2025年の年金制度改正に向けて、「在職老齢年金制度」の見直しが議論されています。将来的には廃止も検討されている「在職老齢年金制度」ですが、現行では、年金と給料の合計が50万円を超えると年金がカットされる仕組みであるため、働き損の状況を発生させています。
この記事では、在職老齢年金制度の仕組みをわかりやすく解説するとともに、年金がカットされない給料の額が瞬時にわかる「在職老齢年金早見表」を掲載しています。働き続けたいけど、年金カットが心配という方は、ぜひチェックしてみてください。
在職老齢年金とは
老齢厚生年金を受給している人が、厚生年金の被保険者として働き続けると、年金と給与の合計額によっては、年金がカット(支給停止)されることがあります。この仕組みを「在職老齢年金」といいます。老齢基礎年金は影響を受けません。
年金が支給停止となる計算式をみていきましょう。
「基本月額」+「総報酬月額相当額」=50万円以下
→支給停止されない(全額支給)「基本月額」+「総報酬月額相当額」=50万円超
→超えた額の1/2が支給停止
基本月額とは、老齢厚生年金の報酬比例部分の金額を月額にしたものです。
総報酬月額相当額とは、給与の平均月額と過去1年間の賞与を12で割った額を足したものです。
例を用いてシミュレーション
<例1>
老齢厚生年金(報酬比例部分)を120万円受給しているAさんは、月30万円の給料と年2回48万円の賞与をもらっています。
基本月額: 10万円(120万円÷12)
総報酬月額相当額: 30万円+8万円(48万円×2÷12)=38万円
10万円+38万円=48万円
50万円以下であるため、Aさんの年金は支給停止にはならず、全額受け取ることができます。
<例2> 老齢厚生年金(報酬比例部分)を120万円受給しているBさんは、月35万円給料と年2回60万円の賞与をもらっています。
基本月額: 10万円(120万円÷12)
総報酬月額相当額: 35万円+10万円(60万円×2÷12)=45万円
10万円+45万円=55万円
50万円を5万円超えているため、5万円の1/2である2万5000円が支給停止となります。よってBさんの年金の月額は7万5000円となります。
支給停止となるのは、50万円を超えている期間だけであり、給料などが下がって50万円以下となれば、年金の月額は本来の額に戻ります。
在職老齢年金早見表
年金と給料の関係をわかりやすく表にしてみました。横軸は年金、縦軸は給料になります。
年金は老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額(基本月額)、給料は月給と、賞与を月換算した額との合計額(総報酬月額相当額)になります。白地部分の数字が支給停止となる金額(万円)です。
在職老齢年金の支給停止額早見表
老齢厚生年金の報酬比例部分を月額10万円受け取っている人の場合、給料を41万円もらうと年金が5000円支給停止となり、 60万円を超えると全額支給停止となります。
在職老齢年金の注意点
在職老齢年金制度にはいくつかの注意点があります。ここで確認しておきましょう。
加給年金
加給年金は基本月額に含みません。そのため、老齢厚生年金の一部が支給停止となっても、加給年金は全額支給されます。ただし、老齢厚生年金が全額支給停止になると、加給年金も支給されません。
繰下げ受給
在職老齢年金による年金額の調整は、繰下げ受給をして、実際は年金を受給していなくても、65歳からの本来の受給額で計算されます。支給停止となった額は繰下げ受給の増額の対象となりません。そのため、全額支給停止となった場合は、繰下げ受給をしても老齢厚生年金部分の増額はいっさいありません。(老齢基礎年金は全額増額されます)
在職老齢年金で支給停止になる人はどのくらいいる?
国税庁「民間給与実態統計調査」によると、2023年における65歳以上の給与所得者の数は550万人となっています。10年前の2013年は377万人、5年前の2018年は523万人であり、着実に増えていることがわかります。65歳以上の人口に占める給与所得者の割合でみても、2013年の12.1%から、2023年は15.2%と3.1ポイント上がっています。65歳以降も仕事を続ける高齢者が増えていることは間違いないでしょう。
では、65歳以上の給与所得者の平均給与はどのくらいでしょうか。同調査から平均給与をみてみると、65歳から69歳は354万円、70歳以上は293万円と、全体平均の460万円よりも大分少ないことがわかります。
ここで年金と給与の平均額を使ってシミュレーションしてみます。
- 厚生年金受給者の平均受給額は約14万4000円(※)
- 65歳から69歳の平均給与354万円、月額は約30万円
※厚生労働省「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」より
厚生年金の平均受給額には基礎年金も含まれているので、基礎年金の満額6万5000円を除くと報酬比例部分は7万9000円となります。 合わせて37万9000円となり、50万円以下なので、支給停止にはなりません。
平均的な年金、給与収入であれば、在職老齢年金による支給停止はされないということです。
2018年のデータでは、65歳以上の在職老齢年金による支給停止者は41万人となっています。これは在職している年金受給権者の17%、年金受給権者の1.5%にあたります。年金を受給しながら、給与を得ている人たちの8割以上は、年金のカットはされていないということです。
参照: 年金制度の仕組みと考え方第10在職老齢年金・在職定時改定|厚生労働省
まとめ
在職老齢年金の見直しが検討される背景には、支給停止に該当しないように労働時間を抑える「働き控え」を招いている、労働意欲を阻害するなどの問題の解消があります。実際は、ここでお伝えしたとおり、支給停止に該当するほど、年金や給料をもらっている人は少ないわけです。支給停止になるのは、老後に年収600万円を超える収入がある人なので、そもそも支給停止となっても生活には困らないでしょう。
大半の人は在職老齢年金の支給停止を気にする必要はないと思います。長い老後のために、働けるうちは働いて、老後資金を増やしておくといいでしょう。