第83期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は5回戦が大詰め。11月22日(金)には千田翔太八段—増田康宏八段の一戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、角換わり早繰り銀のねじり合いから抜け出した増田八段が110手で勝利。一度も形勢の針を譲らぬ快勝で3勝2敗の白星先行としました。
2敗同士の直接対決
全勝者と全敗者がともに姿を消した今期のA級、ともに2勝2敗で迎えた本局は上を目指すための分水嶺です。千田八段の先手番で始まった対局は両者の息が合って角換わり相早繰り銀に進展。居玉のまま仕掛けた千田八段に対して後手の増田七段が工夫を見せました。部分的に定跡化された継ぎ歩の攻めを保留して玉を立ったのがそれです。
増田八段が指した玉立ちは先手からの攻めを呼び込んで開き直る意味合い。対して1時間以上の長考で対策を練った千田八段ですが、結果的にここでの消極的な指し手を後悔することになりました。右銀を引き上げることで第二次駒組みに移るものの、押さえ込めるはずだった後手の左銀が堂々と働いている点は専門的には不満とされます。
「天使の跳躍」で勝負あり
すべての駒を無駄なく活用することに成功した増田八段は満を持して反撃開始。敵陣深くに打ち込んだ角が攻撃の起点となりました。盤上右辺での折衝をうまくいなしておいてから左桂を跳ね出したのは俗に「天使の跳躍」と呼ばれる好手。この桂が首尾よく先手陣に成り込む形を得られては後手優勢は疑いようがありません。
終局時刻は翌23日0時7分、最後は攻防ともに見込みなしと認めた千田八段の投了により増田八段の3勝目が決定。一局を振り返ると、千田八段のやや消極的な指し回しにつけこんで十分な駒組みを得た増田八段がきれいに反撃を決めた快勝譜となりました。なおこの勝利により増田八段は公式戦通算300勝を達成しています。
水留啓(将棋情報局)