◆Q. 同じ処方箋・同じ規模の薬局。値段が違うことがあるのはなぜ?
Q. 「同じ処方箋を、同じような規模の薬局に持って行っても値段が違うことがあります。薬局によって支払額が違うのは、『調剤基本料』が違うからだと理解していますが、調剤基本料が同じでも支払額が変わってしまうことはあるのでしょうか?」
◆A. 同じ有効成分の医薬品でも、複数の製品があるためです
病院で発行された処方箋は、患者自身が薬局に持参して、薬を提供してもらうことになります。日本では、国が薬の「公定価格」を定めています。つまり、いわゆる「薬価」は同じということです。
そのため、どの薬局に行っても支払い額は同じと思っている方が多いのですが、実は同じ規模の薬局で受け取っても、支払額が違うこともあります。その理由を解説しましょう。
処方箋を薬局に持参して薬をもらうときに支払う「お会計」には、「調剤技術料」「薬学管理料」「薬剤料」「特定保健医療材料料」という4項目が含まれています。このうちの「薬剤料」が、まさに薬の代金そのものです。
薬価は、全国どこの薬局でも共通なので、違いはありません。ただし、同じ成分の医薬品でも、薬局ごとにどのメーカーのどの製品を常備しているかは異なります。そのため、同じ処方箋で調剤を依頼しても、提供される製品が異なり、薬剤料が違うことがあるのです。
同じ一つの有効成分を含有した医薬品にも、先発品と後発(ジェネリック)品の2種類があり、先発品よりも後発品のほうが値段は安く設定されています。さらに、後発品にも値段の違うものがあります。
各社の後発品が販売開始されたときの薬価は同じなのですが、定期的に改定されることで、実績に応じて薬価は変わっていきます。特に近年は、医療費削減の観点から薬価の引き下げが続いているため、古くから販売されてきた製品ほど安い傾向があります。
例えば、血中コレステロール値に異常がある「脂質異常症」という病気の治療用としてよく処方されている「ロスバスタチン」という薬の5mg錠には、現在のところ14の製品が発売されており、以下のように5段階の薬価が存在します。
【1錠 36.3円】
クレストール錠5mg<先発>
【1錠 23.0円】
ロスバスタチン錠5mg「共創未来」<後発>
【1錠 20.6円】
ロスバスタチン錠5mg「DSEP」<後発>
ロスバスタチン錠5mg「TCK」<後発>
ロスバスタチン錠5mg「JG」<後発>
ロスバスタチン錠5mg「科研」<後発>
ロスバスタチン錠5mg「ケミファ」<後発>
ロスバスタチン錠5mg「タカタ」<後発>
ロスバスタチン錠5mg「トーワ」<後発>
ロスバスタチン錠5mg「KMP」<後発>
【1錠 13.0円】
ロスバスタチン錠5mg「ファイザー」<後発>
【1錠 10.1円】
ロスバスタチン錠5mg「サンド」<後発>
ロスバスタチン錠5mg「日医工」<後発>
ロスバスタチン錠5mg「フェルゼン」<後発>
この薬は通常1日1回1錠を飲むので、1カ月(28日分)の薬代でみると、最も高い先発品だと約1016円なのに対して、最も安い後発品なら約283円、とかなりの差が出ます。
さらに、後発品を希望したとしても、利用した薬局が置いている製品が最高値(23.0円)のものだった場合と最安値(10.1円)の場合では、1カ月の薬代が360円も違ってきます。
どの薬局がどのメーカーのジェネリックを取り扱っているかを、薬局に行く前に知ることは難しいでしょう。しかし、持病があって長期的に同じ薬を飲む必要がある場合は、たくさんある同等品の中で、自分の薬は高いほうなのか安いほうなのかを知っておくとよいかもしれません。
薬局によっては質問に対応してくれる可能性もありますし、最近では薬剤名から薬価を調べることのできるアプリもありますので、気になる方は調べてみるとよいでしょう。
◇阿部 和穂プロフィール
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
文=阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)