◆Q. フルミスト接種後に鼻をかんだら、効果はなくなりますか?
Q. 「近所の小児科で、今年初めてインフルエンザの経鼻ワクチンを受けました。鼻の中にスプレーしてもらうところまでは問題なくできたのですが、受付で待たせている間に、子どもが思い切り鼻をかんでしまいました。看護師さんには大丈夫と言われましたが、鼻に入れたワクチンを全部出してしまったら、効果はなくなりますよね? 帰宅してから気になっていて、もう一度接種させるべきなのか悩んでいます」
◆A. 心配無用です。鼻をかんでもくしゃみをしても、免疫はしっかり獲得できます
2024年10月3日に、経鼻インフルエンザワクチンである「フルミスト点鼻液」(第一三共)が発売されました。これまでの皮下注射とは異なり、左右の鼻腔に1回(0.1ミリリットル)ずつシュッと噴霧してもらうだけで接種が完了します。少しも痛くないので、お子さんが痛さを怖がることもありませんし、皮下注射のワクチンより予防効果も高そうなため、新たな選択肢として期待されています。
経鼻ワクチンは、鼻の中に噴霧するだけです。本当に効くのか、そして、直後に鼻をかんだり、くしゃみをしてしまった場合、鼻の中に入れたワクチンが全て出てしまって効果がなくなるのではと不安になる方もいるでしょう。しかし、心配は無用です。
フルミストの添付文書には、「海外で実施された経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの臨床試験において、接種25日後にもワクチンウイルスが検出されたことから、本剤接種4週間以内はワクチンウイルスが残存している可能性がある」と記載されています。
接種を受けて少なくとも1カ月は、鼻の中にワクチンウイルスそのものがくっついて残っているということです。また、生ワクチンのため、接種後1週間以内に、鼻水を含む風邪のような症状が出ることがあります。そのような場合には当然、頻繁に鼻をかむことになりますが、それでも鼻粘膜にはワクチンウイルスが残り、効果を発揮し続けるとされています。それだけ、鼻粘膜に対するワクチンウイルスの結合が強いということでしょう。
また、鼻腔内にワクチンをシュッと噴霧してもらった直後に、鼻の中がむずがゆくなることは当然想定できることです。接種した人がくしゃみをしたり鼻をかんだりすることがあるだろうというのは、開発した製薬会社は当然考えており、試験も行っています。その試験の結果によれば、経鼻ワクチンを噴霧した直後に鼻をかんだ場合でも、しっかりと免疫がつくというデータが得られたそうです。噴霧直後に鼻をかんでも、効果を発揮するのに必要なワクチンウイルスが鼻粘膜に残るほどの十分量が、製品には含まれているということです。
ただし、効果の有無に問題がなくても、噴霧直後に鼻をかんだり、くしゃみをしたりすれば、ワクチン内のウイルスを周囲にばらまいてしまうことになります。鼻がむずむずしそうなときは、接種を受ける前にしっかり鼻をかんでおくのがよいでしょう。
フルミストの効果、メリット・デメリットについてさらに詳しく知りたい方は、「フルミスト(インフルエンザ経鼻ワクチン)のメリット・デメリット」をあわせてご覧ください。
◇阿部 和穂プロフィール
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
文=阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)