光岡自動車が1970年代のGTカーを思わせるセダンタイプの新型車「M55」を発表した。光岡といえばアメリカンSUVをモチーフにトヨタ自動車「RAV4」ベースで作った「バディ」のヒットが記憶に新しい。新型車もSUVで作れば二匹目のドジョウが狙えたはずだが、なぜそうしなかったのだろうか。
なぜSUVにしなかったのか
光岡自動車は11月21日、新型車「M55 Zero Edition」を発表した。2025年生産分100台は抽選販売となる。
光岡自動車 執行役員 ミツオカ事業部 営業企画本部長の渡部稔さんによると、M55の企画は2021年の秋ごろに始まった。当時の光岡自動車では、納車2~3年待ちというバディのヒットを受けて増産体制の構築に力を注いでおり、次に投入する商品としては小型車「ビュート ストーリー」のデビューが決まっていたという。
そんな中、「次の商品をいつ出せるのか、何を出したらいいのか、バディを超えるクルマを生み出せるのか」などと考えつつ、「心にぽっかりと穴の開いた状態」で過ごしていた渡部さんは、出勤の途中、街中を走るクルマを眺めながら、SUVの圧倒的な多さと国産セダンの「絶望的ともいえる」少なさに改めて時代の流れを感じ、「次もSUVでいくべきなのか……」と思い悩んだそうだ。
ただ同時に、SUVは「子育てを終えた夫婦2人で使うには、持てあますのでは?」との疑問も抱いたと渡部さん。「子育ても終わり、仕事も家庭も全力投球で歩んできた世代には、この先の人生、もっと気分を上げて楽しめるクルマがあってもいいのでは。SUVではなく、別のテーマでワクワクできるクルマが望まれているのでは」との思いから、M55を構想するに至った。
「バディを超えるものは生み出せないのでは」という「ある意味でのあきらめ」が自身の肩の荷を下ろし、数を追い求めるという迷いを消してくれたと渡部さんは振り返る。
どうしてセダンなのか
当時は創業55周年企画を検討するタイミングでもあった。渡部さんは光岡自動車と「同じ世代」の人たちにクルマを届けたい、次はセダンでいきたいとの思いを社内で共有することから始めた。
なぜセダンなのか。渡部さんは「子供のころに目にして憧れていたクルマたちは、どれもアメリカのデザインの流れをくんでいた。日本のあちらこちらにアメ車のオマージュが息づいていた」と1970年代当時を振り返りつつ、「夢と希望に満ちあふれる元気な日本、その象徴であるGTカーを作りたい」との思いからセダンの新型車を思い立ったと話す。「ひょっとすると、この思いが心に響く人の数で言えば、SUV市場に負けないのでは」というのが渡部さんの考えだ。
光岡自動車は2023年11月、「M55 Concept」というクルマを公開した。なぜコンセプトモデルとして発表したかというと、ベース車両(ホンダの「シビック」)を安定的に調達できるかどうかが不透明だったからだ。半導体不足やコロナ禍の影響で、自動車メーカーの生産体制がぐらついていた時期に企画が進んだM55にとって、ベース車両の調達は大きな課題だったらしい。クレイモデルの制作が終わっても不安な状況は変わらず、「企画倒れも覚悟」する中で、2025年生産分100台の調達のめどが何とか立ったことから、今回の市販化に至ったという。
何とか手に入れた100台のベース車両で作るM55には「Zero Edition」と名付けた。本来ならいくつかのグレード展開と豊富なカラーバリエーションで「お客様に選ぶ楽しみを提供」(渡部さん)するのが光岡自動車のやり方だが、今回の100台については「光岡のこだわりを凝縮させた1台として」6速マニュアル、ワンカラー、ワングレードでの販売とするそうだ。