クルマのサブスク「KINTO」が展開する「特選旧車レンタカー」のラインアップに2台のトヨタ自動車「AE86」(通称:ハチロク)が加わった。アニメ『頭文字D』の主役としておなじみの、あのクルマだ。見た目は昔ながらのハチロクでありながら、中身は最新型のエンジンと電気自動車(BEV)のシステムで蘇らせたという2台のハチロクは、どんな乗り味なのか。両方とも乗ってきたのだが、今回は最新エンジン搭載モデル「AE86 G16E Concept」についてお伝えしたい。

  • トヨタ「AE86 G16E Concept」

    「AE86」(スプリンタートレノ)の中身を最新の「G16E」エンジンに載せ替えた「AE86 G16E Concept」に試乗!

なぜAE86が復活?

今回乗ったのは、1980年代に若者から絶大な人気を博したトヨタのFRライトウェイトスポーツモデル「AE86」をベースに、トヨタが自らの手でパワーユニット(PU)を最新型エンジン「G16E」に載せ替えたコンバージョンモデル。ベースモデルは「スプリンタートレノ」だ。

  • トヨタ「AE86 G16E Concept」
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  • 「Vintage Club by KINTO」の「特選旧車レンタカー」に登場した2台の「ハチロク」。レンタル企画は2024年12月20日まで「GR Garage 東京深川」で実施中だが、すでに予約枠は埋まっている。事前抽選の倍率は約10倍と反響が大きかったそうで、特に応募が多かったのは20代と50代だったとのことだ

AE86といえば、現役時代(1983年~87年)に街や峠でよく見かけたのは「カローラレビン」で、筆者もレビンの方が好きだった。リトラクタブルライトのスプリンタートレノは、どちらかといえばマイナーな存在だったと思う。それが、漫画・アニメの『頭文字D』に主役として白黒パンダのトレノ(そのドアには主人公が“秋名山”のワインディング、特にダウンヒルを最速で駆け抜けて豆腐を配達したという「藤原とうふ店」の店名が書かれている)が登場したことで人気は逆転。そんな背景もあって、AE86の中古価格は高騰中だ。

トヨタはトレノとレビンの合計で13.69万台のAE86を生産(トヨタ調べ)したそうだが、国内ではそのうちの1.3万台がまだ“生存“しているという。ただし、当時搭載していた1.6L(テンロク)の「4AG」型エンジンは、チューニングや激しい使い方のせいで状態のいいものが年々少なくなっている。そこでトヨタでは、ハチロクに長く乗り続けてもらうための新たな選択肢を探るべく、中身を最新エンジンとBEVに載せ替えた2台のハチロクを開発した。KINTOを通じてなるべく多くのユーザーに試乗してもらうことにより、PUコンバージョンの事業化の可能性も探っているそうだ。

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    状態良好な4AGエンジンが少なくなると「AE86」に乗り続けることが難しくなってなってしまうわけだが、エンジンを載せ替える「PUコンバージョン」が事業化すればファンも安心だ

AE86 G16E Conceptはこんなクルマ

「AE86 G16E Concept」が搭載するパワートレインは、「モータースポーツを起点とした“もっといいクルマづくり」の中でトヨタが開発した1.6L直列3気筒の新世代エンジン「G16E」。このエンジン、もとはといえば「GRカローラ」や「GRヤリス」が搭載する高出力(304PS)のターボエンジン「G16E-GTS」なのだが、オリジナルの4AGエンジンと同等の出力とするためタービンを廃した自然吸気エンジンとし、あわせてハイレスポンス化も実施してある。最高出力は84kW(114PS)/7,000rpm、最大トルクは160Nm/3,200rpmだ。

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  • 匠の手によって製作されたDOHC12バルブ3気筒の「G16Eエンジン」。オリジナルの「4AG」エンジンとは反対側の右側に3気筒のエキパイが伸びる

エンジン換装により故障リスクの低減やクリーンで低燃費な環境性能、将来の代替燃料への対応のしやすさなどのメリットが生まれることになる。

開発担当者に話を聞いてみると、最も大変だったのは、背の高いG16Eエンジンをトレノの低いボンネット内に収めることだったという。このためオイルパンを新設したり、バランスシャフトを廃止したり、クラッチハウジングやフライホイール、エンジンブラケットを新設したりといった工夫を施し、さらにはヘッド上部にあるオイルキャップを純正から厚みの薄い特別なものに取り換えたり、FRPボンネットの内側センター部分を削ったりして対応したという。

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    背の高いG16Eエンジンを背の低い「スプリンタートレノ」に積み込むのには苦労したそうだ

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    背の高いエンジンを載せるためボンネット内側のセンター部分は削ってある

駆動系では、ミッションはクイックシフトの5MT、クラッチは「OS技研」、デフは「クスコ」、足回りではダンパーとスプリングが「コシミズモータースポーツ」、ブレーキは「ENDLESS」、14インチホイールは「weds」のレーシングフォージ、タイヤは185/60R14サイズのダンロップ「ディレッツァDZ102」を採用している。

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  • ミッションは5速のマニュアル(MT)

エクステリアでは、ボディサイドに「藤原とうふ店」の代わりに「G16Eエンジン車(実験用)」のデカールを入れた遊び心が秀逸。「GTV TWINCAM 16V」の部分は「GTV TWINCAM G16E」とし、エンジン換装車であることをアピールしている。

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  • 「AE86 G16E Concept」のボディサイズは全長4,215mm、全幅1,625mm、全高1,315mm。最低地上高は保安基準の9cmよりわずかに高い11cmとした

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  • 「G16Eエンジン車(実験用)」のデカールなど随所に遊び心が見て取れる

インテリアはBRIDE製バケットシートを奢ってある。ステアリングは藤原拓海が愛用していたイタルボランテの「アドミラル」ではなく、ナルディのスポーツタイプでディープコーンのものを装着。シートベルトを締めても手が届きやすい仕様になっていた。

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  • BRIDE製バケットシートとナルディのステアリングで仕上げた室内

街を走ると注目度抜群! みんなが笑顔になっていた

さっそくG16Eに火を入れて駐車場を出る際には、ノンパワステの切り返しの重さと、こちらも重めのクラッチのミートポイント探しにちょいと苦労する。

一般道に出て走り出すと、このエンジンは意外や意外、低速トルクが豊富でとても乗りやすいことに気がつく。クイックシフトもスパスパとよく決まりだし、右足裏の細かな動きに正比例するハイレスポンスなエンジンと小型・軽量(980kg)のボディのおかげで、2~4速あたりを多用する街中ではスピードコントロールがとてもしやすい。

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    一般道を走ってみると、低速トルクが豊富で乗りやすいクルマであることがわかった

低回転域では、バランスシャフトのない3気筒エンジンのブルブルとした振動がナルディのステアリングやTRDのレザーシフトノブに伝わってくるけれども、2,000回転を超えればこっちのもの。トヨタエンジン特有のちょっとウェットな「ドリュリュリューン」というサウンドを発して、元気に走ってくれる。ホンダVTECのように高回転で乾いたような音を発するエンジンではないことは、アニメの中でハチロクとシビックが対決する場面を見たことがある人には言わずもがなかもしれないが、まさにあの音を4気筒ではなく3気筒で忠実に再現できているのは、正直エライ!

さらに、リアに装着したLSD(リミテッドスリップデフ)とウルトラハイグリップではないタイヤのおかげで、軽くアクセルを踏みながら交差点を曲がっただけで「キュキュキュッ」という音とともにリアタイヤが滑る。もう、ルームミラーを見なくても、自分のほっぺが緩んでいるのがわかる。

街中だけの1時間半ほどの試乗だったので、秋名山の下りのように、イン側の溝にタイヤを引っ掛ける「溝落とし」や「インベタ」のインを差す4輪ドリフトなどを体験したわけではないけれども、普通に交通法規を遵守して走っているだけでも楽しい。信号で止まると、佐川急便のお兄さんはこちらを見てニコニコしているし、二輪に乗る青年は笑顔で親指を立ててサムズアップ。隣に止まった「アルファード」のおじさんは、わざわざ窓を開けて挨拶までしてくれるではないか。やっぱりみんな、このクルマを知っているのだ。

  • トヨタ「AE86 G16E Concept」

    街を走っているとクルマ好きと思しき皆さんからの注目度がスゴかった

さて、次は電気自動車版のカローラレビン「AE86 BEV Concept」に乗ることに。費用の話なども含めた続きは別稿で。

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