アトピー性皮膚炎のもう一つの特徴は「皮疹」です。アトピー性皮膚炎の皮疹には、以下のような種類があります。

・搔かなくてもできる皮疹…栗粒ほどの点状紅斑・芥子(けし)粒ほどの小丘疹や小水泡・紅斑紅疹
・掻きむしることでできる皮疹…潮紅・糜爛(びらん)・血痂(けっか)
・掻くことを繰り返してできる…結節・苔癬(たいせん)・痒疹(ようしん)
・掻きむしりに感染要素が加わる…浮腫・毛嚢炎(もうのうえん)

さらに、少し厄介なアトピー性皮膚炎の病変もあります。たとえば、「エレファントスキン」は高度に苔癬(たいせん: 触ると硬く小さい丘疹が多数集合したもの)化した皮膚病変で、厚皮症または象皮症とも言われ、特に首のあたりに特徴的に現れます。

「ドライスキン」は、たいていはかゆさを伴わないカサカサ肌ですが、衣服を脱いだ時などに急にかゆさが現れることもあるため、幼児の場合は掻くくせがついてしまうケースも多くみられます。

このほか、「口切れ・耳切れ」や頭髪内の病変、股間の病変などもあります。口切れや耳切れの場合は感染の危険があるため、特に注意が必要です。

■乾燥する冬にアトピーを悪化させないためには

アトピーは、季節によって悪化することもあります。夏に悪化しやすい人と、冬に悪化しやすい人に分かれますが、夏に悪化しやすい人の場合、暑くなって汗をかくことで、その汗が皮膚への刺激となってアトピーの悪化につながります。

一方、冬にアトピーが悪化しやすい原因は「乾燥」です。冬になると空気が乾燥してきますので、ただでさえ皮膚が乾燥してバリア機能が低下しているアトピーの皮膚には、刺激が加わりやすくなってしまうのです。また、暖房を使用するとさらに空気の乾燥に拍車をかけるため、アトピーが悪化しやすくなります。

乾燥する冬にアトピーを悪化させないためには、保湿を充分行うことが大切です。大人の場合、アトピーは上半身に現れる傾向にありますので、全身はもちろん、顔や上半身の保湿は特にしっかり行いましょう。

保湿剤は使用感の合うものを使用し、できればこまめに塗るのが理想的ですが、最低でも1日2回は塗ることが推奨されています。冬場の場合、さっぱりタイプよりクリームタイプ・オイルタイプなど保湿力の強いものがおすすめです。また同時に、暖房を使用する際は加湿器を付けるなどし、空気の乾燥も改善しましょう。

そして、冬になると熱いお風呂に入りたくなりますが、熱いお湯は皮膚への刺激になり、乾燥を助長したりかゆみを引き起こしたりします。アトピーを悪化させないためにはあまり熱いお風呂には入らず、また、刺激の強い入浴剤の使用も避けましょう。入浴後は速やかに保湿剤を塗ることで、乾燥を防ぐことができます。

最後にアトピーを悪化させないための予防ならびに改善方法に関して、皮膚科の専門医に聞いてみました。

アトピー性皮膚炎の病態は複雑です。体質(アトピーの素因)と皮膚のバリア機能の低下が背景にあり、さらに上述の様々な要因が絡み合って症状の悪化がみられます。保湿剤を含めたスキンケアと外用薬・内服薬などを含めた薬物療法が中心となりますが、上記の悪化させないための様々な項目を一度にすべてこなそうとすると、却ってそれがストレスになってしまい、日常生活に差し障ることにもなり得ます。その場合は、まずは各項目をできる範囲のものから絞り込んでこなしていき、それらが習慣化されて日常生活の一部になったら、他の項目を少しずつ付け加えていくのも一つの方法です。

また、通院先で治療を受けていて中々改善がみられない場合、他の病院の受診を考える前に、上記の悪化要因も含めて、自分のスキンケアや治療薬の外用が十分に行えているのかよく検討して頂き、その上でかかりつけ医と治療法について相談し、その結果を自分にフィードバックすることがまずは肝心です。

大橋 優文(おおはし まさふみ)先生

一宮西病院 皮膚科/副部長
資格:日本皮膚科学会 皮膚科専門医