作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。11月24日(日)の放送は「村上RADIO~村上の世間話5~」をオンエア。好評の「村上の世間話」シリーズは、村上さんが何気ない日常の中で体験したエピソードを、村上DJが選曲したグッドミュージックとともにお届け。
この記事では、ジェリー・フラーと今日の言葉について語ったパートを紹介します。
◆Milton Nascimento「Um Vento Passou (para Paul Simon)」
ミルトン・ナシメントとポール・サイモンがデュエットで歌います。Um Vento Passou、ポルトガル語で「風が通り過ぎて」。ナシメントが作ったとても美しい曲です。
◆Jerry Fuller「Guilty Of Loving You」
<世間話⑧>
そういえば、ジェリー・フラーが今年の7月に亡くなりましたね。といってもピンとくる方はおそらく少ないだろうと思います。ジェリー・フラーは1960年代に活躍したシンガー・ソングライター、といってもシンガーとしては、ほどほどの成功しか収めませんでした。それよりは作曲家として有名で、リック・ネルソンの「トラヴェリン・マン」「ヤング・ワールド」、そしてゲイリー・パケット&ユニオン・ギャップの「ヤング・ガール」「レディー・ウィルパワー」などのヒット曲を作り出しました。僕は昔からこの人の作る曲がわりに好きでした。だからジェリー・フラーっていう名前を久しぶりに耳にして、訃報ではあったけど「ああ、懐かしいなあ」としみじみ思いました。
「トラヴェリン・マン」は元々サム・クックのために書かれた曲だったのですが、クックが「こんなアホらしい曲を歌えるか」と断って、代わりにリック・ネルソンが歌って大ヒットしました。全世界で600万枚を売り上げたと言われています。
それでは、ほどほどの成功しか収めなかった歌手ジェリー・フラーの歌を聴いてください。
「ギルティ・オブ・ラヴィング・ユー」1961年にヒット・チャートの96位まで上がりました……というか、ギリギリのところで滑り込んだというか。
<クロージング曲>
小室等「悲しくてやりきれない」
今日のクロージングの音楽は小室等さんのギター演奏です。「悲しくてやりきれない」、サトウ・ハチローの作詞、加藤和彦の作曲です。
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今日の「村上の世間話」は、なんだか思い出話っぽくなっちゃいましたね。年齢を重ねると当然のことながら思い出すことも多くなってきます。それと同時に忘れることも多くなってきます。できればなるべく嫌なこと、つらいことは忘れて、良いこと楽しいことだけを覚えて生きていたいものですね。過去の傷をいつまでも抱えてくよくよしていると、人生はどんどんうす暗いものになっていきます。健康にもよくありません。
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ということで、今日の言葉は英国の古いジョークというか、パンチライン、つまり決め台詞です。
「笑うときだけ痛む」It only hurts when I laugh
これには説明が必要ですね。戦場で1人の兵隊が胸に槍を突き刺されて倒れています。虫の息で今にも死んでしまいそうだ。戦友が駆け寄って尋ねます。「おい、大丈夫か? 傷は痛むか?」
すると兵隊は答えます。「いや、笑うと痛いだけだ」
僕は昔からこのジョークが好きで、ことあるごとによく思い出します。笑うときだけ痛いって言われても、胸に槍を突き刺されて死にかけているときに、人が笑う理由なんてまず何もないですよね。要するにどんな絶対的苦境にあってもめげないっていうか、あえてお笑いにもっていくっていうか、そういうタフな姿勢に惹かれます。みなさんもどうかそれぞれがんばってくださいね。
「笑うときだけ痛む」…… It only hurts when I laugh
それではまた来月。
<番組概要>
番組名:村上RADIO~村上の世間話5~
放送日時:2024年11月24日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/