モバイル通信の主力になった5Gは、これまでの4G/LTEと比べて通信速度が速いことはよく知られていますが、「低遅延」という特徴も備えています。ソフトバンクは、もともと小さい5Gの遅延をさらに少なくすべく、「SRv6 MUP」(Segment Routing IPv6 Mobile User Plane)という技術の開発に注力しています。

ソフトバンクとヤマハが共同で開催したイベントでは、SRv6 MUPの技術を用いた5G回線経由で、離れた場所にいる人同士で楽器の合奏を実施。通常の5G回線では、遅延の影響を受けて双方で音が大きくずれて合奏にならなかったのに対し、SRv6 MUPの5G回線では音のズレがほぼ抑えられ、まるで奏者が隣にいるかのようなぴったりと息の合った合奏ができました。

  • SRv6 MUPの特徴である低遅延の効果を、離れた場所にいる人同士で楽器のリモート合奏で実証した

SRv6 MUPの技術の源流はあのYahoo! BBにアリ!?

10月26日、静岡県浜松市で開かれた「ハママツ・ジャズ・ウィーク」で、ソフトバンクとヤマハが合同でイベントを開催。5Gのモバイル回線とヤマハのリモート合奏サービス「SYNCROOM」(シンクルーム)を用いて、会場内の特設ブースと少し離れたビル内にいる人同士で楽器の合奏をする、という試みです。

  • 名だたる楽器メーカーが拠点を構え、楽器のまちとして知られる静岡県浜松市で開かれたハママツ・ジャズ・ウィークの会場で、SRv6 MUPの公開実証を実施した

SYNCROOMは、安定した低遅延の通信環境が求められるため、ヤマハは光回線での接続を推奨しています。ですが、今回はソフトバンクのSRv6 MUPを用いた5Gのモバイル回線を用いた合奏に挑戦し、リモート合奏ができるほどの遅延の少ない通信が可能になる、ということを実証しようというわけです。

今回は、イベントのために設けた専用の回線ではなく、周辺のソフトバンクユーザーも利用する一般の5Gネットワークを用いていました。つまり、条件は厳しいということ。SRv6 MUPを用いたSYNCROOMの合奏を一般公開するのは初めてということで、ソフトバンクやヤマハの担当者も気合いが入っていたようです。

  • 光回線での接続を推奨しているSYNCROOMを、低遅延のSRv6 MUPを用いた5Gのモバイル回線でやってみよう、という試みだ

  • 会場には一般の人も観客として参加した

SRv6 MUPの仕組みを簡単に説明すると、遠くにある交換機に接続するのではなく、基地局の近くに設置したルーターに接続することで通信の距離を短縮し、低遅延を図る仕組み。かつて、ソフトバンクがブロードバンドの爆発的な普及に導いたADSLサービス「Yahoo! BB」で用いていた技術と基本的な概念は共通だといいます。

  • 通常の5Gは離れた場所にある拠点の交換機を経由しているが(左)、SRv6 MUPは近くにあるルーターを経由する仕組みにしたことで通信経路を短縮して遅延を抑えている(右)

まず、SRv6 MUPではない通常の5G回線を利用して試したところ、遅延の影響で双方の音が明らかにワンテンポほどずれてしまい、楽器を扱い慣れたプロの腕をもってしても合奏を続けるのは不可能でした。

ところが、SRv6 MUPで接続すると音のズレがほぼなくなり、まるでそばにいるように離れた場所のミュージシャンが合奏できました。うたい文句通りの低遅延が、実際の合奏で確認できたわけです。

  • 会場にはマイクを接続したスマホが設置され、ピアノとサックスの音をSRv6 MUPの5G回線で離れた場所にあるヤマハ浜松店の店内に届け、合奏する仕組み

  • ギターとドラムはヤマハ浜松店内で演奏する

【動画】通常の5G回線を用いたリモート演奏の様子。苦労しつつお互い合わせるようにしているが、徐々にテンポが悪くなってしまった

【動画】こちらはSRv6 MUPの5G回線を用いた時の様子。演奏は見事にシンクロしているのが分かる

  • 離れた場所にいる奏者と問題なくリモート合奏ができ、会場の奏者も思わず笑顔に

低遅延は自動運転やライブ配信、VRなどの分野で生きる

SRv6 MUPの本格導入はまだこれからで、いざ導入されても一般ユーザーがふだんの利用で体感できるほどの変化はほぼないとみられます。しかし、自動運転やライブ配信、VR、遠隔医療など特定分野の活用では欠かせない技術進化であるため、それらの分野では体験や機能の向上が得られることになりそうです。モバイル回線はエリアやつながりやすさ、通信速度だけが注目されがちですが、5Gのポテンシャルを底上げするこのような技術改良が進められていることも知っておくとよいでしょう。