【薬学部教授が解説】病院から処方箋を出される「処方薬」。薬の値段は同じですが、どの薬局に持っていくかで支払額が異なります。「調剤基本料」に差がある理由、薬局ごとの役割と活用法について、分かりやすく解説します。

◆Q. 処方薬の支払額が薬局によって違う……安い薬局の選び方は?

Q. 「病院を受診した後、処方箋をいろいろな薬局に持参していましたが、最近になって、同じ薬をもらっているのに支払い時の値段が薬局によって違うことに気付きました。市販薬のように処方薬でも安く売っている薬局があるということでしょうか? 高かったり、安かったりします。安い薬局の見分け方があれば知りたいです」

◆A. 薬の値段は同じでも、「調剤基本料」が薬局によって異なります

病院で発行された処方箋をどの薬局に持参しても、薬が同じなら支払額は変わらないと思っている方が多いようですが、実は薬の値段自体は同じでも、どの薬局に持っていくかで支払う値段が異なります。

処方箋を薬局に持参し、薬をもらうときに支払う「お会計」は、厚生労働省が2年おきに改定している「調剤報酬点数」(1点=10円)に従って決まります。

この調剤報酬点数は、基本的に「調剤技術料」「薬学管理料」「薬剤料」「特定保険医療材料料」という4項目で構成されています。さらに2024年10月からは、これら4項目以外にも「選定療養」の費用が加わりました。

このうち、「調剤技術料」はさらに

・調剤基本料……薬局の設備や機器などの使用に対する費用

・薬剤調製料……薬の調剤に対する費用

・各種加算料……錠剤を砕いて粉末状にするなどの特別な調剤を行ったときの費用

の3項目に分けられます。

そして意外と知られていないのが、「調剤基本料」は、処方箋の内容によらず、どの薬局を選ぶかで大きく異なるということです。「調剤基本料」とは何なのか、以下で解説します。

「調剤基本料」とは、本来「調剤に関して薬局が備えた機能に対して国が定めた評価」の意味があります。請求される患者さんの立場からみれば、毎回調剤薬局を利用するたびに支払わなければならない「基本料金」に相当するものです。

遊園地などの施設の「入場料」のようなものと考えれば、さらに分かりやすいでしょう。以前はどの薬局もほとんど同じだったのですが、2016年の調剤報酬の改定から、薬局の立地や役割、規模の違いなどによって細かく区分され、かなり違う点数が設定されることになりました。

もっとも高いのは「街中などにある小さな個人経営の薬局」です。

こうした薬局は地域に根差しているので、住民の人たちが生き生きと暮らしていけるように健康サポートを行うことや、患者の自宅の近くで「かかりつけ薬局」としての機能を十分果たすために患者が複数の医療機関から処方された薬をまとめて管理すること、また、他の医療従事者と連携をとりながら在宅医療を提供することなどの役割が求められます。

それらに応えるためのコストもかかることから、国から高い評価を受けており、報酬も高く設定されているというわけです。このような薬局は、事前に届け出ておくことにより、「調剤基本料」として1回45点(2024年現在)の報酬を得てよいことになっています。

ですので、皆さんがそれらの薬局を利用したときには、450円の収入が計上されます。「調剤基本料」には保険が適用されますので、3割自己負担の場合は、135円を患者本人が支払い、残りの315円は健康保険から支払われることになります。

それに対して、病院の前にある薬局、いわゆる「門前薬局」は、病院を受診した帰りに患者が次々と立ち寄り、たくさんの処方箋を持ってきます。もちろん重要な役割を持っていることに変わりはありませんが、かかりつけ薬局に求められるような細かな管理や特別な努力をしなくとも、効率的な経営が可能です。

ですので、「調剤基本料」の点数は29点(同じく2024年現在)と低く抑えられています。3割負担なら290円のうち87円を患者が支払います。

ちなみに、もう一つの区分としてドラッグチェーンの薬局があります。グループ内の総店舗数、各店舗の処方箋受付回数、処方箋集中率(特定の医療機関からの処方箋が占める割合)によって、「調剤基本料」は24点、19点、35点の3種類があります。

詳細は割愛しますが、同一グループ内の店舗数が多く、処方箋枚数や集中率が高いほど、収益率は高いと予想されることから、評価点数は低くなります。

皆さん自身が利用している薬局で薬をもらうときに渡される「調剤明細書」を見ると、「調剤基本料」という項目がありますから、そこが何点になっているかを一度見てみましょう。

「1円でも安いほうがいい」という考えなら、調剤基本料が19点と最も安い薬局(同一グループで300店舗以上、毎月40万回を超える処方箋を受け付けているような大手でチェーン)を選んで処方箋を持参するのもよい選択と言えます。

最近は、WEB上で「自宅近くで安い薬局」を一括して調べられるアプリなどもあるようですから、利用してみてもよいでしょう。

ただし、持病があり定期的に複数の医療機関を利用されている方や、チェーンの薬局には在庫がないような薬が必要な方などは、「とにかく安いほうがいい」と考えるべきではありません。

自宅近くのかかりつけ薬局を選ぶことで、より安心して手厚いサービスを受けることができます。自己負担の支払いでみれば1回80円ほどの出費で済みますので、かかりつけ薬局を選択することをおすすめします。

◇阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。

文=阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)