NTT西日本 富山支店、J・MADE、KKTエンタープライズは9月19・25日、アメリカ現地商談会「冷凍中食でニッポンの『旬』を『瞬』でアメリカ市場へ」を開催した。実現のカギとなった「需給マッチングプラットフォーム」と商談会の模様について伺ってみたい。

  • NTT西日本 富山支店とJ・MADEにアメリカ現地商談会について聞いた

日本の水産物を海外市場へ

約70年ぶりとなった2020年12月1日施行の改正漁業法によって、日本の漁業は大きな転換期を迎えている。水産庁は、水産資源の持続的な利用と水産業の成長産業化を両立させるため、2027年までに「スマート水産業」の実現を目指している。その実現に欠かせないのが、水産業のDXだ。

こういった状況の中、NTT西日本 富山支店は水産業界のサプライチェーン最適化を目的とし、「需給マッチングプラットフォーム」「コールドチェーン」「越境EC」の3機能からなるバリューチェーン構築の検討を進めている。

同時に、NTT西日本 富山支店とともにバリューチェーン構築・検討をともに推進していたJ・MADEは、熊本県民テレビ(日本テレビ系列)のグループ会社であるKKTエンタープライズをパートナーとし、冷凍中食のアメリカ市場への販路拡大を目指している。

※中食(なかしょく):惣菜店やコンビニエンスストア・スーパーなどでお弁当や惣菜などを購入したり、外食店のデリバリーなどを利用して、家庭外で商業的に調理・加工されたものを購入して食べる形態の食事をさす

3社の活動が形となり、「需給マッチングプラットフォーム」の実証事業として検討されたのが、アメリカ現地商談会だ。こうして9月19・25日、全国商工会連合会の共同・協業販路開拓支援補助金を活用する形で「冷凍中食でニッポンの『旬』を『瞬』でアメリカ市場へ」が開催された。

  • アメリカ現地商談会「冷凍中食でニッポンの『旬』を『瞬』でアメリカ市場へ」

同プロジェクトはどのように始まり、どんな成果を得ることができたのか。また日本の冷凍中食に対するアメリカ市場からの反応はどのようなものだったのか。NTT西日本 富山支店とJ・MADEに伺った。

地域の中小企業が気軽に輸出に挑戦できる環境を

NTT西日本 富山支店とJ・MADEにパートナーシップが生まれたのは4~5年ほど前のこと。水産物の流通を行っていたJ・MADEが、とある富山県内の企業からNTT西日本の紹介を受け、2社は「水産」というキーワードで繋がることになった。

J・MADEの代表取締役である吉川正晃氏は、前職で中国向け貨物の事業取り組みをしていたという。当時の中国はバブル景気にあり非常に好調で、日本の中小企業には“中国に輸出したい”と考える中小企業が何百社もあったそうだ。だが、政治的な面で上手くいかず、そのほとんどが実らなかった。

「いつかはみんなそれぞれが簡単に輸出にチャレンジできるような仕組み作りを目指したいなと思っていました」と、吉川氏は輸出への取り組みを始めたきっかけについて話す。同氏はその後、前職で知り合ったアメリカの事業者、FFM(旧:Federal Flour Mills)と水産物の輸出を手がけるものの、中国での前例からあまり積極的な展開は行ってこなかったという。

  • J・MADE 代表取締役 吉川正晃 氏

そんなときに出会ったのが、NTT西日本 富山支店だった。バリューチェーン構築に感銘を受けた吉川氏は、キー局の枠を超えて全国各地のローカル情報を集めるKKTエンタープライズを輪の中に引き入れる。

そして全国商工会連合会の共同・協業販路開拓支援補助金活用にKKTエンタープライズが代表申請し、採択されたことを機に「冷凍中食でニッポンの『旬』を『瞬』でアメリカ市場へ」が開催される運びとなった。

現地商談会のカギとなった「需給マッチングプラットフォーム」

「バリューチェーンを構築するにあたっては、生産者と販路を繋いでいく、そのプラットフォームが重要であると当社は考えています。そして水産物を在庫化し、流通させるためには冷凍・冷蔵設備が必要で、海外輸出を実現するためには国境を越えられるECが求められます。ですから『需給マッチングプラットフォーム』『コールドチェーン』『越境EC』の3点をポイントとして検討を進めました」(NTT西日本 飯田氏)

NTT西日本 富山支店 ビジネス営業部 地域活性化推進室 担当課長の飯田拓巳氏は、このようにバリューチェーン構築の目的を語る。

  • NTT西日本 富山支店 ビジネス営業部 地域活性化推進室 担当課長 飯田拓巳 氏

なかでも、今回の「冷凍中食でニッポンの『旬』を『瞬』でアメリカ市場へ」成功のカギとなったのが「需給マッチングプラットフォーム」だ。

開発を主導したNTT西日本 富山支店 ビジネス営業部 地域活性化推進室 担当課長の宮崎秀人氏は、「主機能である需給マッチングはスクラッチで一から作りました。我々が求める機能を実現するプラットフォームがなかったからです」と説明する。

「ただしすべてをスクラッチで作るとコストもかかってしまうので、汎用的な機能は極力API連携するよう、基本設計を行っています。例えばEC部分や翻訳機能などですね。なによりもスピードが大事だったので、小さく作りそれをすぐに回して、小さな成功を広げていくことを心がけました」(NTT西日本 宮崎氏)

  • NTT西日本 富山支店 ビジネス営業部 地域活性化推進室 担当課長 宮崎秀人 氏

また海外は食品に関するルールも食習慣も、そして関心も異なる。水産物を輸出する際は商品情報まで気を配らねばならず、成分表や賞味・消費期限については英訳も含めて細心の注意を払ったそうだ。

基本的に海外のバイヤーが使うものであるため、ビジュアル面では独自の“ニュージャパン” なイメージで他商品との差別化を強調。また商品画面の見やすさへの配慮のみならず、まったく見たことも食べたこともない食品について分かりやすく知ってもらうために、プラットフォーム内から直接KKTエンタープライズが制作した生産者の動画を再生できるようにしたという。

NTT西日本 富山支店 ビジネス営業部 地域活性化推進室の橋本里紗氏は、「まだ海外に届いていない日本食の情報や、生産のストーリーや生産者さんの思いを伝えられるように工夫しました。商品を安売りするのではなく、きちんとした価格で富裕層にアピールできるようにしたかったんです」と、プラットフォームにかけた思いを述べる。

  • NTT西日本 富山支店 ビジネス営業部 地域活性化推進室 橋本里紗 氏

大成功を収めたアメリカ現地商談会

9月19・25日に開催された「冷凍中食でニッポンの『旬』を『瞬』でアメリカ市場へ」では、7月1日に事前に日本国内で行われたアメリカ商談会向け試食会において選考された商品が、「需給マッチングプラットフォーム」を介して紹介された。参加したのは、ニューヨークやロサンゼルスのスーパーマーケット、レストラン、ホテル、マスコミなどだ。

「アメリカで現地側を担当した感触としては、かなりの成功を収めたと言っても過言ではないと思います。日本の関係者は『こういった催しでは、日系の飲食店しか参加しないのが通例。現地のバイヤーが多数出席したのは初めてではないか』と話されていました」(J・MADE 吉川氏)

イベントのコンセプトは、中小企業の隠れた逸品をDXを活用しながら紹介していくという点にあるが、生鮮品は飛行機で輸出するしかない。そこで今回は船でも運べる冷凍中食を取りそろえ、物流コストも踏まえて説明を行ったそうだ。

とくに評判が良かったのは、静岡県のヴィーガン弁当。すべて冷凍食品で構成されているが、幕の内弁当やわっぱ飯のようなイメージで作られており、味も食感も好評だったという。また東北の魚で作ったハムや、高知県の野菜のお寿司、熊本県のヨーグルト由来のマヨネーズなどが、富裕層のヘルシー指向とマッチしたそうだ。

「アメリカの大規模なホテルあたりですと、何千名もが参加する催しが年に何回もあるそうなんですよ。1年以上もつ冷凍食品ならば、帰りのお土産にしてみたいという声もありました。『需給マッチングプラットフォーム』は、こういった輸入側のニーズも相談できる作りになっているため、都度アメリカと日本を行き来せずとも商品作りまでお願いできそうな点も好印象だったと感じます」(J・MADE 吉川氏)

また日本の生産者からも、HACCPに沿った衛生管理は当然ながら、要望に応じてヴィーガンに特化した商品作りなどをどんどんしていきたいという声が挙がったという。地方自治体も、こういった中小企業のチャレンジを積極的に支援していく構えだ。

「もともと『日本国内では海外の反応がわからない』というのが課題でした。『今回のような品評会で商品を出して、反応を得られたことはとても喜ばしい』と仰られている生産者の方もいらっしゃって、輸出に向けた大きなヒントになったようです」(NTT西日本 飯田氏)

富山県への貢献を第一に水産業の活性化を目指す

大成功を収めたアメリカ商談会向け試食会とアメリカ現地商談会。「需給マッチングプラットフォーム」の有用性も確かなものとなったが、NTT西日本 富山支店とJ・MADEは今後どのような展開を考えているのだろうか。

「今回は冷凍中食を展開しましたけれども、そのニーズの高さに驚きました。かつ、手軽さ・便利さに対する受容性はアメリカでも非常に高いということが改めて分かりました。そういったニーズに対応できる商品をどんどん需給マッチングプラットフォームに掲載し、さらに活性化させるための課題を洗い出し、強化するという営みがやはり大事だと思いました」(NTT西日本・飯田氏)

このたびの成功を一過性のものとしないよう、来年度・再来年度に継続的に繋げていく。それこそが真の成功であり、そのための学びに努めたいというのがNTT西日本 富山支店の考えだ。

さらにJ・MADEの吉川氏は、「実は当社とKKTエンタープライズ、FFMを核とした事業化をいま考えているんです」と明かす。

「その事業とは、事業会社の設立も視野に入れ、全国の中小企業のみなさまが容易にアメリカにチャレンジできる輸出の流通スキームを構築していきたいなと。やはり最終的な課題は現地に根付いて事業をやり抜く体制を作れるかどうかですから。すでに東京にFDA認可済の冷凍庫を保有していますし、大阪でも3月に完成しFDA登録予定です」(J・MADE 吉川氏)

NTT西日本のシステム、J・MADEの流通スキーム、現地での営業力と商品の付加価値を伝えるKKTエンタープライズの企画力、これらの歯車がかみ合うことで日本全国各地の中小企業が海産物の海外輸出に挑戦できるのであれば、地域活性の大きな一助となるだろう。

「我々はNTT西日本 富山支店ですので、まずは富山県への貢献を第一とし『富山を元気にしていきたい』という思いで進めています。そのためにも、この取り組みをしっかり認知させなくてはなりません。各生産者のみなさまからも『輸出にチャレンジしたい』という声を数多くいただいていますので、まずはそこに寄り添っていくことが大前提だと考えています。富山の水産業の活性化を目標に、さらに取り組みを強化していきたいと思いますので、輸出をお考えの方、お悩みの方はぜひ遠慮無くご連絡ください」(NTT西日本・飯田氏)

  • NTT西日本 富山支店の担当者のみなさん