竹内まりや『いのちの歌』に込めた思い「人々の思いが誰かの思いとなって継がれていくであろうという、望みも込めてこの歌詞を書きました」
TOKYO FMをはじめJFN全国38局が毎年“文化の日”に送る全国ネット特別番組『FM FESTIVAL』。2024年度は、11月4日(月・祝)に「FM FESTIVAL 2024 竹内まりや 45th Anniversary Special~まりやとわたしのPrecious Words~」が放送されました。

番組ゲストには、デビュー45周年イヤーを迎え、10年ぶりのオリジナルアルバムとなる新作『Precious Days』をリリースしたシンガーソングライター・竹内まりやさんが出演。

竹内さんが紡ぐ“歌詞”に注目し、全国のリスナーが心動かされた言葉、影響を受けた歌詞のフレーズ「Precious Words」を紹介しました。番組進行は住吉美紀が担当。番組では、山下達郎さんが竹内さんの歌詞について語り、お気に入りの楽曲をセレクトしました。

竹内まりやさん

◆山下達郎が竹内まりやの歌詞を分析

住吉:ここで、プロデューサーとして、パートナーとして竹内まりやさんを長年見つめてこられた山下達郎さんがコメント出演されます! 今回はまりやさんの歌詞についてお話しくださいました。

<山下達郎さんのコメント>

作品というのはその人から離れた瞬間に聴き手のものとなります。ですので、私みたいにずっとそばで関わっている者の解釈と、リスナーの方の解釈は自ずと違ってきて当然であります。

「年齢を重ねるごとに歌詞の変化は感じましたか?」という質問があるのですけども、僕から見たらそんなに変わっていません。ただ、昔はかなり作家的な要素が強かったのですが、最近はだんだんと詞的な情感が増してきたように感じます。ですので、よりシンガーソングライターに近い形になっていると思います。

あと、「竹内まりやの歌詞から前向きになれる人が多いのはどういったことが要因か」という質問事項がありますが、一言で申し上げますと、人が生きていくことに対する強い肯定感があります。それはポップカルチャーの本質だと僕は昔書いたことがあります。

ポップカルチャーの本質は“生きることの肯定”だというのが私の制作の考え方です。そういう意味では、彼女の作る詞は生に対する肯定感が強く、それが人の共感を呼ぶのだと思います。

ずっと見てきていますから、好きな曲を1曲選ぶっていうのは無理ですよ(笑)。どうしても1曲出せということでしたら、私の個人的な趣味で選ぶしかないです。本来の彼女のキャラクターとは異なった曲で「Winter Lovers」という曲があります。

あれは非常に夢想的な歌で、実態がない相手の、曖昧模糊とした歌世界なんですけども、それが自分の作るものと近いので選びました。引き続きご愛好よろしくお願いします。山下達郎でした。

竹内:たしかに達郎の書く作詞の世界はイリュージョンというか、彼のなかで創造した主人公と重ねて「Winter Lovers」を選んだんだろうなって思いました。私の場合はもう少し具体的に、こんな女の子が恋人の帰りを待っているとか、そういう感じで書くんですよね。

住吉:そのなかで「Winter Lovers」は共通する部分があると。

竹内:「クリスマス・イブ」のコマーシャルがあったじゃないですか。駅のホームで女の子が恋人と出会うやつです。その感じをイメージしたウィンターソングにしたいと思ったので、曲調は「クリスマス・イブ」みたいなビートにしてもらったんですよね。

住吉:なるほど!

竹内:これは達郎がドラムを叩いている曲なんですけど、達郎の音楽的な世界にわりと寄せて作っているから、そこがまた彼の好みなのかもしれない。ただ、言葉にしてみると、「いるのかいないのかわからない主人公」と彼が捉えているのが面白いなと思いました。

住吉:歌詞については「人が生きていくことへの強い肯定感」とおっしゃっていましたね。

竹内:いつもそう言ってくれるんですよね。でも、私はそれをあまり意識したことがなくって。言われてみればそうかもしれないって感じです。彼の歌詞を見ると厭世的であったりペシミスティックな曲がけっこう魅力的なんですよ。

たとえば「Paper Doll」みたいな。女の人との恋が叶わない片思いとかがすごくロマンチックで、彼の音世界にすごくフィットしているんですね。私が書く「毎日がスペシャル」みたいな曲とかは、彼から見ると生きることへの肯定に見えるんだろうなと思います。

住吉:どんな大変なことがあっても生きるのを肯定していくエネルギーって、社会にとってすごく大事なことだと思います。

竹内:生まれ出でたからには生きることってどうしようもなく進んでいくもので、それを否定することはできないわけで。だとしたら、それを肯定しながら進んでいくほうがいい。そういう考え方をしたらちょっとは楽になるのかなと。否定してしまうと救いがなくなっちゃうんですよね。

住吉:そうですよね。

竹内:どこかに救いや希望がないと人間は生きていけないので。そのために歌は何ができるのかなと考えますよね。

◆思いが歌として継がれていく

住吉:それでは、最後のリクエストを紹介します。この曲にもたくさんのリクエストが集まりました。代表して1通のメッセージを紹介します。

<リスナーからのリクエストとメッセージ>

・「いのちの歌」

この曲は母と出かけたコーラスの発表会で聴いたのですが、初めて聴いたときから涙があふれてしまいました。まりやさんの曲と知り、すぐにダウンロードして何回も聴かせてもらっています。1年半前、母の病気がわかり、その後3ヵ月で亡くなりました。しばらくは、さみしくてさみしくて……。

でも、まりやさんの歌詞にあるとおり、「いつかは誰でも この星にさよならをするときが来るけれど 命は継がれてゆく」という言葉を胸に、父と母から、そして、もっと前から継がれている命を大切にしたいと思っています。それでも、さみしくなるとこの曲を聴きながら思いっきり泣いています(女性・54歳)

住吉:まりやさんは、こういった心に染みる曲を書いて歌ってくださるのがすごいなと思いっています。こういう壮大なテーマのメッセージソングって少しお説教くさくなる危険性もあるじゃないですか。

でも、まりやさんはどんなメッセージでもスッと入ってくるんですよね。それはまりやさん自身が毎日を地道に大切に、ヒストリーを積み重ねてきているからだと思います。

竹内:そこまで考えているわけではないんですけども、いつかは誰でもこの星にさよならする、死というものを、この曲を書いている年代から意識するようにはなりましたね。

魂ってどうなるんだろうと考えたとき、子どもとして命が継がれるってことがなかったとしても、思いってどこかに継がれていきますし、この歌が継がれていくといいなと思いました。人々の思いが誰かの思いとなって継がれていくであろうという、望みも込めてこの歌詞を書きました。

住吉:生きている実感を歌詞に落とし込んで、真心で歌われているんですね。

竹内:「命にありがとう」という言葉が自分から出てくるのはすごく不思議な感じがしましたね。あまりにも直接的な言葉ですけども、それ以外に言葉が見つからなかったんです。この歌はすごくシンプルに書きましたね。

住吉:間違いなくこの歌は継がれていくと思います。

◆11年ぶりに全国アリーナツアーを開催!

住吉:3時間があっという間でした。

竹内:いろんな方々のメッセージ、いろんな方からのコメントも聞いて、私が無意識に書いている歌詞に対して、こんな思いが乗せられているんだってことに改めて気付かされました。私のほうが元気とか勇気、癒しとかをもらったので、こういう仕事ができてよかったって思いました。

住吉:よかったです!

竹内:また頑張って書いていこうっていう、新たなエネルギーをいただきました。本当にありがたいです。

住吉:実は、ご紹介した曲は緩やかに年代順でした。なので、歌詞を紐解いていくとまりやさんの歩んできた45年を再び歩んだような感覚になれました。

竹内:思い返すことがたくさんありました。普段、自分の古い曲を聴くことがないので、それに対してみなさんがどういう風に思っていらっしゃるのかっていうのが届くと、次の作品を書くエネルギーになりますね。

みなさんとそのエネルギーの循環をすること。それがこの仕事で一番嬉しいことなんだなって思いました。達成感というか、届いているという実感なんですよね。

住吉:2025年4月15日(火)から、まりやさんによる11年ぶりの全国アリーナツアーがスタートします。全国8都市14公演です。

竹内:直接お会いできる機会ってライブだけなんですよね。それがやりたくてライブをやっているようなものです。お会いできることが最高に嬉しいです。

<番組概要>

番組名:FM FESTIVAL 2024 竹内まりや 45th Anniversary Special~まりやとわたしのPrecious Words~

放送日時:2024年11月4日(月・祝) 16:00~19:00

パーソナリティ:住吉美紀

番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/fmfes2024/