NTT東日本グループは11月9日から来年3月30日まで、「Digital×北斎【急章】その2」展「真正の画工 創造と革新の道」を、東京オペラシティタワーのNTTインターコミュニケーション・センターICC(東京都新宿区)で開催している。一般公開に先立ち、11月8日に行われた内覧会に参加した。
文化財をデジタル化で再現
NTT東日本グループは、2020年12月に文化芸術分野の専門会社「NTT ArtTechnology」を設立。グループのアセットや先進テクノロジーを活用し、地域の価値ある文化芸術のデータ蓄積・発信を通じ、新しい形の文化芸術伝承・地方創生に取り組んでいる。
特に日本の文化芸術の代表ともいえる葛飾北斎の作品については、これまで「Digital×北斎【序章】」展、「Digital×北斎【破章】」展、「Digital×北斎」特別展、「Digital×北斎【急章】その1」展を開催。高精細デジタル化に関する特許技術を有するアルステクネと連携し、新たな芸術鑑賞体験の提供と、それらを通じた地域活性化への貢献を推進してきた。
現在開催中の「Digital×北斎【急章】その2」展では、北斎が晩年に創作活動を行った地である長野県小布施町に遺した4枚の祭屋台天井絵、北斎が生涯で唯一創作に関わった立体作品と言われる祭屋台装飾を中心に紹介。真正の画工として北斎が生み出そうとした世界を、原画の細部まで忠実に再現した高精細複製画や3Dデジタルアプリケーションなどを通じて体感できる。
高精細デジタルデータを活用した「Digital×北斎」展は今回で5回目の開催となり、「NTT ArtTechnology」立ち上げ前の2019年に第1回が開催された。もともと序破急の3部構成の展示会として企画され、小布施での創作活動をテーマとする「急章」は、都合3回に分けて開催されることになったという。
「北斎は晩年に多くの肉筆画を描いており、1回の展覧会で扱うには中身が濃すぎることから昨年、掛け軸の肉筆画などに焦点を当てた展覧会として『急章その1展』を開催しました」と、NTT ArtTechnologyの国枝学 代表取締役社長。
「【急章】その1展」では小布施の岩松院本堂天井絵「鳳凰図」を、NTT ArtTechnologyとアルステクネが共同でデジタル化。今回の「【急章】その2」展では、東町祭屋台と上町(かんまち)祭屋台の天井絵と、上町祭屋台の飾り人形を新たにデジタル化して展示している。
最新のデジタル技術で鑑賞の機会を生み出す
長野県宝にも指定されている2基の祭屋台は、所蔵元である小布施町の東町自治会と上町自治会が、それぞれ北斎館に寄託し、1976年の北斎館開館時より展示されている。今回の展示作品については、NTT東日本 ビジネス開発本部 営業戦略推進部 営業戦略推進担当 チーフの戸高功資氏から次のように解説された。
「1806年に再建された東町祭屋台は、小布施町に現存する最古の祭屋台で、1844年に小布施の豪商・高井鴻山の依頼により北斎が『龍』『鳳凰』の2図を描き、同年、天井絵に収められたと言われています。上町祭屋台は1845年に建立された祭屋台で、北斎は同年この天井絵としてこの『男浪』『女浪』の2図を描きました。北斎は上町祭屋台の『皇孫勝』『応龍』という2つ飾り人形のプロデュースを手がけており、この飾り人形へのこだわりも非常に強く、7回の作り直しを命じたとも伝えられています」
2023年にNTT ArtTechnologyとアルステクネは祭屋台の天井絵4枚の高精細デジタル化と、祭屋台2基の本体の3Dデジタル化を実施。 北斎が晩年に心血を注いだ空間演出作品である上町祭屋台の3Dデータを活用し、3Dフローティング・ギガ・ビューワーや3Dビューワーといったデジタルアプリケーションでの鑑賞体験を提供する。立体作品のデジタル化は「Digital×北斎」プロジェクト初の試みだ。
「これまで絵画作品で展示を行ってきた3Dフローティング・ギガ・ビューワーでは今回、上町祭屋台の3Dデータ、空中に投影された映像を非接触で操作しながら鑑賞することができます。こちらでは天井絵『男浪』『女浪』の高精細データも細部まで拡大しながら自在に鑑賞することが可能です。立体映像をディスプレイに表示する3Dビューワーでは、手元のコントローラーで操作することで、さまざまな視点から上町祭屋台を隅々まで鑑賞できます」(戸高氏)
また、本展覧会では「Digital×北斎【急章】その1」展で額装によって展示した北斎の肉筆画作品を軸装で展示。アルステクネの高精細デジタル化作品の特徴を活かし、実物と見紛うレベルの高精細レプリカを掛け軸として、より間近で鑑賞できる。
実物の絵画は顔料の粒子の大きさ、塗り重ねの方法や和紙などの素材による微妙な凹凸があり、従来のデジタル化技術ではこうした複雑な三次元構造の情報が記録から欠落してしまっていた。アルステクネの特許技術「DTIP(Dynamic Texture Image Processing)」では、ミクロン単位の線情報や入光角度のデータなどを億単位の画素数で記録。30枚ほどの画像を立体的に合成することで、原画の絵筆のタッチや凹凸、素材の立体質感などを忠実に再現しているという。
「幅広く鑑賞の機会を増やしていけることがデジタル化によって文化財を再現する意義のひとつ。デジタル化した祭屋台の本体や天井絵を多くの方にご覧いただき、実物を鑑賞しに小布施へ足を運んでいただくことで、地域活性化や地方創生に貢献していきたいと思っています」(国枝社長)
本展覧会では12月中旬から祭屋台をテーマとした3Dライブシアターの映像作品も新たに追加予定。NTT東日本初台本社ビルの1階では関連企画として、1/2縮小版の高精細復元した岩松院本堂天井絵「鳳凰図」の展示も来年3月28日まで(平日10時〜17時)行っている。
「Digital×北斎【急章】その2」展 「真正の画工 創造と革新の道」
・会期: 2024年11月9日~2025年3月30日
※休館日: 月曜日(月曜日が祝日もしくは振替休日の場合翌日)、年末年始(12月28日~1月3日)、ビル保守点検日(2月9日)
・時間: 11:00~18:00(入場は17:30まで)
・会場: NTTインターコミュニケーション・センター[ICC] ギャラリーE
東京都新宿区西新宿 東京オペラシティタワー4階 京王新線「初台駅」東口から徒歩2分
・入場料: 一般・大学生 1,000円(15名以上の団体料金は800円)
※障害者手帳を持っている人および付添1名、65歳以上と高校生以下(当日身分証明書を提示)、ICC年間パスポートを持っている人は無料