第83期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は5回戦が進行中。11月14日(木)には佐藤天彦九段―稲葉陽八段の一戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、佐藤九段得意の四間飛車を巧みな手順で攻略した稲葉八段が93手で勝利。今期初勝利として残留に望みをつなぎました。

譲り合いの振り飛車戦

ここまで佐藤九段4連勝、稲葉八段4連敗とはっきり明暗が分かれるなかでの5回戦。振り飛車党への転向で話題となる両対局者、この日は稲葉八段が振り飛車を譲る形で幕を開けました。後手の佐藤九段がクラシカルな四間飛車に構えたのを見て先手の稲葉八段は右桂を跳ねて早い戦いを求めます。

右辺で戦機をつかんだ稲葉八段は飛車を大きく活用してペースをつかみます。戦いが一段落した局面は双方の飛車の働きに大きな差が生じて先手有利が明らか。佐藤九段としては4筋を守るために構えた金銀の厚みが裏目となって大駒のさばきに苦労させられた格好です。実戦はここから稲葉八段の独擅場となりました。

稲葉八段が快勝

佐藤九段が非常手段的に放った桂跳ねは自玉の逃げ道を作りつつ先手玉に嫌味をつける実戦的な勝負手ですが、稲葉八段の対応は最後まで冷静でした。自玉に詰めろがかからないのを見抜いて攻め合いを望んだのが決め手。稲葉八段の駒台には豊富な持ち駒があり後手玉が寄せられるのは時間の問題となっています。

終局時刻は23時53分、最後は先手玉への攻めが続かないのを認めた佐藤九段の投了により稲葉八段の今期初勝利が決定。積極的な仕掛けからリードを広げた快勝譜となりました。これで全勝者・全敗者がともに消えたA級は挑戦権争い・残留争いからますます目が離せません。

水留啓(将棋情報局)

  • ともに1勝4敗で迎える次局の豊島将之九段―稲葉八段戦は残留に向けた大一番となりそうだ

    ともに1勝4敗で迎える次局の豊島将之九段―稲葉八段戦は残留に向けた大一番となりそうだ