普通のレイバンをスマートに
Ray-Ban Metaは、ほぼ通常のメガネと同じデザインながら、カメラ/スピーカー/マイク(とバッテリー)を搭載したスマートグラスです。いわゆるARグラスとは異なり、ガラス面に映像などを表示することはできません。そうした機能がないため無線でスマートフォンに接続されます。
一般的なARグラスは、メガネとしては不自然なデザインが多いのが難点です。だいぶ小さくはなってきていますが、それでもまだまだ大きなサイズになってしまいます。また、ケーブルでスマホと接続するというものもあります。
Ray-Ban Metaは、そうした表示機能がないため、メガネとしては不自然ではないデザインです。これまでもオーディオグラスとしてHUAWEI Eyewearのような製品もありましたが、それに対してカメラを搭載した点がポイントです。
今回購入したのは「Wayfarer」。レイバンの伝統的なデザインで、通常のデザインと大きな差はありません。少しツルが太い感じはありますが、取りあえず自分の顔にはぴったりフィットしました。
最大の特徴であるカメラについては後述するとして、まずはサウンド関連から。HUAWEI Eyewearなど、従来のメガネと変わらないデザインで音楽が聴けるという製品はいくつか登場しています。
オープンイヤー型というか、指向性のあるスピーカーをツルの部分に搭載して、耳に向けてサウンドを飛ばすという仕組みによって、周囲への音漏れを最小限にしながら、十分な音量で音楽を聴くことができます。
Ray-Ban Metaも同様で、音質面では十分以上という印象。低音から高音まで比較的バランスよく聞こえます。低音は弱めにも感じますが、このあたりはどこまで許容するかでしょう。
耳は開放されているので周囲の環境音も聞きやすく、逆に言えば騒音下ではスピーカーからの音は聞こえづらくなります。それに対抗して音量を上げると音漏れも大きくなるのでバランスが難しいところ。基本的には特に公共交通機関内で音楽や映画、ゲームなどを聞くために使うようなものではありません。
通話のマイクとしても利用可能。複数のマイクを搭載しているためか、音質は問題ないようで、比較的小声でも音を拾ってくれます。これも周囲の環境音の程度次第ではありますが、他社と比較しても問題は感じませんでした。
楽しく便利なカメラ
肝心のカメラはメガネの左上に配置されており、少し内側に向けて角度がついているため、真っ直ぐ見たときに正面が撮影できるようになっています。反対の右側にも同じように円形のデバイスが埋め込まれていますが、これはLEDライトで、撮影時に発光して周囲に撮影中と知らせる役割を担います。
カメラのスペックは1,200万画素で、動画はフルHDで記録されます。内蔵メモリは32GB。レンズの実焦点距離は2.24mm。センサーサイズが不明なので35mm判換算時の焦点距離は不明ですが、恐らく17mm程度の超広角レンズでしょう。取りあえずシャッターを切れば眼前の景色はざっくりと切り取れます。
当然、モニターはないので細かな構図は決められません。せいぜい「どちらを向くか」ぐらいです。逆に言えば気軽で手軽。超広角なので視界に収まっているものはおおむね撮影できます。
シャッターボタンは右側のツルの上にあり、押し込むことでシャッターが切れます。ただし撮影は即時ではなく、押して最初の電子音の後、一拍置いてシャッター音が鳴って撮影されます。いうならばレリーズタイムラグですが、トータルでは1秒弱ぐらいでした。
そのため、ジャストのタイミングで写真を撮るのは難しいでしょう。そもそもそういうためのカメラではなさそうです。それでも、常にカメラを構えているのと同等で、「スマートフォンを取り出しカメラを起動して撮影」という一連の動作をトータルのレリーズタイムラグだと考えると、それよりははるかに高速です。
しかも撮影に焦って端末を落とす心配もないですし、画面もないので細かな構図を考える必要もほとんどありません。
静止画だけでなく、シャッターボタンを長押しすることで動画撮影も可能。動画はフルHDで記録されます。こちらも手軽に撮影できるので、非常に気軽に撮影できます。LEDが発光し続けるので撮影中だと分かりますが、周囲の人たちが気付いていたかは不明です。もちろん、他人のプライバシーなどに配慮する必要があるのはいうまでもありません。
個人的に嬉しいのは、位置情報が自動的に記録されている点です。手持ちのミラーレスカメラでは位置情報が記録されないため、特に旅先で場所を記録したいとき、毎回スマートフォンでも撮影していたのですが、カメラを構える前に1枚、Ray-Ban Metaで撮影しておけばいいのでより気軽です。位置情報だけなら、カメラを構えつつRay-Ban Metaでも撮影しておけばよく、これは両手がフリーになるメガネ型カメラならではです。
撮影画像はメモリ内に保存され、スマートフォンに転送できます。転送はWi-Fiを使っているようなのですが、アクションカメラなどの一般的な転送と違い、Wi-Fiの接続設定も不要でスピードも高速で安定しています。最初はBluetoothのみで転送していると思ったぐらいです。設定すれば、「メガネを外してツルを畳む」と自動的に転送する設定も可能です。
音声を使ってスマートに操作
Ray-Ban Metaを使うにあたって、特に便利なのが音声制御の機能です。
Ray-Ban Metaでは、「Hey Meta」と呼びかけることで音声制御が可能になります。写真を撮るときは「Hey Meta, Take a photo」、動画撮影をするときは「Hey Meta, Take a video」です。
「Hey Meta」と呼びかけた段階で電子音が鳴り、命令をすれば写真や動画を撮影します。動画撮影を止めるときは「Hey Meta, Stop recording」と言うと、「Hey Meta」と言う直前までの動画が記録されます。
ちなみに、「Hey Meta」以降の言葉は日本語非対応ですが、かなりざっくりとした言葉で実行してくれます。「Photo」や「Video」のかわりに「Picture」や「Movie」と言っても反応しますし、単に「Hey Meta, Photo(Video)」だけでも撮影してくれます。他には時間やバッテリー残量も音声で聞くことができますが、正直に「Hey Meta, How much battery is left?」などという必要もありません。「Time」や「Battery」だけでも回答してくれます。
いずれにしても、カメラを構えるために両手が塞がっていても、その場で撮影ができるのは便利です。スピーディにテンポ良くシャッターが切れるわけではないので少し慣れが必要ですが、取りあえず周囲の様子を撮影するなら快適です。
描写性能は、今どきとしては珍しいシンプルな12MPカメラで、晴天時にはまずまずの写りながら、屋内や曇天時など光量が足りないとすぐにノイジーになります。思ったよりも画質は良いのですが、過度な期待は禁物。動画のイメージも同様ですが、思ったよりもブレが抑えられているので、歩きながらの撮影も十分活用できます。特に録音性能が強い印象でした。
個人的には、「音声録音だけ」の機能が使えれば面白かったように感じました。動画は連続撮影時間が3分(当初は1分のみ)に限られているので、音声録音のみもう少し長時間録音できたら便利そうだと思います。
また、撮影結果はすべて縦型になります。横向きに寝て撮影すれば横位置にはなりますが、普通にメガネをかけた状態で撮影すると静止画も動画も縦位置での撮影になります。SNSなどには適していると言いますが、「視界を収める」という意味では違和感があります。
35mm判換算17mm程度の焦点距離なので、視界よりも広い範囲が記録されるのですが、縦位置になるので、上下は想定外の範囲まで記録される反面、左右は予想よりも狭い範囲しか写りません。まだ横方向であれば予測も付けられそうですが、縦となるとどこまで写っているか予測もできません。
さらにモニターのないRay-Ban Metaの場合、写真を撮るときに「見たまま」記録されることを想定してしまいます。しかし人間の視野は横方向に広いため、縦長画像は「自分の視野」としては不自然な印象が拭えません。視界に映っていたものが、撮影したら写ってなかったという結果になってしまうわけです。
それでも広角レンズぐらいの範囲は撮影できるのですが、縦に長い分、横に物足りないという印象を強いのです。個人的にはアクションカメラでよくあるように、センサーの一部を切り出すことで縦横を自由に切り出せるようにすると良かったと感じます。それならば縦位置でも横位置でも任意に切り替えて撮影できるからです。
個人的に縦動画に慣れていないのも扱いの難しいところです。記録時間も最大3分なのでTikTokなどのショート動画向けなのですが、いかんせん、自分にそういうニーズはないので、使いどころの難しい機能になっています。とはいえ、簡単に気軽に動画が撮影できるのは変わりないので、ひとまず撮っておくと、あとで見返すのも便利です。
繰り返しですが、かなり人に気付かれにくい状態で撮影できるため、自分を律することができない人には向きません。盗撮などはしないという人が使うものです。
音声コントロールは限定的
音声機能はほかにもあります。Meta製品ということもあって、FacebookとInstagramと連携できます。Facebookの友だちに連絡(「Hey Meta, Call ○○」)したり、メッセージを送信(「Hey Meta, Send a message to ××」)したり、写真を送ったり(「Hey Meta, Send my last photo to △△」)できます。
Instagramへの投稿もできます。「Hey Meta, Share a photo to my Instagram story」、「Hey Meta, Share my last photo to Instagram」といった具合です。InstagramをFacebookに置き換えればFacebookへの投稿も可能。Threadsと連携しない点は疑問ですが、音声だけでもある程度のSNS利用は可能になっています。
ライブ配信も行えます。InstagramやFacebookのライブ配信を起動してRay-Ban Metaが接続されていることを確認したら、カメラの撮影ボタンをダブルクリックします。するとライブ配信用のカメラがRay-Ban Metaに切り替わるので、後はライブ配信を始めるだけです。
文字通り自分の目線でライブ配信できるので、慣れた人ならば面白いライブ配信もできるのではないでしょうか。カメラを構える必要がなくて手軽で、声も取り込みやすいというのは大きなメリット。この場合も撮影しているかどうかが分かりづらいので、周囲の人への配慮はより一層必要ですので、注意しましょう。
ほかには音声で音楽の再生(「Hey Meta, Play」)、曲送り(「Hey Meta, Next song」)なども可能です。
ツルの側面をタッチすることでのタッチジェスチャーにも対応。タッチで音楽再生、ダブルタッチで曲送り、スワイプで音量変更などが可能です。
音声操作には対応していますが、スマートフォン全体のコントロールやほかのアプリなどとの連携はいまいちです。よくある、タッチジェスチャーによる外部の音声アシスタントの起動は非対応で、例えばGoogleアシスタント(Gemini)の起動はできません。
音声通知も、例えばGmailやLINE、X、その他各種アプリの通知も非対応です。FacebookやInstagramの通知は音声でしてくれるのに、このあたりは不便な点です。
今後のAI対応に期待
Ray-Ban Metaには、今後AI機能も搭載されると予告されています。すでにベータ版として米国ユーザーには提供されているようですが、フランスで購入したためか、現時点で利用できる状態になっていませんでした。
ただ、カメラで撮影したときにレンズに髪の毛が写っていたかどうかを警告してくれる機能(撮影後に「Camera was covered by hair」とのメッセージが流れる)があり、リアルタイムにカメラの画像を解析していることが分かります。
現状では、カメラに写ったものを教えてくれるGoogleレンズ的な機能やQRコードの読み取り機能などが予定されているほか、音声翻訳機能も提供予定とされています。
現状、日本語にまったく対応していないため、例えばFacebook Messengerの通知でメッセージ内容の読み上げも機能しません。音声翻訳機能も現状日本語はターゲットに入っておらず、日本での販売も当分はなさそうです。
言語の壁を越えられないというAIとしては中途半端な状態ですが、これはAppleやMetaのような巨大企業でもまだまだ研究が足りていないということでしょう。いずれにしても、メガネにカメラが搭載されると夢が広がります。
自分自身は今までメガネをかける習慣がなかったのですが、すでに老眼が始まっているのでそのうちメガネが必要になりそうで、そうしたときに常にかけるメガネにカメラが搭載されていれば、自然に撮影ができるようになります。さらに、周囲の映像を取得できるため、自然と「スマホの目」となってスマートフォンが世界を認識できるようになります。
メガネ自体がディスプレイ化したARグラスではないため、できることは限られますが、カメラを搭載するとスマートフォン自体も進化する。Ray-Ban Metaはそんな可能性を想像させる製品でした。