奏仁会 大阪梅田紳士クリニックは11月7日、「男性の年齢と精子の質に関する最新データ」を発表した。調査は2024年9月1日~9月30日、同クリニックで実施した妊活前後の男性965名の精液検査結果(2022年~2023年の2年間分)を集計し、統計データをまとめた。
男性不妊の現状
「現在、日本ではカップルの約15%が不妊に悩んでいる。そのうち、男性側に原因があるケースは全体の約半数を占めていると言われている。しかし、男性不妊に対する認識はまだ十分とは言えず、検査を受ける男性は限られている。女性の年齢が妊娠や出産に影響を与えることはよく知られているが、男性の年齢も妊娠に関わるという点については、まだ一般的な理解が十分進んでいない状況」と同クリニック。
男性ブライダルチェック・精液検査の解析
同クリニックでは、2022年1月~2023年12月までの期間に965名男性のブライダルチェックを実施。ブライダルチェックとは、結婚・妊娠に関連する健康診断のような検査のこと。大きく妊娠能力をチェックする精液検査と性感染症のチェックがある。精液検査のデータを分析することで、男性の年齢と精子の質、運動率との関係が明らかになった。
今回の検査には、10代~70代まで幅広い年齢層の人々が参加した。最も多かったのは30代で、全体の半数以上を占めている。次いで20代、40代の順となっている。
平均精液量は、年齢とともに少なくなっていくものの、40代までは比較的保たれているのが分かる。50代以降は、平均精液量が大きく落ち込み、60代では20代の半分近くまで数値が落ちている。
精子運動率は、42%以上が正常とされ、この基準を下回ると、「精子無力症」と診断される。精子の運動性は、卵子に到達するために欠かせない要素。運動率が低下すると、妊娠の可能性が下がることが知られており、精子無力症に該当する場合、年間の自然妊娠率が健常者に比べて半分ほどに落ち込むという報告もある。
精子無力症の割合は、年齢とともに精子の運動率が下がることが分かる。さらに精子の運動性を「良好な運動精子」「やや良好な運動精子」「やや不良な運動精子」「不動精子」の4段階に分類して、年齢別に比較してみると、年齢が上がるにつれて「良好」「やや良好」の割合が減少し、「不動精子」が増加することが確認された。
精子濃度は、1600万/mL以上が正常とされ、この基準を下回ると、「乏精子症」と診断される。乏精子症に該当する場合、程度にもよるが、基本的には自然妊娠が健常者に比べて困難であるとされている。各年代別に、乏精子症の割合を見てみると、どの年齢層を見ても、概ね10%以上の人が該当することが分かった。これは、「年齢に関係なく、一定の割合でおよそ10人に1~2人は乏精子症であり、自然妊娠が困難な傾向にある」ということになる。
男性のプレコンセプションケアの重要性
調査とあわせて同クリニックでは以下のように解説している。
一般的に、男性側の妊娠因子として重要なのは、精子の運動性と数。つまり、妊娠には運動性の良い精子が多数存在し、卵子に到達する可能性が高い状態を維持することが望まれる。しかし、今回のデータが示すように、加齢だけでなく、精子の状態は男性自身の健康状態にも大きく左右されることがわかっている。
そのため、妊活を進める際には、男性の健康管理にも十分な注意が必要であることから、同クリニックでは、男性の「プレコンセプションケア」を推奨している。一般的にプレコンセプションケアとは、将来の妊娠を意識した生活習慣の改善や健康への取り組みのことで、ここで言う男性のプレコンセプションケアは、妊娠を考える前の段階で、男性が自身の健康を整え、精子の質を向上させるためのケアを指す。このケアを実施することで、男性が生活習慣を見直し、加齢による精子の質の低下を抑制しやすくなり、妊娠の可能性を高めるだけでなく、将来生まれる子どもの健康にも良い影響を与えることが期待される。
具体的に、まず大切なのは「生活習慣の改善」。喫煙や過度の飲酒、生活習慣の乱れは、精子の質を低下させ、加齢による精子の質の低下を一気に加速させてしまう要因となる。
精子の健康を保つためには、禁煙や節酒はもちろん、日頃からの適度な運動やバランスの取れた食事を心がけることが大切。また、肥満や過度な体重の減少も、ホルモンバランスを崩し、精子の数や運動性に悪影響を与えることがあるので、注意が必要だという。
さらに、ストレスを管理し、しっかりと睡眠をとることも精子の質を保つ上で重要に。その他、感染症や性行為感染症の予防にも気を配り、定期的な健康診断や精液検査を受けることで、自身の健康状態を把握することを心がけることが大切だという。