現在開催中の「第37回東京国際映画祭」で4日、映画『あゝ野麦峠』の4Kデジタルリマスター版上演イベントが行われ、主演の大竹しのぶがトークショーに登場した。
監督に「本当に死んじゃうから」と怒られる
山本茂実の同名小説を原作に、明治期、岐阜・飛騨地方から野麦峠を越え、長野・諏訪地方の製系工場に働きに出た少女たちの姿を描く同作。公開された1979年の邦画配給収入で2位となったヒット作だ。
雪山で滑落する衝撃的なシーンの撮影について、「本当に危なかったんです」と回想する大竹。「私が落っこちていくのを自分でやりたいと言ったら、(山本薩夫)監督に“そういうことやってたら本当に死んじゃうから!”と怒られてたんです。でもまだ若かったから悔しくて。一応短いカットでは、私たちが本当に雪の中を転がりました」と体を張っていた。
少女たちの仕事は、繭(まゆ)から生糸を取る「糸取り」。熟練の技術を演じるため、朝から晩まで2週間程度練習したそうだが、「そうすると電車に乗ると周りの人が“ウッ”って(不快)になるくらい本当に繭臭くなってました」と、体に染み付いてしまうことに。その臭いは「今でも思い出すことができるんですけど、例えようがない臭いなんです。動物のような感じで、あんまり思い出したくない臭いです」と、厳しい環境で撮影に臨んでいた。
今の撮影スタイルは「ちょっと寂しいです」
山本薩夫監督は優しい人柄だったそうで、撮影、照明、録音機材をスタッフが担いで撮影場所まで登ろうとすると、その機材を一つ持ってあげるという親分肌。出演者にも慕われ、大竹は「さっちゃん先生(山本監督)のために何かしたいと思って、さだまさしさんの歌をプレゼントしました(笑)」と、あどけない少女らしいエピソードを明かした。
また、「撮影部さん、照明部さん、録音部さんの名前もお顔も全部覚えてたし、そうやってみんなで作品を作るという時代に私たちは遭遇することができて、本当に良かったなと思います。今はちょっと寂しいです」「今は(画)コンテを描く人も、特にテレビではいないですし、“とりあえず撮るんじゃないよ!”と思うときもあります(笑)」と吐露。
その上で、「きちんとした思想を持って映画を作っていた方なので、今の時代にこの映画を見ていただけるということが、本当にうれしいです。監督に代わってお礼を言いたいです」と感謝した。
『あゝ野麦峠』4Kデジタルリマスター版は、続編の『あゝ野麦峠 新緑篇』(82年公開)の4Kデジタルリマスター版と合わせて、日本映画専門チャンネルで2025年1月に4K化テレビ初放送。同チャンネルでは、このトークショーの模様も放送される。
最後に大竹は「45年前の映画がこんな美しい形になって、娘も“すっごいきれいになった!”ってびっくりしていました。皆さんに見ていただくことができて本当にうれしいし、山本監督がどういう気持ちでこの映画を作ったのか、ちょっとでも皆さんの心に触れることができたらうれしいです。監督とスタッフに成り代わって、ありがとうを言いたいと思います」と改めて感謝していた。