2026年のロサンゼルスパラリンピックに向けた柔道の新たな戦いがスタートした。新階級で行われた「第39回全日本視覚障害者柔道大会」から見えた課題とは――。
10月27日、講道館で行われた視覚障害者柔道の日本一決定戦。J1(全盲)J2(弱視)のクラス分けこそなかったが、男子4階級、女子3階級(女子70㎏超級は参加者なし)、さらに男子シニア、男子無段、女子無段も含めて10人の日本一が誕生した。
金メダリストの瀬戸は欠場柔道は、パリパラリンピックでベテランを含む4選手がメダルを獲得している。だが、熱戦が繰り広げられた全日本の試合にメダリストの姿はなかった。
「十分な練習ができていない」「手術をしたばかり」……選手たちが出場しなかった理由は様々だ。
そんななか男子73㎏級金メダルを獲得した瀬戸勇次郎は、パリのメダリストで唯一今大会にエントリー。しかし、全日本の約1週間前に欠場を発表した。
特別表彰で称えられたパリ2024パラリンピックの柔道日本代表選手東京大会で66㎏級、3年後のパリ大会は73㎏級で戦った瀬戸。ロサンゼルスに向けてIBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)が新設した階級では男子の最軽量級が70㎏級、その1つ上が81㎏級になるため、70㎏級で戦うことになる。しかし、9月6日に73㎏級の金メダルを獲得した瀬戸の体重は、10月27日時点で74㎏程度。筋力アップしてきた身体を新たな階級で戦う体重に絞ることはできなかった。
「やっぱり73㎏級で戦えるだけの体を作り、無理に膨らませてきたので、それを1ヵ月半で戻せるかと言われたら……ちょっと難しかったです」
特別表彰を受けた金メダリストの瀬戸(右は同じく金メダリストの廣瀬)瀬戸は「70㎏は適正体重」としながらも、3年前の方針変更から続くIBSAの階級変更に、複雑な心境を隠せなかった。
現在は大学院生。来春には社会人になる予定であり、日本代表としてパラリンピックを目指すかどうか決めていない。
それでも国内の大会は出場するつもりだと言い、「今ある階級だと、70㎏級じゃないと……81㎏級まで上げるのはちょっと……」と苦笑いを浮かべていた。
男子70㎏級は混戦模様瀬戸が不在の男子70㎏級は、9人が出場。アトランタ(65㎏級)シドニー(66㎏級)アテネ(66㎏級)パラリンピックの金メダリストである藤本聰らが存在感を放っていた。決勝ではその藤本を、60㎏級だった櫻井徹也が抑え込んで一本勝ちし、初優勝を決めた。
東京パラリンピック後に組んで始まる視覚障害者柔道を始めた34歳の櫻井なお、同階級の3位決定戦は、阿部一輝がライバルの兼田昂暉を大内刈りで退けた。
男子はこの階級の選手が中心になって世界に出ていくと思われるが、これまで多くの海外遠征に帯同してきた日本視覚障害者柔道連盟の若林清事務局長はこう話す。
「肌感ではあるが、日本を含むアジア圏は軽いクラスの選手がとくに多い。60㎏級がないので70㎏級が激戦になる」
世界大会にも出場している兼田世界的に各階級における競技人口のバラつきが問題になりそうだ。
女子もパリで廣瀬順子が金メダルを獲得した57㎏級あたりの選手が多い印象だが、57㎏級はなくなり、52㎏級、60㎏級、70㎏級、70㎏超級という区分になる。
パリで半谷静香が銀メダルを獲得した48㎏級も消滅し、最軽量級は52㎏級に。
ベテランの半谷は銀メダルを胸に笑顔男子同様に、女子も軽量級が統合される。そのことについて半谷は「悪くはないが、(新設の最軽量級は)52㎏級よりも50kg級がベストだと思う。小柄なアジアの選手の活躍の舞台が減ってしまうイメージがある。私のライバルたちもやっぱりアジア圏が多い。男子はもうちょっと下の階級をつくったほうがいいと思う」と述べている。
今後、IBSAの国際大会では、ロサンゼルスパラリンピック出場のためのポイントにはならないオープン種目として軽量級が実施される話もある。
半谷は、52㎏級で愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会を目指す。「48㎏級では力負けしないというのが私の売りだった。4kg変わるのは大変なことなので、体づくりからもう一度始めていこうと思っている」と前を向いた。
国際クラス分けでJ1(全盲)に区分される半谷が出場しなかった同階級は、3選手が参加。総当たり戦の末、J2(弱視)の藤原由衣がリオパラリンピック代表(52kg級)の石井亜弧らを抑えて優勝した。
笑顔を見せる藤原(写真中央)。階級は48㎏級からもともとの52㎏級に4年後のロサンゼルスは、女子70kg級(J2)で戦う小川和紗の3大会連続メダルなどの期待もあるが、日本は男女ともに選手層の薄さが課題。今後、日本視覚障害者柔道連盟は新たな強化体制を整えていくという。
男子29人、女子10人がエントリーしたtext by Asuka Senaga
photo by Takamitsu Mifune