リクルートは、同社が運営する転職支援サービス『リクルートエージェント』の転職支援データを分析し、女性の転職動向に関するメディア勉強会を11月13日に開催した。
課題はM字ではなく「L字カーブ」
はじめに、リクルートのHRエージェントDivision カスタマーサービス統括部長 熊本優子氏から、年間約8万人の転職支援をしている『リクルートエージェント』における女性の転職者数が、2023年度は2013年度の5.09倍に伸長していることが発表された。
全体の転職者数推移と比較しても伸び率は高く、10年で女性の転職が加速。また、契約社員や派遣社員から正社員へ転職している女性は約6倍になっており、転職によって雇用形態を変えている様子がうかがえるという。
熊本氏によれば、女性の労働市場においての現在の課題はM字カーブではなく「L字カーブ」。
M字カーブは、年齢層別に見た女性労働率のグラフで20代後半~30代前半で下降する傾向を表した曲線。結婚や出産を機に離職し、育児が一段落したら再び働きだすという、日本における女性の労働の特徴を示したものである。
だが、企業などの制度が整ってきたことにより、出産後に離職せずに働き続ける女性は増え、M字カーブは解消されつつあるという(総務省「労働力調査(基本集計)」(令和4年)参考)。
一方、正規雇用率が20代後半をピークに減少する「L字カーブ」に、近年課題があるとされており、「これはライフイベントなどを理由に正規雇用から非正規雇用化しているため」と熊本氏はコメント。
しかしながら、同社調査によれば近年正社員へ転職する女性が増えている点から、これはL字カーブ解消の兆しとも言える可能性がある、ともした。
ブランクのある女性の転職事例
本勉強会では、ブランクのある女性の転職成功事例も紹介された。
産育休で4年間のブランクがあった30代前半女性の場合、契約社員・パート・派遣社員経験を経て正社員で営業職へ転職し、年収も約70万円アップ。評価されたポイントとして、ITパスポート取得にチャレンジするなどの行動意欲の高さと、過去の事務職経験から得たPCスキルだったと話す。ちなみに、彼女の場は計70社ほど応募して希望の転職先が見つかったとし、粘り強さも一つの特徴だという。
続いて、約10年の正社員ブランクがあった30代後半女性の場合は、正社員で営業事務職へ転職し、年収も約80万円アップした。彼女の場合は、働く意欲と明るい人柄、育児経験から得たマルチタスク能力や仮説検証を日常的に行っている点が評価されたという。
それぞれのスキルや経験は異なるものの、いずれも評価されたポイントとして「意欲」が挙げられていた。
また、転職成功者でスキルや資格として持っている割合が多いのは、「IT系スキル」とのこと。そのほか、「IT業界は、人材不足の状況が続いているので、就業経験として開発経験がなくても勉強をしている・勉強する意欲があることをベースに未経験者の採用を検討する企業は一定数の割合います」と、熊本氏は解説した。
ブランクに対する企業のスタンス
では、ブランクについて企業はどのようにとらえているのだろう。これは、多様性への受容度、人材不足に対するひっ迫度合いによって異なるという。
「組織風土として多様性を比較的オープンに受け入れる組織か、新卒の割合が多い同質的な組織かではブランクについての考え方は異なる」とし、比較的多様性を認める企業風土であれば、ブランクがある人材も受け入れられやすいよう。加えて、採用にどれだけ困っているか、人手不足に対するひっ迫度合いも大きく関係するという。
社会全体で労働力不足やダイバーシティが騒がれている昨今、企業側の姿勢もその流れにあわせて変化してきていることがうかがえた。
家事・育児経験は仕事にもつながる?
今回の勉強会で非常に興味深かったのが、家事・育児スキルをビジネスシーンでどう生かすか、を表した一枚の表である。例えば、同時進行でやることが多い家事・育児は、「マルチタスク対応力」につながる、といったように家事・育児をビジネススキルに転換。
これは実務経験が少ない女性たちの経験を、どのようにビジネスと紐づけ、アピールしていくかを考えた同社ならではのアプローチである。
熊本氏は「現段階では育児・家事スキルが強みとして明確にクライアントに認められているわけではない。ただ一方で未経験でも採用の対象者として候補者を探したいという企業は増えてきている」と解説。個人的にも双方をマッチングする上で、このようなアプローチは有用だと感じた。
人口減少に伴い、人材不足が課題となる昨今だが、リクルートワークス研究所が発表した労働者シミュレーションによれば2030年には340万人が、2040年には1,100万人の労働供給不足が発生すると試算されている。労働供給制約社会が待ち受ける中、ブランクのある女性など、働く意欲がある人をいかに囲い込めるかが、企業や社会の成長に大きく関わってくるのではないだろうか。