今、“第3のカメラ”がにわかに人気である。第3のカメラって言葉はさっき思いついたのだけど、そう表現するのが一番かな、と。
今の人たちにとって「第1のカメラ」はスマホ、「第2のカメラ」はデジタル一眼だ。かつて一世を風靡した「コンパクトデジカメ」は、スマホの進化によっていつの間にか市場がシュリンクし、それを知らない世代が多いのである。
でも、スマホとデジタル一眼の間にギャップが残った。そこを埋めるのが第3のカメラだ。大仰な言い方をしたのは、そこに位置するカメラのバリエーションが実に広いから。
チェキを代表とするインスタントカメラもそうだし、TikTokをきっかけに一部で流行したトイコンデジもそうだし、「写ルンです」を含むフィルムカメラもそこに位置する。そして、かつてのコンパクトデジカメが“オールドコンデジ”という名でそこに含まれるのである。
どうやら、最初に使ったカメラが「スマホ」で、それ以外に目にするのは「デジタル一眼」という世代には、オールドコンデジが新鮮に映るようなのだ。
オールドコンデジの何が面白い?
普通、「第3のナントカ」といえば新しく登場した新ジャンルという印象だけど、面白いのは、アナログやデジタルの古いカメラが若い人に“再発見”された結果であること。
ここで注目するのが、オールドコンデジと呼ばれるカメラたちだ。特に定義はなさげだが、だいたい2000年代半ばから2010年半ばくらいの、コンパクトデジカメ全盛期の製品と思えばいい。
わたしが「今、古いコンデジで撮る写真がエモい、と人気だよ」と教えてもらったのが2023年初頭。「まさかそんなことが?」と調べてみると、2022年くらいからSNSを中心に、カメラがコンパクトでかわいい、撮れる写真がエモい、などの理由で流行っていたのである。
古いコンパクトデジカメで撮った写真のみならず、“モノ”としてコンパクトデジカメを愛でるなど、「オールドコンデジ」という世界そのものを楽しんでいる風である。
なぜだろうと考えたとき、ふと思い出したのが自分たちの若いころ。1990年代から2000年初頭くらい、ホルガやロモといったトイカメラが流行ったことがあったのだ。
発端は、1984年に当時のソビエト連邦で発売された量産カメラ「LOMO LC-A」を、90年代初頭にウィーン大学の学生がプラハで入手し、そのカメラにハマったのがはじまりだ。それは今のロモグラフィー社につながるのだけど、日本にもその文化が入ってきて、ロモやホルガといったチープで安いカメラで撮った写真が「エモい」(当時はそんな言い回しはなかったけど)と、主にサブカル系の文脈で盛り上がったのだ。
何でもない日常の一瞬がアートになる、という感覚。今のスマホカメラを使い慣れた人に、オールドコンデジはそういう存在なのかもしれない。
オールドコンデジを復活させてみた
ほんとにオールドコンデジはエモい写真を撮れるのか。ちょっと復活させて試してみたい。
ただ、オールドコンデジとひと口にいっても、世界初のモニター搭載コンデジであるカシオ「QV-10」の発売が1995年なので、あれから30年近く。
黎明期のデジカメは、基本が35万画素。当時、パソコンの画面はVGA(640×480ピクセル)が基本だったのでちょうどよかったのだが、今の解像度が高いパソコンの画面で見ると、100%表示にしても画面の真ん中にちょこんと表示されるだけで、時代を感じさせる。
しかも、1枚撮影すると次の撮影まで5~10秒も待たされるとか、バッテリーが1~2時間しか持たないとか、今から思うと製品としてどうよ、って感じだったのである。
だがしかし、デジタル機器黎明期のあるあるで、一度走りはじめるとそのあとの進化が速いのだ。
1997年には、オリンパスの「C-1400L」が100万画素に到達。あれよあれよという間に、2000年には200万画素が当たり前になり(ちょうど、シャープがカメラ付ケータイを発売した年だ)、デジタルカメラの普及がはじまる。
そうなると開発はさらに加速。いつのまにか300万画素400万画素と増え、2006年には1,000万画素を超えた。2010年代には、イメージセンサーがCCDからCMOSセンサーへ切り替わり、画素数競争も1600万画素で一段落するのである。
1600万画素CMOSセンサー時代になると、今使っても「古いカメラならではの面白み」があまりない。当時の雰囲気を思い出しつつ「オールドコンデジ」として楽しむなら、ゼロ年代から2010年ちょいすぎくらいの製品かなと思う。
バッテリーと記録メディアに注意
ただ、2004年のカメラといっても実に20年前。デジタル機器の20年であるから、壊れずに動いてくれるか、も含めて注意点が3つある。そこからおさえていきたい。
ひとつめはバッテリー。初期のモデルや、廉価モデル(低価格で質感もプラスティックなエントリーモデル)は単3型乾電池2本、あるいは4本で動作するものが主流だったので、今でも問題なくバッテリーの入手はできるし、充電式のニッケル水素電池を用意すればいい。
問題は、リチウムイオンバッテリーを用いるモデルだ。当時のバッテリーがまだ使えるかどうか。
手元にある15~20年前のオールドコンデジの復活を試みたところ、意外にも生き返ったバッテリーが多かったが、なかにはどうやっても充電できなかったものや、一晩充電器に入れて放置したら何とか復活したものもあった。これはもう試してみるしかない。
もし、バッテリーが膨らんでいたりしたら危険なので、即座に処分すること。
コンパクトデジカメのバッテリーはメーカーごとの互換性はないし、たとえ同じメーカーでも機種ごとに違うことが多かった。現在、バッテリーだけの入手は困難かと思うから、チェックは必須。
2番目は記録メディア。
2010年代以降のデジカメの記録メディアは「SDメモリーカード」(以下、SDカード)が事実上のスタンダード。たまにmicroSDカード採用のカメラもあるが、どちらも入手は容易で、SDカードがあればなんとかなる。
でも、SDカードが完全にスタンダードになったのは2010年ごろのことで、それまでに紆余曲折があったのである。
何しろ、初のSDカード採用機が2000年のこと。SDカードは“新しいメディア”だったのだ。その前は複数のメディアが乱立していた。
ひとつはスマートメディア。これは、富士フイルムとオリンパスを中心に数社あった。
ふたつめは、ソニーが提唱したメモリースティック。ソニーのCyber-shotが採用していた。
みっつめは、CFカード(コンパクトフラッシュ)。他の2つに比べると分厚く大きくてコスト面でも不利だったが、多くのデジタルカメラが採用。ボディサイズに余裕があるハイエンドのデジタル一眼レフでは、今でも採用されている。
フロッピーディスクや8cm CD-R、MDに記録するカメラもあったが、それらは採用例がきわめて少ないので省略。
そのような混沌とした状況に現れたのがSDカードなのだ。
その後、各メーカーが続々とSDカードに移行した。
ソニーは、自社のメモリースティックを採用し続け、より小型のメモリースティック Duoが主流に。
富士フイルムとオリンパスはどうしたかというと、なんとスマートメディアの次にxDピクチャーカードという独自規格の記録メディアを作ってしまったのだ。でも、SDカードがデファクトスタンダードになる流れはいかんともしがたく、富士フイルムもオリンパスも最終的にxDピクチャーカードとSDカードの兼用スロットを経てSDカードに落ち着いた。
ソニーも、メモリースティック DuoとSDカードの兼用スロットを搭載するに至り、やっとコンパクトデジカメのメディアはSDカードに統一されたのである。それが2010年ごろだ。
メモリースティック系やxDピクチャーカード、さらにはスマートメディアでも対応するカードリーダーは現在でも入手可能なので使えないことはないけれども、より古いカメラを引っ張り出すときは注意したい。
3番目は……カメラが壊れてないか。とりあえずバッテリーが復活して、カメラに入れて電源を入れて動作確認だ。
メカ部が壊れていてレンズが出てこないとか、エラーが出るってケースもあれば、特定のボタンの接触が悪くて操作しづらいケースもあった。
イメージセンサーかその周辺の電子回路が壊れているのか、まともな画像を撮れないことも。
盲点なのが、日時の保持。カメラ内の時計用バッテリーが死んでいると、バッテリーを入れ替えるたびに日時がリセットされるはめになる。
これらのトラブルは、すべてわたしの手元にある古いコンパクトデジカメを復活させようと試したなかで発生したもの。さすがに10年20年経ったデジタル製品であるから、目に見えない不都合が発生したりするのである。
中古オールドコンデジを入手しよう、と考えている人は、このあたりが要チェックといえる。
あ、液晶モニターが見づらいのは……さすがに劣化もしてるけど、基本的に当時の仕様です。ついでにいえば、AFが遅かったりときどき背景にピントが合っちゃうのも当時の仕様です。よしなに。
ポケットに入る小さいカメラが欲しい
我々「デジカメ老人会」世代から見ても、Z世代の目の付けどころはすごくいいと思う。
日常的に「スマホ」と「ミラーレス一眼」を使っていると、「その両者の間を埋めるポケットに入るような手軽なカメラが欲しい」ことが増えてるのだ。
だがしかし、気軽に扱えて手ごろな価格のズームコンデジは、現行モデルにほぼないのである。そのジャンルをスマホが奪ったからなんだけれども、いざ失われてから、それを知らない世代に再発見されたのが、実に現代的だと感じるのである。
オールドコンデジなら「安く」入手できるのも見逃せない。
日常の記録として、どんなシーンでもそこそこのクオリティで残してくれるならスマホカメラに勝るものはないけど、味のある「エモい」写真を撮ってくれて安くて小さいカメラとなれば、復活させて損はなかろう。特に、内蔵フラッシュを使った撮影は……スマホにはない写りを楽しめて新鮮。
次回は、実際に大量の復活を試みたカメラのなかから、今でも使えるカメラを具体的にピックアップして試してみたい。超高速AFとか超高感度とか高速連写とか、そういうのはまったくもって無縁だけれども、写りという点では実に魅力的なのだ。