テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、10月にスタートした秋ドラマについて、初回の注目度ランキングを作成し、人気の傾向を分析した。

NHKの土曜ドラマ『3000万』が、個人全体注目度73.4%で1位を獲得。7月クールの初回放送個人全体注目度は、1位の『マウンテンドクター』が68.4%だったことからも、秋ドラマの注目度が非常に高いことがうかがえる。

  • 『3000万』に出演する安達祐実(左)と青木崇高

    『3000万』に出演する安達祐実(左)と青木崇高

ウソを重ねてしまうことで破滅の道へ

『3000万』は、平凡な夫婦が、ある事故をきっかけに突然3000万円という大金を手にし、事件に巻き込まれていく……というクライムサスペンス。社会問題となっている「闇バイト」が絡んだストーリーで、男性注目度1位、女性注目度2位と、性別問わず高い注目を集めた。

安達祐実演じる主人公・佐々木祐子は、家のローンや息子の教育費のことで頭がいっぱい。それに対し、青木崇高演じる元ミュージシャンの夫・義光は稼ぎが少ないにもかかわらず「なんとかなる」と楽観的。味元耀大演じる息子の純一はピアノの才能があり、先生に新しいピアノを買うように催促されている。そんな中、一家が交通事故に巻き込まれ、大金が入ったカバンを持ち帰ってしまったことをきっかけに、物語は動き始める。夫婦がことごとく選択を間違え、ウソを重ねてしまうことで破滅の道へと進んでいく様子に、多くの視聴者が引きつけられた。

事件に巻き込まれる夫婦が「どこにでもいる普通の夫婦」であったことも、視聴者をくぎづけにした理由の一つかもしれない。祐子がスーパーで少し高めのロールケーキを買うことを躊躇(ちゅうちょ)したり、職場でパワハラのような目に遭いながらも耐えて働く姿に共感した人は多かったのではないだろうか。また、少し無神経ながらも愚直で憎めない、義光のキャラクターも非常にリアル。「突然大金が手に入る」という現実にはあり得そうにない設定ながら、キャラクターやストーリー展開に無理がなく「もし自分がこの立場だったら……」と視聴者が自分ごとのように楽しめたのだろう。

また、このドラマは「ライターズルーム」という手法を取り入れたことでも話題に。複数の脚本家がライターズルームという場に集って共同で脚本を執筆するという、海外ドラマでよく使われる手法だ。NHKは「日本発の面白いドラマを作る」という目標を掲げ、2022年にライターズルーム方式を取り入れた「WDRプロジェクト」 をスタートさせた。今回の『3000万』は、このプロジェクトで選出された4人の脚本家によって書かれている。複数の脚本家が互いの持ち味や得意分野を掛け合わせることで、ストーリーに意外性や奥行きが生まれ、目が離せない展開に仕上がったのではないだろうか。「日本発の面白いドラマを作る」というNHKの試みは、見事成功したといえるだろう。

視聴率(※REVISIO調べ、以下同)は2.6%と奮わなかったが、SNSでは「緊張感があって面白い」「スリリングな展開に期待大!」といった声が上がっており、今後の視聴率上昇も期待できそうだ。

  • 秋ドラマ初回注目度ランキング

謎の多い展開に目が離せない

2位はTBS『ライオンの隠れ家』。柳楽優弥のTBSドラマ初主演となる本作品は、弟のために生きる兄・洸人と、自閉スペクトラム症の弟・美路人という平穏に暮らす2人の前に「ライオン」と名乗る男の子が現れ、2人はある事件に巻き込まれていく……というストーリーだ。1位の『3000万』と同じく、男性注目度2位、女性注目度1位と性別問わず高い注目を集めた。

市役所勤めの青年・洸人(柳楽)は、弟の美路人(坂東龍汰)と2人暮らし。自閉スペクトラム症の美路人はこだわりが強くイレギュラーが苦手なため、2人は毎日ルーティン通りの生活を送っている。しかし、ある日突然「ライオン」と名乗る謎の男の子がやってきたことで、2人の穏やかな生活は一変。しかも、ライオンが持っていたスマホには「じゃ、あとはよろしく」というメッセージが残されている。ライオンは一体誰の子なのか。誰が、どんな目的で洸人と美路人に託したのか……そんな謎を軸に、ストーリーが展開していく。

「家族愛」や「兄弟愛」を描きながらもサスペンス要素が含まれており、謎の多い展開に目が離せない視聴者が多かったようだ。特にライオンが虐待を受けていたと思わせるような描写があり、母親の立場である視聴者が注目したことも、女性注目度の上昇につながったのかもしれない。

キャスト陣の高い演技力も、このドラマの魅力を高めている要素の一つだろう。主演の柳楽の、優しさがにじみ出るようなお芝居はさすがだ。今注目の若手俳優・坂東龍汰は自閉スペクトラム症の青年という難しい役どころだが、その演技に絶賛の声が集まっている。SNSでも「自閉スペクトラム症の息子と同じ仕草・表情でびっくりした」「めちゃくちゃリアル」という声が上がっているほど。ライオン役を演じている子役の佐藤大空も、そのかわいらしさと自然なお芝居で多くの視聴者の心をわしづかみにしている。

早くも「今期ナンバーワンドラマ」との声が上がっている本作品。初回はほのぼのした雰囲気だったが、今後謎が明らかになるにつれシリアスな展開になることが予想される。注目度がどう変化していくのか、その動向にも注目したい。