プロ初勝利を挙げウイニングボールを手にポーズをとる田中晴也

 「一軍の試合に早く絡まないと行けないと思いますし、若手としてどんどんアピールしないといけない。シーズン関係なく、今からアピールしていきたいですし、1日でも早く初勝利に絡んで、1年通して一軍にいる時間が長ければ長いほどいいと思う。そういったシーズンにしていきたい」。

 石垣島の春季キャンプでプロ2年目の今季に向け、こう意気込んでいたロッテの田中晴也は4試合・20イニングを投げ、1勝1敗、防御率1.80と、一軍でプロ初登板、初勝利を飾った。

 今季に向けてシーズンオフの自主トレでは「基本自分の武器はストレートなので、より一層ストレートの質、スピードを意識してやってきましたし、その中でストレートとコンビネーションの中で横と縦で1つ変化球で空振りを取りたい。スライダーとフォークというところでまずフォーク、スプリットというところで常に課題を持ちながらやっていました」と“ストレート”、“空振りをとれる変化球”を磨いてきた。

 石垣島春季キャンプでは、コースを意識し意図を持ってブルペンで投球練習を行っていた。「自分が投げたいのは一軍。一軍の打者はどれだけ速い球を投げても真ん中に投げたら打たれると思うので、簡単な話を言ってしまえば、ノースリーからでもアウトロー、インロー、アウトコース、インコースにしっかり投げ切れるくらいのコントロールを身につけたいと思っています。今取り組んでいることとしてはストレートをアウトコース、インコースのラインにしっかり投げられるようにすることを取り組んでいる課題。そこを持ちながら投げています」。

 石垣島春季キャンプに視察に訪れた野茂英雄氏に「技術面もそうですし、フォークの感覚的なところ技術的なところを、野茂さんの感覚ではありますけど、参考にできればなと思って聞いていました」と積極的に質問しに行く姿があった。野茂さんから教わったことを野球ノートに記した。

 田中晴は2月11日の紅白戦で1回を投げ危なげなくパーフェクトに抑えると、沖縄本島での練習試合メンバーにも選ばれ、2月18日のDeNA、2月24日の韓国ロッテとの練習試合にも登板。3月13日の阪神とのオープン戦で、オープン戦初登板を果たし、0-1の6回二死走者なしで佐藤輝明に2ストライクから投じた3球目、外角に外れるボール球も「ずっとストレートの感覚は良かったですし、それが球速という良い形で表れてくれたので、そこは評価できると思います」と自己最速の151キロを計測。走者を出してからの投球に課題を残し2回を投げ2失点だった。

 練習試合、オープン戦を通して感じた自身の課題について「ストレートの部分は通用する部分もあったと思いますし、クイックになったところと、あとはしっかり空振りで変化球を取るところが課題かなと思います」と反省。一軍で投げ続けるために必要なことについて「ロングで投げていく中で、しっかりストレートで押すことと、いつでも投げられる変化球は先発として2巡目、3巡目抑えていく中で必要だと思うので、そこは取り組んでいくこと。あとはストレートの平均球速をどれだけ長いイニングを投げても落とさないところは意識して取り組んでいきたいなと思います」と語った。

◆ 開幕二軍スタート

 開幕を二軍で迎え、4月27日のオイシックス戦では、「球数的な部分では今までと同じくらいの球数を投げられたので、コンディション面では変わりはなかった。ゾーンの中で勝負できて、その中でいい球数で7イニングを投げられたところに自分は評価できるかなと思います」と、プロ入り後自己最長の7回・90球を投げ、3被安打、4奪三振、無失点に抑えた。

 「ストレートで押すことと、いつでも投げられる変化球は先発として2巡目、3巡目抑えていく中で必要」と3月の取材で話していた中で、2巡目、3巡目の投球については「スライダー、カーブ、フォークと満遍なく使えるようになってきているので、そういったところでは成長できているかなと思います」と振り返った。

 オープン戦の時に課題に挙げていたセットポジションでの投球については「クイックも球速が上がってきていますし、この前も49が出てきているので、徐々に良くなってきているかなと思います」と好感触を掴んだ。

 その一方で、4月終了時点で、ファームで20回1/3を投げ、12奪三振。1試合最多奪三振も3月23日のヤクルト二軍戦(4回1/3)、4月27日のオイシックス戦(7回)の4と少ない。奪三振に関して、「満足いく数字ではないですし、もう少し増やしたい気持ちはある」とキッパリ。「今はスライダーとフォークを日々試行錯誤して練習しているので、その2つをより良くしていければ、三振の取りたい場面で取れるようになっていくと思うので、そうしていければ奪三振率は上がってくるかなと思います」と自己分析した。

 そのフォークについては「コントロールできるようになってきていますし、よりストレートに近づけていくことと、その中でもう少し落差のあるというか、落ち幅を作っていければ、空振りは取れると思うので、コントロールの面というよりかは、もう少し落ちるボールというふうにできていければ、もうちょっと良くなるのかなと思います」と語った。

 5月は11回を投げイニングを上回る17奪三振をマークし、5月21日の日本ハム二軍戦は5回・75球を投げ、10奪三振と2桁奪三振をマーク。奪三振が増えている要因について田中晴は「真っ直ぐのコントロールと、投げに行く、決め切りたい時にしっかりいいボールが入っています。あとは若いカウントからスライダー、フォークでカウントを取り、そして空振りが取れているところが、真っ直ぐで三振も取れるようになったと思います。的を絞らせないじゃないですけど、相手にいろんな状況を考えさせるピッチングができているのかなと思います」と説明した。

 この時期、スライダーでの三振も増えていたが、そこについて田中晴は「全体的にフォークの(奪三振)率が上がってきたので、それがスライダーにも影響が出ているのかなと思います」と分析した。

◆ プロ初先発

 そして、チームが引き分けを挟んで10連勝中だった6月1日の阪神戦(ZOZOマリンスタジアム)で、一軍プロ初登板・初先発のチャンスが巡ってきた。

 0-0の初回二死走者なしから糸原健斗に四球、近本光司にライト前に運ばれ、一、二塁とピンチを招いたが前川右京をスライダーで空振り三振に仕留め、ゼロで切り抜けたのが大きかった。本人も「四球とかでもったいない出塁だったので、そこは反省しつつですけど、ピンチの場面でフォークを投げきれたのは自信につながりました」と振り返った。

 プロ初登板は5回・84球を投げ、2被安打、6奪三振、1与四球、無失点もプロ初勝利とはならなかったが、「すごい自信に変わりましたし、自分のピッチングが通用するということがわかったので、それをコンスタントにこれから続けられるようなトレーニングをやっていけたらいいかなと思います」と今後に期待の持てる投球内容だった。

 プロ初登板を経て、6月11日のDeNA二軍戦ではプロ入り後、自己最長の8イニング、最多の103球を投げた。「後半ストレートが落ちるので、初めて投げたのもありますけど、しっかり経験を積んで投げ終わりまでしっかり球の差が出ないピッチングを目指さないといけないなと思います」と課題点を挙げながらも、前を向いた。

 6月28日の楽天戦の試合前練習から一軍練習に合流し、プロ入り2度目の一軍先発となった7月3日の日本ハム戦では「勝てたことは良かったですけど、自分の投球内容的には反省する部分が多かったと思うので、そこはしっかり反省して次に迎えたらなと思います」と、5回5失点でプロ初勝利を手にした。

3回に5点を失ったが、「毎イニングチームにできることを意識してやっているので、それができて良かったかなと思います」と、続く3-5の4回は万波中正を150キロのストレートで見逃し三振、続く五十幡亮汰を中飛、最後は伏見寅威を三ゴロと3人で片付けたのは良かった。先頭の万波を見逃し三振に仕留めた外角の150キロアウトコースストレートは素晴らしく、本人も「ストレートは自信を持って投げられているので、いいかなと思います」と振り返った。

 続く7月14日のオリックス戦では同学年の齋藤響介との投げ合いとなったが、「前回登板と同じように先制点を取ってもらえたなかでいいピッチングをすることが出来なくて悔しいです」と5回4失点で降板。吉井理人監督は試合後、「クイックでの投球、ランナーが出てから質が落ちる。まずいので、そこをしっかり。1回抹消するので、二軍で頑張ってやってほしいと思います」と課題点を口にした。

◆ ファームで課題と向き合う

 田中はファームに降格した後、「一番はクイックのところを練習していたんですけど、クイックを練習しつつもクイック以外のところは1年間やれることを継続してやってきたので、その延長線上で9月良くなったのかなと思います」と課題克服に励んだ。

 9月10日の日本ハム二軍戦では「感覚はすごい良かったですし、あそこの期間というのは今年の中で1番状態が良かったので、シンプルに状態も良かったのかなと思います」と、角度ある力強いストレートで1回・17球を投げ無失点に抑えた。

 9月16日の西武戦で、2ヶ月ぶりに一軍の先発。「楽天との順位も近かったですし、そういったところで大事な試合を任せてもらえたので、速い球を投げようとかは全然考えていなかったですけど、本当に打たれたくないという気持ちが現れたのかなと思います」。力強いストレートを佐藤都志也のミットに目掛けて投げ込んだ。

 0-0の初回二死二、三塁で外崎修汰の初球自己最速152キロストレートで見逃し、2球目153キロ自己最速153キロ空振り、最後は3球目自己最速155キロストレートで空振り三振と3球連続自己最速を更新した。

 白星はつかなかったが、5回・83球、3被安打、4奪三振、1与四球、無失点とCSを争う大事な試合で結果を残した。

◆ シーズンを終えて

 一軍を経験し、「いつでも投げられる変化球、狙った時に空振りが取れる変化球というところはまだまだだなと思いましたし、クイックの部分でクオリティが落ちてしまうので、クイックのところのクオリティを上げなきゃいけないという課題が見つかりました」と話し、シーズン終了後にZOZOマリンスタジアムで行われた秋季練習では「自分のストロングポイントであるストレートとセットとクイックともにクオリティを高くやっていくこと。あとは変化球、チェンジアップであったり新しいことを試したりしているので、自分にとっての自信のある変化球を見つけながらやっています」と技術向上に励んだ。

 今年入るにあたってこだわってきたストレートについて、シーズン終了後に改めて聞くと、「ストレートは1年間通して良かったと思いますし、後半になるにつれてスピードも上がりましたし、自分の中で自信を持って投げられるようになった。ストレートというところだけを取れば1年間、右肩上がりで良くなっていたかなと思います」と手応えを得た。

 今季は登板間隔を空けながらの先発となったが、来季は「球団も自分の体を心配してくれて、イニング制限もありましたし、その中でフルで考えたら、中6日というのはペースが早すぎてできなかったですけど、個人としてはリカバリーを早くするために取り組みを見つけたりというのは1年間できた。来年中6日で投げろと言われた時には、いける準備というのはできているかなと思います」と中6日で投げるつもり。

 今季10勝を挙げた佐々木朗希がポスティングシステムを利用してメジャー挑戦を表明し、先発の枠が来季1枠空く。田中は「(佐々木)朗希さんのことは関係なく、今年一軍で経験をさせてもらった以上、来年は1年間ずっと一軍にいないといけないと思います。そのためにとにかくアピールして、(佐々木)朗希さんの1枠を争うというよりは、とにかく先発ローテーションを勝ち取ることを目標にやっていきたい」と意気込む。

 「シンプルに一軍の打者と対戦できたことが1番の経験だったと思うので、そこで感じたことは来年に繋げていきたいです」。3年目の来季は飛躍のシーズンにする。

取材・文=岩下雄太