社会人になると、何日もかける本格的なツーリングは計画しにくい。いい季節に、それなりの規模感で……なんて条件を加えると、現実離れしてしまいがち。そこで、近年は短い日程で走りたい道だけを巡るツーリングをするようになった。今回の目的地は北海道の最北端にある「白い道」と「オロロンライン」の2ヵ所、2泊3日の旅だ。

  • 稚内市観光交流課 提供

※編集部注:「白い道」は2024年11月5日より冬季通行止め。解除時期は4~5月頃を予定。

北海道最北端、2泊3日のツーリング

羽田空港から稚内までは便利な直行便がある。現地着が昼過ぎになので半日ほど失ってしまう。経由便を使えば80分ほど早く着くが、飛行機輪行で自転車が傷ついたり、交通費も高くなってしまうため、直行便を選んだ。

  • 57基の風力発電機があるユーラス宗谷岬ウインドファーム。

自転車のツーリングで稚内を訪れたのは4回目。だが、飛行機の便数が少ないので、空港に降り立ったのは初めて。コンパクトで人のまばらな空港は乗客も少なく、あっという間に人がいなくなる。

手早く輪行袋から自転車を出し、使わない荷物はコインロッカーへ。最近は空気入れがある空港も増えているので、事前に調べておくといい。ちなみに稚内空港には用意がないので、持参したインフレーターは空気を入れてロッカーへ。荷物はできるだけ軽くしたいので、走行中のパンクはCO2ボンベで対応することにした。

  • 約3000頭の肉牛が飼育されている宗谷丘陵。

気温は15℃(9月11日)。自宅周辺と比べると約10℃ほど低い。気温差が大きいので涼しく感じるが、走り出せば快適な気温である。

1日目は稚内・白い道へ

国道238号線を東に向かう。今回の相棒はロッキーマウンテン・Solo Alloy30。アルミ製フレームに太くて未舗装路用にも対応するタイヤを履いている。ディスクブレーキには油圧と機械式があるが、後者が選択されている。この手のタイプは、何と言っても飛行機輪行でもメカトラブルの心配がないのがメリットだ。

ツーリングや人の少ない地域を走るときは、レースに求められるような性能よりも、トラブルが起きにくく、万が一の時もメンテナンスのしやすいバイクがいい。

機内から見えた宗谷丘陵にむけて海岸線を走る。路面の状態は抜群にいいとは言えないが、40Cの太いタイヤを装着しているので少々舗装が荒れていようが、小さい凹凸があろうが全く気にならない。

交通量が少ないので、走りやすい。正確には追い風に乗って実力以上にペースが速い。ちょっと真面目にペダリングすると時速40㎞も出る。風速計によると9m/s。これは時速32㎞の風が後ろから押してくれているのと一緒。風力発電所のプロペラが勢いよく回っているのも納得である。

稚内から網走に至る国道238号線は総距離319.6㎞、三桁の一般国道としてはもっとも距離が長い。

以前、サイクリング部の学生は追い風に乗って、ツーリング仕様の重い自転車ながら1日で走破すると聞いたことがある。私は何回かに分けて国道238号を走破したが、とてもじゃないが1日では無理である。

  • 分かれ道には白い道への案内板が整備されている。

“白い道”の絶景を堪能するのであれば、宗谷公園を過ぎて“宗谷周氷河ロード”からがアプローチするのがオススメ。観光協会の作った動画では宗谷岬を越えてから内陸に進路を取っていたが、出発も遅かったので手前側から宗谷周氷河ロードへ。

※編集部注:宗谷周氷河ロードから上猿払清浜線へ直進、宗谷丘陵フットパスコースに沿って右折する

すぐに登りが始まる。とは言っても、勾配も概ねキツくないし、高いところまで登らされるのでもない。20~200mの丘が連なる地形は土が凍ったり、融けたりするのを繰り返して作られたもので、道路の名称にもある“周氷河地形”というらしい。

荷物を積んでいるので軽快に走るという感じではないが、ギヤ比の小さなローギヤを使ってゆっくり走ればいい。周囲はなだらかな稜線の丘陵に、いくつもの風力発電用の風車が回り、ちょっと日本離れした景色を楽しめる。

  • 3㎞を整備するのに使われたホタテ貝は600トン。2年に一度450トンほど補充している。

標識に従ってペダルを漕いでいくと、念願の白い道に入る。路面が白いのはホタテの貝殻を敷き詰めたからで、2011年に産業廃棄物として処理に困っていたホタテの貝殻を、稚内市の職員のアイデアで敷き詰めたのが始まりだそうだ。

路面はロードバイクでもギリギリ大丈夫だと聞いていたが、ちょっと太めの25c以上のタイヤなら、慎重に走ればまったく問題ない。2024年に貝殻を補充し、路面を整備したてとあって、所々にキャタピラの跡が残っていた。初心者でもグラベルバイクなら全く問題ないし、ロードバイクやクロスバイクでも走れるだろう。

緑の丘陵を貫く白い道、海が見えて、空もわずかに青空が見える。写真で見た以上の絶景だ。モーターサイクリストの人たちも、あちこちで愛車を駐めて撮影をしている。 白い道は一方通行ではないが、内陸側からアプローチが推奨されている。それは道幅が狭く、海に向かって下っていく方が圧倒的に景色がいいからだ。

何回かペダルを止めて景色に見入ったが、今晩の宿は稚内の駅前。猛烈な向かい風の中を走らねばならないので、早々に走り出す。空港を出発するときから覚悟を決めていたせいか、思ったよりはキツくない。淡々とペダルを踏んで、1日目は終了。

2日目はオロロンラインを目指す

2日目は宿から程近い、北防波堤ドームからスタート。ノシャップ岬を回って南下する予定だったが、今日も強風注意報が発令されている。西北西の風が風速6~7メートル、しかも午後になると強くなるという。

  • 標識にロシア語が併記されている。

近くにいたサイクリストに「午前中に距離を稼がないと、午後からはキツいですよ、ここは。方角次第で平地峠(向かい風で登り坂のようになる)です」と教えてもらい予定変更。この方、東京から1ヵ月かけて稚内まで走ってきたという。私は2泊で……というと、「贅沢ですね」と言われたが、ゆっくりと時間をかけられるほうが羨ましい。

というわけで、後半に強い向かい風はゴメンなので、予定のコースを逆走することにした。予定変更といっても、元々、適当に南下して、国道40号で戻ればいいやぐらいにしか考えていない。とりあえずの目標はサロベツ湿原センター。気の向くままにしばらく走って、時々、軌道修正を繰り返す。

  • アルミフレームながら、軽量で高い走行性能を誇るロッキーマウンテン・Solo Alloy30。

  • 冬季の北西越波防止のために建設された半アーチ式ドーム。柱間6mの円柱70本を並べ全長427mを誇る。

  • サイクリング専用道ではないが、国道40号沿いには脇道があり走りやすい。

  • ちょっと脇道に寄り道できるのもグラベルバイクのいいところ。

向かい風が強く、何度か追い風に乗って引き返そうかとも思った。普段、風速7mだったら、走りに行くのは中止する。しかし、わざわざ北海道まで来たことだし、我慢しながら距離を稼ぐ。

  • サロベツ湿原センターから延びる散策路。東京ドーム1400個分、国内で3番目の規模を誇る。

サロベツ湿原センターで遅めのランチを取り、早々に出発する。もうひと我慢すれば、今日のハイライト“オロロンライン”だ。

稚内市から石狩市までの国道231、232号、および道道106号を含む日本海岸を走るオロロンラインは、直線路の美しい絶景ルートとして有名だ。全長は320㎞あり、食事を補給できる店がないため、補給食などをしっかり用意しておく必要があることでも知られる。

  • 左手に利尻富士を眺めながら、ひたすら真っ直ぐな道が伸びる道道106号。

巷間、直線路は30分もすれば飽きると言われる。だが、荒涼とした北の大地を走る感じは、旅情をそそる。100㎞も走れば飽きもするだろうが、稚内までの距離なら、その心配もいらない。むしろ、あまり速く走ってしまうと物足りないのでは……と思うほど。脚力はとっくに低下しているが、追い風にのってペースはぐんぐん上がる。

途中、何人かのサイクリストと一緒になって言葉を交わした。札幌から小径車で走ってきた女性や、台湾から夫婦で1週間ほどのツーリングを楽しんでいる人たちなど、やはり黄金ルートである。

  • 山岳、海食崖、湿原、海岸砂丘など変化に富んだ景観を誇る日本最北の国立公園。

2日間で走った距離は約160㎞。初日が60㎞、2日目が100㎞ほど。強風のせいで距離以上の満足感があったが、風向きに恵まれれば、クロスバイクでも完走できるだろう。

今回の2泊3日ツーリングで用意した装備やTipsに関しては、次回お伝えしていこう。