老後のお金や生活費が足りるのか不安ですよね。老後生活の収入の柱になるのが「老齢年金」ですが、年金制度にまつわることは、難しい用語が多くて、ますます不安になってしまう人もいるのではないでしょうか。
今回は、年金から天引きされるお金について編集部が設定したケースに専門家が回答します。
◆Q:一人暮らしで月6万8000円の年金から天引きされるお金はいくら?
編集部が設定した以下のケースに専門家が回答します。
「63歳で一人暮らし。65歳以降に年金額が月6万8000円ぐらい。天引きされる税金などは、いくらになる?」
◆A:国民健康保険料(1640円)と介護保険料(2310円)の合計3950円が、年金から天引きされます
老齢年金を受け取ると、次の税金や社会保険料が年金から天引きされます。年額18万円以上の年金を受け取れる人が対象です。
【1】所得税・復興特別所得税
【2】住民税
【3】国民健康保険料(75歳まで)
【4】後期高齢者医療保険料(75歳以降)
【5】介護保険料
今回のケースは75歳未満なので、【1】【2】【3】【5】が天引きされる可能性があります。それぞれ算出してみます。
◇【1】所得税・復興特別所得税
公的年金の受給額は、課税対象(所得税)になりますが、公的年金の所得税額を計算する時は、公的年金等控除額を差し引いて計算することができます。
令和6年度の公的年金等控除額は、65歳未満が60万円、65歳以上が110万円です。その他に、全員が一律で基礎控除(合計所得金額が2400万円以下の場合は48万円)を差し引いて計算します。65歳以降、月額6万8000円(年間81万6000円)の年金のみを受け取る場合の所得税は、以下のように計算します。
81万6000円-110万円(公的年金等控除額)-48万円(基礎控除額)=▲76万4000円……課税所得金額は0円
そのため所得税はかかりません。
◇【2】住民税
日本国民が負担する住民税には、一律に負担する「均等割」と、その人の所得金額に応じて負担する「所得割」があります。住民税額は、住んでいる自治体により異なります。また、自治体ごとに、住民税が課税されない一定の基準が設けられています。
東京都新宿区を例とすると、令和6年度現在、単身者、前年中の合計所得金額が45万円以下の人は住民税がかかりません。
このケースでは「月額6万8000円(年間81万6000円)の年金収入のみ」とのことですので、以下の計算式のとおり合計所得金額が0円になります。
81万6000円-110万円(公的年金等控除額)-45万円(住民税非課税限度額)=▲73万4000円……合計所得金額(課税所得金額)は0円
したがって、住民税はかかりません。
◇【3】国民健康保険料
国民健康保険料は(1)医療分(2)支援金分(3)介護分に区分され、合計した金額を支払います。これらの(1)医療分(2)支援金分(3)介護分は、均等割額と所得割額に分かれており、住んでいる自治体によって異なります。
上記と同様に、新宿区の国民健康保険料の算出方法に当てはめると、月額6万8000円(年間81万6000円)の年金収入ですので、上記住民税の項目で計算したとおり、課税所得額は0円になり、所得割額はかかりません。均等割額のみ負担します。
《令和6年度の均等割額》
(1)医療分4万9100円+(2)支援金分1万6500円+(3)介護分0円(世帯加入者のうち40歳~64歳の加入者が対象になるため)=6万5600円
新宿区の均等割額には、世帯主と被保険者全員の、前年中の総所得金額が一定の基準以下を対象に、軽減措置が設けられています。
このケースの総所得額が、前年から変わらず同じ総所得額と仮定すると、所得額は控除額を差し引いた結果0円となりますので、7割減(第1号減)の適用を受けることができます。
●均等割額が7割減(第1号減)になる条件
前年中の所得=43万円+(給与または年金所得者の合計数-1)×10万円以下
よって、均等割額=6万5600円×0.7=4万5920円(年額)が免除になり、国民健康保険料は6万5600円-4万5920円=年額1万9680円となります。
国民健康保険料の月額:1640円……(※a)
◇【5】介護保険料
介護保険料も住んでいる自治体によって異なり、新宿区在住ですと、上記で計算したとおり住民税が非課税で、年金を月額6万8000円(年間81万6000円)受給しますので、新宿区が設定している保険料段階の第2段階『本人の課税年金収入金額とその他の合計所得金額を合わせて、120万円以下』に該当します。
したがって、計算式は以下のとおりです。
基準額(年額7万9200円)×0.35=2万7200円
介護保険料の月額:2310円……(※b)
◇月6万8000円の年金から天引きされる金額は?
したがって新宿居住と仮定すると、65歳以降、月額6万8000円の年金から天引きされるのは「国民健康保険料」と「介護保険料」となり、その金額は3950円となります。
国民健康保険料1640円(※a)+介護保険料2310円(※b)=3950円
今回の試算はあくまでも概算です。詳細は住んでいる自治体へ確認しましょう。
監修・文/深川 弘恵(ファイナンシャルプランナー)
都市銀行や保険会社、保険代理店での業務経験を通じて、CFP、証券外務員の資格を取得。相談業務やマネーセミナーの講師、資格本の編集等に従事。日本FP協会の埼玉支部においてFP活動を行っている。
文=All About 編集部